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第6話 異世界人である証明

早速、エレナを呼びに行こう。


俺は部屋を出て1階へ向かった。


家の手伝いで掃除をしていたエレナを見つける。布巾を手に、テーブルを丁寧に拭いている姿が印象的だった。


「エレナ、今時間作れるかな? 今朝見せたあのスマホで何ができるか分かったんだ。それを見せたくて」


「え!? わかったの?」


興奮のあまり、いつもの丁寧な口調を忘れてしまったようだ。布巾を置いて、目を輝かせている。


「あ、でもちょっと待って。お父さん、少しお客様の部屋に行ってもいい? 見せたいものがあるんだって」


「ああ、いいよ! 行っておいで」


受付で帳簿を確認していた店主が、穏やかに頷いてくれた。


「ありがとう」


「すみません、ありがとうございます」


頭を下げ、2人で俺が借りている部屋へと向かった。


部屋に着くと、俺は誰にも見られないよう扉をしっかりと閉めた。


「実は、このスマホのカメラ機能で写真を撮って、それを編集すると現実にも影響するんだ」


「え……? どういうことですか?」


エレナは首をかしげている。言葉だけでは信じられないのも当然だ。


「今朝ベッドの色を変えてみたけど、お店のものだから元に戻したんだ。でも……コレ見て!!」


俺は部屋の隅にある甚平を指差した。明らかに3着に増えている。


「え!? 増えてる……」


エレナは目を見開いて、甚平に近づいた。


「これも写真編集で複製したんだ。でもエレナには編集の過程が見えないから、信じにくいよね」


エレナは甚平を手に取って確認している。生地の感触を確かめ、匂いを嗅ぎ、本当に同じ物なのかを慎重に調べていた。確かに同じ物が3着ある。


「信じたいんですけど……その変わる瞬間とか、増える瞬間を実際に見てみたいです」


そこで、何をしたら良いか考えてみた。せっかくだから、エレナが喜んでくれそうなものがいい。


「何か色を変えて欲しいのとかある? 洋服とか」


「いいですね! この服の色を変えてみてください」


エレナは自分の着ている緑色のワンピースの裾を軽く摘まんで見せた。レースの装飾が美しく、とても似合っている。


「いいよ、何色がいい?」


「うーん水色にしてみようかな」


「わかった。朝写真を撮影してたから今回は撮影不要だな。……編集中でーす。よし!変更!」


変更の言葉と同時に一瞬微弱な光を纏った服。まるで魔法の光のように、服だけが光に包み込まれる。光が収まると同時に色が変わっていた。


「すごい!! 一瞬で色が変わった」


驚きの表情を見せたかと思うと、今度はこちらに一気にとびっきりの笑顔を見せてくる。その笑顔は、まるで子供が初めて魔法を見た時のような純粋な喜びに満ちていた。


「あなたが異世界からの人間だって信じます」


「いや、信じてなかったのかよ」


「そんなことないですけど、攻撃や回復などの戦闘系魔法しかない私たちの世界で、魔法のように服の色を変えてくれたんだもの。もーーーっと信じるって事です」


「ありがとう。そうなんだ、攻撃と回復とかしかないのか。言っとくけど、元の世界でもこんなことはできない。だから俺も驚いているし興奮している! こっちでお金を稼いだりする方法が見つかったかもしれないなって」


「そうなんですね。他にできることがわかったらまた教えてください。せっかく変えて下さったのに言い難いんですけど、やっぱり赤に変えてもらうことはできますか?」


「いいよ。構わない。あ! 一日に5回しかすぐにはできなくて、6回目以降はちょっと時間がかかるんだ。少し待ってくれ」


広告を見ないといけないことを思い出した。編集画面より赤に編集する。完了をタップしようとしたとき、右上の残り回数が1になっている。なぜだろう。そうだ。


(おはよう、オラクル)


『携太さん、どうしましたか?』


(起動時の言い方変わった?)


『はい。あなたが居た世界と違い、人間のように会話ができるため、都度都度言い回しが変わります。固定した方が良ければ固定します。いかがなさいますか?』


(そのままで構わない。そうだ、編集の上限だけど5回使ったはずなのに、右上の回数が減っていないんだ。なんでかわかる?)


『それは、五分以内の再編集及びキャンセルの場合は、使用回数がもとに戻ります。今回残り一回を使用したが、まだ5分経過まで30秒ほどあるので今だと広告なしで編集が可能になります』


(なるほど。ありがとう。急いで完了する)


残り30秒と聞いて急いで完了をタップした。


再び服が微弱な光に包まれ、今度は鮮やかな赤色に変わった。


「わぁ、可愛い! やっぱり赤に変えてよかった。ありがとうございます」


(た、確かにかわええ)


エレナの喜ぶ姿に、俺も思わず心の中でつぶやいていた。赤いワンピースが彼女の茶色の髪と良く合って、とても美しく見える。


「お父さんにも見せてきます! きっと驚きますよ」


エレナは嬉しそうに部屋を出て行った。鏡で自分の服を確認しながら、足取りも軽やかだ。まるで踊るように階段を降りていく。


俺は一人になった部屋で、今日発見したことを整理していた。5分以内なら編集を取り消せて、回数も戻る。これは大きな発見だ。実験もしやすくなるし、失敗を恐れずに色々試せる。


しばらくして、階下からエレナの興奮した声が聞こえてきた。きっと父親に服の変化を見せているのだろう。店主の驚く声も微かに聞こえる。


そして間もなく、エレナが階段を駆け上がってくる音が聞こえた。


「お客様! お父さんがお話があるそうです。下に来ていただけませんか?」


エレナの声は相変わらず興奮気味だった。頬も少し紅潮している。


俺は部屋を出て、エレナと一緒に階段を降りて行った。


1階に降りると、店主が受付の前で待っていた。エレナの赤い服を見て、まだ信じられないといった表情をしている。


「すみません、わざわざ来ていただいて。二人してここを離れるわけにはいかないので、ご足労をおかけしました。話はエレナから聞きました。娘がこんなに喜んでいるのも見るのは久しぶりです。本当にありがとうございます」


店主の声には、心からの感謝が込められていた。娘を大切に思う父親の気持ちが伝わってくる。


「いえいえ、これから長くお世話になるわけですし、異世界から来て一人ぼっちの俺が娘さんのおかげでかなり救われています。こちらも感謝していますので、あまり気にしないでください」


「そこでなのですが、1つご相談したいことがありまして。聞いていただけませんでしょうか」


深刻な顔をしていないので、難しい問題ではなさそうだ。


お世話になっているしできる限り解決したい。


まずは話を聞いてみよう。

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