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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

兄弟悲劇ごじつたん

作者: チャッピー 設定そるた
掲載日:2025/11/26

チャッピーにお願して話を書いてもらったよ

◆後日談:影の隣で老いていく湊


【Ⅰ:忘却から始まる余生】


湊が精神病棟に入ってから、季節は何度も巡った。


最初の数年、湊は毎日のように同じことを言った。


「弟が……今日も話しに来てくれて……」


看護師は沈黙したまま、湊の薬を置いた。

湊が見ているその“弟”は、どの誰にも見えない。


やがて記憶の断片が欠け始め、

数年が十年に変わるころには、湊自身の年齢すら曖昧になっていた。


「俺、いま何歳だっけ……?」


“弟”が答える。


『兄さんはずっと僕と一緒だよ。年なんて関係ないよ』


湊は安心したように微笑んだ。



【Ⅱ:施設の中で積み重なる老い】


湊の髪が白髪になり、

膝がきしみ、

視力が落ち、

肌にしわが増えても、


“遼”だけは、あの日のままの姿だった。


高校生くらいの若い顔。

冷たい瞳。

どこか実体があるようで、触れた瞬間に霧のように溶ける気配。


湊はそれが当たり前だと思っていた。

そう思うしかなかった。


看護師の一人が言った。


「湊さん、今日写真を撮りませんか? ご家族の記録として」


湊は首をかしげた。


「家族……遼しか……」


それでも写真撮影は行われた。


カメラのシャッター音が響く。

フラッシュが一度だけ白い部屋を照らす。


湊は微笑み、

その肩に手を置くしぐさをした。


隣に、確かに“遼”がいる気がした。



【Ⅲ:写真に写り込んだ“不在”】


現像された写真を看護師が手渡した。


湊はしばらく眺めていた。

そして、息が詰まった。


写真には――

しわだらけの老いた自分しか写っていなかった。


隣にいるはずの遼が、いない。


「……あれ……?」


湊は写真から視線を上げる。


ベッドの脇に、遼が立っていた。

若いままで、影が薄く、光を通しているような身体で。


湊は言った。


「どうして……写ってないの……?」


遼は微笑んだ。


『兄さんが忘れてるからだよ』


背筋に冷たいものが走った。


――忘れている?

――何を?


遼は続ける。


『兄さん。僕はあの日、死んだでしょう?』


写真の中の“空白”が急激に意味を帯びた。


湊の脳裏で、閉ざしていた記憶が裂ける。


狭い部屋、暴れる影、倒れる音、

自分の手、

赤黒い床、

動かない遼の身体。


「う、あ……あああ……!」


湊は写真を落とし、頭を抱え、震えた。


忘れていた記憶が一気に流れ込む。

封じられていた罪が形を取り戻す。


遼が、近づく。


『兄さんは僕を殺したんだよ。

でも、僕は兄さんを置いていけなかった。

ずっと一緒にいるよ。ねぇ――愛してるよ、兄さん』


耳元で囁く声は、あの日と同じ響き。


湊は叫んだ。


「やめろ!! 遼は……死んだ……死んだんだ……!」


だが遼の幻は消えない。

どれだけ首を振っても、腕を振っても、

視界の隅に必ず立っている。


怖い。

愛している。

逃げたい。

離れられない。


そのすべてが混じり合い、湊の心は限界を超えた。



【Ⅳ:最後の夜】


その日の夜、湊は自室の窓辺に立った。


足元には、破れた写真。

遼が写っていない、老いた自分だけの写真。


外は静かだった。

月が淡い光を落としている。


背後で、遼が囁いた。


『兄さん。僕から逃げるの?』


湊は震える声で返した。


「もう……楽にさせて……遼……」


『ダメだよ。兄さんは僕がいないと生きていけない』


その瞬間、湊は悟った。


逃げる方法はもう一つしかない。


ゆっくりと、窓を開けた。

夜風が肌に触れる。

足を一歩、外へ。


遼が湊の手首を掴んだ錯覚がした。


『兄さん、どこに行くの?』


湊は目を閉じた。

涙が零れた。


「一緒に……終わりにしよう……」


次の瞬間、湊の身体は宙に浮き、

暗闇へと落ちていった。


遼の幻影は、最後まで彼の隣にいた。



【Ⅴ:遺体発見と、その後】


翌朝、看護師が中庭で倒れている湊の遺体を見つけた。


その表情は、不思議なほど穏やかだった。


しかし――

遺体の少し横の地面には、もう一組の足跡が残っていた。


小さく、若い男のもののような、はっきりとした足跡が。


病棟のカメラには、湊しか映っていない。

けれど湊の遺体の横には、

あの日と同じ形の影が伸びていたという。


その影だけは、誰にも説明できなかった。



◆完

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