表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/41

第40話「見えない境界」

 夜明け前の共存村は、ひどく静かだった。


 焚き火の火は落とされ、

 人族の居住区と魔族の居住区の間には、

 昼間よりもはっきりとした“距離”が生まれている。


 見張りの魔族が、

 村の外縁に立ち、森の奥を見つめていた。


 遠くで、

 木々を揺らす気配がある。


 人族の調査隊が来る――

 その噂は、すでに村中に広がっていた。


(……また、来るのか)


 見張りの魔族、カイルは、

 胸の奥に重たいものを感じていた。


 過去に、人族の恐怖が暴走し、

 魔族の村が襲われた夜を、

 彼ははっきりと覚えている。


 その時も、

 “様子を見に来ただけだ”と言われていた。


 共存村の中では、

 人族の住人たちが、家の灯りを落としながら、

 小声で話している。


「……調査隊が来るんだって」


「……また、何かされるの?」


「……ここにいるだけで、

 疑われるの、疲れるわ……」


 魔族の姿を見て、

 視線を逸らす者もいれば、

 逆に、必要以上に愛想よく振る舞う者もいる。


 どちらも、

 “恐れ”の別の形だった。


 カイルは、

 村の外れの小高い場所に登り、

 森の奥を見やった。


 夜の闇の中に、

 規則正しく並ぶ、小さな灯りが見える。


 ――魔族だけの村。


 人族の足が踏み入らない場所。

 争いも、監視も、疑いもない。


 そこでは、

 魔族の子どもたちが、

 夜更けまで笑っているはずだ。


(……帰れる場所は、あそこにもある)


 それでも、

 カイルは、共存村に残っている。


 ここは、

 “変わろうとしている場所”だからだ。


 背後から、足音がした。


 人族の青年が、

 水を汲みに来た帰りのようだ。


 視線が合い、

 互いに、少しだけ身構える。


 カイルは、

 意識して距離を取った。


 近づけば、

 相手が怯えることを、

 もう何度も経験している。


 人族の青年は、

 一瞬、何か言いかけて、

 結局、何も言わずに立ち去った。


(……声をかけるだけで、

 壁になる)


 それでも、

 声をかけないままでは、

 壁は、永遠に残る。


 その頃、

 魔王城では、ノアが報告を受けていた。


「……調査隊が、

 境界付近まで来ています」


 ノアは、短く頷く。


(……見られる側の時間だ)


 迎撃する気はない。

 逃げる気もない。


 見られることで、

 世界が“動く”なら、

 その役目は、引き受ける。


 共存村に、風が吹く。


 焚き火の灰が舞い、

 人族と魔族の間の、

 見えない境界線が、

 一瞬だけ揺らいだ。


 遠くの魔族の村の灯りは、

 変わらず、穏やかに揺れている。


 変わらずにいられる場所。

 変わることを選んだ場所。


 その二つの間で、

 共存村は、今日も息をしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ