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第28話 戦闘素人、どう戦う?

「おい! お前!!」


 後ろから声をかけられ、思わず俺の肩がびくっと反応してしまった。


 振り返ると、そこには見知らぬ男が立っていた。筋骨隆々とした体格に、腰には剣を下げている。その後ろには、さらに2人の男が控えている。合計3人か......。


 3人とも革の軽装備で、鎧などの重装備は身につけていない。身軽さを重視した装いのようだった。それでも俺の服に比べたら立派な装備だ。それにしても......


(なんてスピードで追いかけてきたんだ。早すぎる……)


『こいつらは地下にいた4人とは別だよ! 全員知らない顔だもん』


 ミントが教えてくれた。他にも仲間がいて、地下アジトに戻る途中で遭遇したのか。


『でも、麻袋持ってないね』


 チョコが気づいて教えてくれる。


(確かに……)


 俺も改めて3人を見た。新しい奴隷候補がいなかったのか、……はたまた何処かに報告か何かをする為の外出か。もしかしたら、この組織は想像よりも大きい物なのかもしれない。いずれにせよ、タイミングが最悪だった。


「みなさん、急いで後ろに下がってください! リリィちゃんを誰か!」


 俺は咄嗟に叫んだ。その時、地下で手伝ってくれた少年が率先して前に出てきた。


「俺が預かる!」


 少年がリリィちゃんを抱き上げ、他の人々と共に安全な距離まで下がる。


「貴様!地下の奴隷どもを逃がしたのか?…しかもこれだけの数…全員か?」


「まったく、アイツらは監視もろくにできねぇのか…呆れるぜ。でもまぁ…ここで俺らと会うんだから…運命は変えられないんだろうよぉ……ざ、ん、ね、ん、だったなぁ!?」


 チンピラのような1人が煽るように剣を抜きながら近づいてきた。


「みんなが救出されることが、運命かもしれませんね」


 柄にもなく煽り返してやった。相手の眉がピクリと動いたのがわかった。戦闘経験ゼロだが一応護身用ナイフを構える。それにしても、剣とナイフでは長さが違いすぎる。明らかに不利だ。


 1人目が勢いよく襲いかかってきた。俺は必死に身をかわす。剣先が俺の頬をかすめ、ヒリヒリとした痛みが走った。


 (痛っ!!……あれ? 痛みが引いた…?)


 瞬時にチョコが治してくれたのだろうか。今は気にしてる余裕がない。


「チッ、素早いな....。かすったと思ったのに」


 男が舌打ちをする。続いて2人目も攻撃してくる。俺は後ろに跳んで距離を取ったが、相手は剣の長さを活かして間合いを詰めてくる。


 素人の俺には彼らの動きの隙が全く見えない。ナイフを振り回しても、剣に弾かれるだけだ。間合いに入ることすらできない。


「何が救出されるのが運命だ。逃げてばっかりじゃないか。見ろよ!お前の戦いっぷりに、皆が!不安になってきているぞ」


 嫌なことを言ってくる3人目だ。チラリとみなの方に目を向けると確かに皆が不安な表情を浮かべている。リリィちゃんも泣き出しそうだ。


 俺は後退しながら必死に考えた。このままでは確実に負ける。何か策はないか……。もしかしたらと考えていた策はある。今はそれを試すしかないか。


 考え込んでいるうちに、3人が示し合わせたように俺を取り囲んだ。そして同時に剣を構え、一直線に三方向から一斉攻撃を仕掛けてきた。完全に逃げ場がない。


(今だ!)


 俺はアイテムボックスから川の水を取り出した。水鉄砲で威力を強くするイメージで、1番近い男の顔面めがけて放出する。


 ピュッ!……


 細い水流が顔に当たったが勢いは無い。


「うぁっ!なんだ!?何をしやがった!?」


1人の声に残りの2人も攻撃を止め、1度距離をとる為に後方に飛んだ。


「どうした? 大丈夫なのか?」


「分からないが、毒では無さそうだ。……水か?クソが!!ナメやがって!!」


 威力が全然足りなかった。次は3人とも足を止めることなく攻撃してくるだろう。


「小賢しい……」


「何も戦うすべがないなら、さっさと殺られてろよ!」


余計に怒りを買っただけだ。水や炎をイメージ通りに出せればと思ったが、やはり都合が良すぎるのだろうか。しかし、今は出来ると信じて戦うしかなかった。3人が息を合わせ、俺めがけ走ってくる。先程と違い、警戒や迷いのない程の速さで向かってくる。やるしかない。


(今度は太く多めの水を放水するようなイメージで!いけぇ〜!!)


 今度はイメージ通りの水流を3人に向けて放つことが出来た。


 ザバァ〜〜〜!


(よし!!どうだ!?)


 しかし…3人ともによろめく程度だった。


(くそ! 筋肉付けすぎだろ!)


「さっきから子ども騙しのような魔術使いやがって! そんな程度でやられるか!!」


 濡れた男たちが怒りを込めて再び襲いかかってくる。


「これで最後だ!!!死ねぇ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」


(ダメだ……もっと、もっと強く! 消防車の放水みたいに!)


 俺は必死にイメージを膨らませた。消防車が火災現場で放つ、あの圧倒的な水の勢いを。


 ドバァァァァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン!


 今度は凄まじい勢いの水流が3人を直撃した。


「なんて量だ!!」


「耐えられなぃ〜〜〜」


波のような水の壁が彼らを飲み込み、流されて大きな木や、その後ろに聳える城壁に激突した。


 戻ってくる水が、後ろの人々に向かう前にまたアイテムボックスへと吸収した。


 3人は地面に転がり、そのまま動かなくなった。気絶している。


(思った通りだ。どのようにアイテムなどを取り出すかはイメージ次第ってことだ)


 俺は自分の能力の新たな可能性に興奮していた。アイテムボックスは単なる収納ではない。使い方次第で強力な武器にもなる。


(ぶっつけ本番でなんとかなって良かった……)


「やるじゃんケイタ!」


ミントが褒めてくれた。しかし、安堵したのも束の間だった。


「俺の仲間をよくも……」


 地下への扉が開き…中から怒りに満ちた声が聞こえてきた。見ると、4人の悪人たちがすごい形相で外へと踏み出してきた。ミントが言っていた、奥の部屋にいた連中だ。


「それにだぁ!!地下の人間をよくも全員逃がしてくれたなぁ!」


 先頭に立つ男が俺を睨みつける。明らかに他の3人より格上の雰囲気を醸し出していた。恐らくリーダー格だろう。


 絶体絶命だった。今の水の攻撃を見られていたのであれば、同じ手は通用しない。警戒されて距離を取られたら、俺に勝ち目はない。


「面白い芸当を見せてくれるじゃないか。だが、もう手の内は見えた」


 リーダー格の男が不敵に笑う。


「散開しろ。四方から囲んで、奴に術を使わせる暇を与えるな」


 4人が俺を中心にして円陣を組み始めた。完璧な包囲陣形だ。これでは水攻撃をしても、全員に当てることは不可能だ。


 俺は護身用ナイフを構え直したが、手が震えているのが分かった。さっきの3人でさえ手強かったのに、4人同時では勝ち目がない。


(チョコ、ミント……力を貸してくれ)


『え?な、な、なにをしたらいいの?』


『でも、やるしかないわね!』


 4人が一斉に剣を抜いた。その瞬間、俺は覚悟を決めた。


 4人が俺に向かって踏み出そうとしたその時だった。


「そこまでだ!」


 威厳のある声が夜空に響いた。声のする方に目を向けると、そこには見知らぬ初老の男性が立っている。上質な服を着ており、明らかに身分の高い人物だった。


 そして、その後ろには——


「携太さん!」


 エレナとバルトさんの姿があった。さらにマリアさんも一緒にいる。その後ろには武装した冒険者たちが数人控えていた。


「…助かったのか?」

呆気にとられながらも、俺の口からそうこぼれていた。

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