第24話 マップアプリの力は本物?
マリアさんの家に到着した。そこは貧民街ならではの質素な造りの小さな家だった。木材は古く、所々に傷みが見える。それでも、玄関先には小さな花がささやかに咲いており、貧しくても幸せの宿る家なのだろうと感じた。
マリアさんが家の扉に手をかけた時、中から慌ただしい足音が聞こえてきた。扉が勢いよく開かれ、30代前半くらいの男性が飛び出してきた。身長は俺と同じ170ぐらい。シンプルな服装だが、汗や土で汚れていたり破れている部分もある。きっと農作業から帰ってきたばかりなのだろう。この貧民街では多くの人が同じような服装をしていた。貧民街全体に支援が必要だなと改めて思う。
「マリア!どこに行ってたんだ!心配したんだぞ!」
男性はマリアさんを見つけると安堵の表情を浮かべたが、すぐに俺の存在に気づいて警戒の色を見せた。
「あの……どちら様でしょうか?」
「この方が…助けてくださるって言ってくれたの、トム」
マリアさんが涙声でトムと呼んだ男性に説明を始める。
「リリィが……リリィがいなくなったの。昼過ぎに洗濯をしていて、ほんの少し目を離した隙に……もしかしたら誘拐されたかもしれない……私が悪いの。私がちゃんと見てなかったから……」
「マリア……」
トムさんは、マリアさんの肩を優しく抱いた。責めるような言葉は一切なく、ただ慰めるように背中をさすっている。日焼けした手は仕事で鍛えられており、家族を支えるために懸命に働いていることが分かる。
「大丈夫だ。諦めたらだめだ。必ずリリィを見つけよう。……それで……この方は?」
トムさんが俺に向き直る。
「携太と申します。夜道で奥様が泣いていらっしゃるのを見かけて、放ってはおけず、事情を伺いました。私の特殊な能力が、お嬢さんを見つけるのに役立つかもしれないんです」
「特殊な能力?」
「はい。リリィちゃんが大切にしているものがあれば、居場所を特定できそうなんです。奥様に先ほど伺ったうさぎのぬいぐるみを取りに来たのですが……どこにありますか?」
「探しに出る前に、私が椅子の上に置いたはず。ちょっと待っててください」
マリアさんが答え、必死な表情で部屋の中へと進んでいった。
家の中は狭めだが清潔に保たれており、リリィという3歳の女の子が暮らしている痕跡があちこちに見られた。慌てて取り込まれた子ども服、子供用の椅子。壁にはリリィちゃんが描いたと思われる、家族3人の絵が直に描かれており、貧しいながらも幸せな家庭だと伝わってくる。
「ありました!これです。これで本当に探せるのでしょうか」
マリアさんの声には希望と不安が入り混じっている。人形を強く握りしめた手から、必死さが伝わってくる。
「はい。少し説明が必要ですね。」
俺は2人に向き直った。
「もしかしたら聞いたことがないかもしれませんが、空間魔法というものがあるんです。その中でも、私の空間魔法は特殊な効果を持っており、この魔法の中に大切な物を入れている間、その持ち主の居場所を範囲的にですが特定できるんです」
「空間魔法……確かにアイテムバッグのような技術はありますが、人を探すなんて聞いたことが……」
トムさんが眉をひそめる。もしかしたら、魔法に詳しいのかもしれない。口から出まかせに空間魔法などと言ったが、この世界にあるのだろうか。アイテムバッグがあるならありそうだが…。何も言わずに目の前から娘の大事なものが急に消えたら、さらに悲しませてしまうことになりかねない。嘘であっても起きることは一緒だし、この言い方で説明するしかなかったのだ。
「そうです。今からリリィちゃんのぬいぐるみを私の空間魔法の中に入れます。そうすることで娘さんの場所を見つけられるんです」
2人は半信半疑の様子だったが、藁にもすがる思いで強く頷いてくれた。
「早速お願いいたします。」
マリアさんから、薄いピンク色をした小さなうさぎのぬいぐるみを受け取った。手作りらしく、少し形はいびつだが、とても温かみがある。布は使い込まれて毛玉ができており、リリィちゃんがどれだけ大切にしていたかが分かる。
「お義母さんが作ってくださったものなんです。リリィはいつもそれを抱いて寝ています」
俺がアイテムボックスの中へとしまったことで、2人の見ている中でぬいぐるみが消失した。
「消えた!」
2人が同時に驚いて声を上げる。
「大丈夫です。ちゃんと私の空間魔法の中で保管されています。これで準備は完了です」
俺はスマホを取り出した。2人は、黒い物体を見つめる俺を見て何を思っているのだろうか。まるで占い師の水晶みたいだなと、ふと俺は心の中で思った。構わずマップを開き、地図を広範囲に表示すると、地図上に薄い赤で塗りつぶされた部分が表示されている。そのエリアを指すように表示される吹き出しがあり、そこにリリィちゃんのぬいぐるみが表示されている。対象の範囲を拡大し、示している場所を確認した。
「場所がわかりました!行ってみましょう!」
示された場所は、貧民街から少し離れた城壁近くの場所だった。
「本当ですか?!」
マリアさんの目に希望の光が宿る。
「ただし……」
俺は真剣な表情になった。
「もし本当に誘拐だった場合、危険が伴うかもしれません。それでも一緒に来ていただけますか?」
「もちろんです!」
マリアさんが即座に答える。
「待ってくれ」
トムさんが立ち上がった。
「俺も一緒に行く。娘のことだ、夫として父親として——」
「トム、でも……」
少し考えた末、夫の目をしっかりと見て続けた。
「リリィがもし帰ってきたらどうするの?誰かが見つけて送り届けてくれたのに、誰もいなかったら……」
トムさんの表情が複雑になった。確かに、リリィが一人で帰ってきた時に家に誰もいないのは問題だ。
「でも、マリアを一人で行かせるわけには……」
「大丈夫です」
俺が口を挟んだ。
「私が必ずマリアさんをお守りします。それに、マリアさんがおっしゃる通りです。リリィちゃんの事を思うと、どちらかはここに居た方がいいと思います」
トムさんは葛藤している様子だったが、やがて頷いた。
「分かった。マリア、くれぐれも気をつけてくれ。そして携太さん、妻を……家族をよろしくお願いします」
トムさんが深々と頭を下げる。
「はい。必ずリリィちゃんを連れて帰ります」
トムさんの祈るような眼差しに見送られ、俺とマリアさんは目的地へと歩き始めた。
本当は次の回までで1話にするつもりが…長くなりすぎたのでここまでで…。カメアップなのに見てくださってる方ありがとうございます(T ^ T)




