第3話 宿屋に教わるイエン
1話2000文字以下に収めたいんです!でもできません!!
今回は、携太以外に初めて名前ありの名前が出てきます!
混乱しない様に徐々に名前を与えていきますので、覚えていってください(笑)
服屋を出ると、すぐ隣に宿屋があった。
看板には「宿 安眠亭」と書かれている。こじんまりとした佇まいだが、窓から漏れる温かな光が疲れた体には心地よく感じられた。
荷物があるが故に、扉を引いて開ける事に苦戦をしていたら、中から勢いよく開いた。
ドン!っと顔に扉が、それとボディに何かがぶつかってきた。
荷物を落とさず死守したが、顔がジーンとする……
我慢してるが声にならない呻きは漏れた。
「す、すみません! 大丈夫ですか?」
目の前には中学生ぐらいの女の子が立っていた。
ハツラツとしており、とても可愛げがある子だ。
「大丈夫。痛かったけど……」
つい大人気なく本音が出た。
奥から店主と思われる40歳ぐらいの男性が急いでやって来た。がっしりとした体格なのでクマが突っ込んできたのかと思うほどの恐怖を感じた。しかしそれとは真逆に、温かさを感じる声で心配された。
「大丈夫ですか? 大変申し訳ございません。うちの娘が……。お怪我はありませんか?」
「大丈夫です……。それより、今日から暫く利用させて貰いたいのですが……空き部屋はありますか?」
「今日の空きはありますよ? 何日お泊まりの予定で?……というか、どこから来たんです? 見慣れない服ですが」
まただ……。明日からは甚平では歩かなくなるから、何も言われなくなるだろうけど……。
「異世界です」
「……またまたぁ〜! 今日あった事知ってて言ってるでしょ……?」
店主は苦笑いを浮かべたが、俺が何も答えないでいると、その表情が徐々に変わっていく。
「……何か言ってくださいよ……。……ほ、本当に? だったら何故ウチに?! 城で部屋用意されるでしょうに」
「用意されなかったの!! 簡潔に言えば想定外の枠で飛んできちゃったんです!! だからポイ捨てされたんですよぉ!! 自分で言うの悲しいんですから!!!……はぁ……まぁ……のんびりとコチラで暮らせるから良いかなと思えてますけど。なのでとりあえず1ヶ月。それ以降は更新するかどうか考えるという事で。1番安いところでいいのでお願い致します」
返答を聞く前に、ふと周りを見てみた。
中はボロボロではないが、決して手入れの届いている宿とは言い難かった。古い木製のテーブルや椅子が所々に置かれ、壁の木材も年季が入っている。古き良きと言うべきか、味のある宿屋と言えるような感じではある。失礼だが、空きがない日なんてのはないのだろうと心の中で思ってしまった。それでも、店主の人柄やハツラツとした娘さんの雰囲気が気に入ったので、他を当たるつもりもない。
「構いませんが、前払いで1ヶ月分払って貰えます? 失礼ですが、先程のお話を聞くと……お金をお持ちなのかどうか……その服は盗んだ訳では無いですよね?」
「盗んでないですよ! お隣の服屋さんの同情かなんかでプレゼントして貰ったんです!……お金なら王様から貰いましたが、そもそも貰ったお金の価値が分からないんです……。すみませんが、コッチのお金について教えて貰えませんか?」
「あ! だったら私が教えますよ! 先程は本当に申し訳ありませんでした。ちょっとゴミを出すのに急いでしまってて……。急がなくていいのに。捨ててきて、手が空きましたので説明させて下さい」
少女は人懐っこい笑顔で手をひらひらと振った。本当に申し訳なさそうにしているが、その明るさに救われる。
「じゃあ、お言葉に甘えて、お嬢さんに教えてもらいますね?」
「ああ、教えるのは俺よりエレナの方が上手いと思うからそうしてください」
エレナと呼ばれた少女は、受付の前に置かれた待合用のテーブルの横に移動し、向かい合わせで座るように促してくれた。
俺は、お金の入った麻袋をエレナに渡した。
エレナは慣れた手つきで、中に入っていた物を全てテーブルに取り出していく。中には同じ金色の硬貨が30枚入っていた。それだけでは説明ができないのか、何やらお父さんと会話の後に違う形の硬貨を受け取り、それもテーブルに並べた。
「それでは説明していきますね♪」
そこで受けた説明はこうだ。
俺が貰った硬貨が1万イエン硬貨であり金貨だ。
銀貨には2種類あり、5千イエンと千イエンがある。違いは簡単に言うとサイズだな。大きい方が5千イエン硬貨で、小さい方が千イエン硬貨。
銅貨には3種類。500イエンと100イエンと50イエン。これもサイズが違う。それ以下の金額の硬貨はないとのこと。どれもサイズとデザインが多少違うが刻印された数字がある為俺でも覚えやすい。
また、ここの宿屋は1泊3000イエンとのこと。食事代には、500イエンから1000イエンで大体は済むとのこと。
つまり! 日本円と同じ感覚だから分かりやすい!
手元には30万円……いや、30万イエン持ってるということだ! 暫くは暮らせるお金を支給してくれていて助かった〜!
「わかりやすい。エレナありがとう! つまり俺は宿代だけで言ったら100泊出来るんだね?」
「そうです! でも……長期で泊まってもらえるなら割引するんじゃないかな? ……ねぇお父さん! 割引ありだよね?」
エレナは振り返って父親に確認を取る。その仕草がとても可愛らしい。
「ああ、もちろん! ……お客様1泊2500イエンでどうでしょうか」
「とても助かります! では、1ヶ月お世話になります」
名前を名乗り、手続きと支払いを済ませると、エレナが部屋へと案内してくれた。
2階の1番手前で、受付の真上に当たる場所だ。
「この部屋です! 窓からは表通りが見えますし、何かあったらすぐに呼んでくださいね」
おかげで、窓からは表の通りなどを眺める事が出来る。1番安い部屋ではないのに、計らいでこの部屋にしてくれたのだろう。
部屋は小さいが清潔で、必要なものは揃っている。ベッド、小さなテーブル、椅子、そして洗面台。質素だが居心地は悪くない。
「ありがとう、エレナ。とても良い部屋だ」
「えへへ、お役に立ててよかったです! それじゃあ、何かあったら遠慮なく声をかけてくださいね」
エレナが部屋を出て行くと、俺は一人になった。
いつの間にか夜になった街並みを眺めると、自分には東京は眩しすぎたのかもしれないと思った。今見ている自分に合った明るさと人々の温かさで、異世界を拒絶することがあるはずもない。
石畳の道を歩く人々の姿は穏やかで、どこか懐かしさすら感じる。遠くから聞こえる笑い声や、宿屋の下から聞こえるエレナと店主の会話も心地よい。
段々と疲れなのか安心感なのかが眠気を誘ってきた……。
ベッドに横になると、久しぶりに心から安らげる場所を見つけたような気がした。初めて、ベッドに自分の体が沈んでいくような心地を感じた。
明日からこの世界での新しい生活が始まる。
そんな期待を胸に、俺は深い眠りについた。
読んでくださりありがとうございます。
次回重要な話になるため、ここで辞めずに次までは最低読んで貰いたい!
引き続き時間を見つけて投稿していきます。
今後とも宜しくお願い致します。