第20話 チョコミント愛
「実は……昨晩、この甥から聞いた貴方のことを信用できんかった。いくらこの甥の病気を治せたとしても、中級層で暮らしている貴方に、私の病が治せるものじゃないと思ったんだ。国から認められた治癒師じゃない貴方に診てもらって多額の金を払うぐらいならと……家を含めて全財産を叩いてでも本物の治癒師に診てもらいに行こうと思ったんだ」
マルクスさんの声が震える。
「昨晩は……吐血までしてしまって、もう時間がないと思ったんだ。まだこの甥のガレットには商人として教えにゃならん事が山ほどある。仕入れ先との人脈作りや、商品の目利き、値段交渉のコツ……死んでられんかったんだ。この店を継がせるには、まだまだ足りないことだらけなのに」
「叔父さん……そんなに酷かったなんて……」
ガレットさんの顔が青ざめる。
「良いんです。信じてもらえないのは当然です。治癒師でもなければ、知人でもない……名も知れない人から助けますと急に言われても……見返りを求められるのではないかなどと疑心暗鬼になるのも無理ありません。むしろ、早く治療してもらわなければという焦りがあったからこそ、城に向かってしまったのでしょう。気になさらないでください」
「携太さん、改めて本当にありがとうございました。本当に5万イエンで良かったのでしょうか? 城の治癒師なら最低でも10万イエン、重篤な病気なら50万イエンは必要だったでしょうに……」
「いいんですよ! ガレットさんには、今後全商品2割引にしてもらうので!」
「あれ? 薬系だけだと——」
「いいんだ! ガレット! そういう事だ! 2人して救ってもらったんだ。喜んでサービスさせてもらおうじゃないか。私の命も救ってもらったのに、薬だけの割引なんて恥ずかしい」
「そうだね。携太さん、今後はどうぞご贔屓に」
「もちろんです」
俺は心の底から、この2人に出会えて良かったと思った。人と人との繋がりの温かさを、異世界でより深く感じることができた。
◇
安眠亭に向かう帰り道、夕暮れ時の街は活気に満ちていた。仕事を終えた人々が家路につく時間で、あちこちから夕食の匂いが漂ってくる。
その時、疲れて寝ていると思っていたチョコから声をかけられた。
『ケーキ屋そっちじゃないよ』
ギク!
(わ、わかってるよ! 聞いてくれ! 今日は食事の後で3人で食べようと思ってるデザートがあるんだ!)
『本当に?!』
2匹ともスマホの画面の中で俺を疑うような目を向けてくる。
(本当! 本当だって)
マルクスさんからといい、疑われてばかりだ。
なんとか納得してくれた2匹とともに、俺は安眠亭に到着した。
エレナが玄関で掃除をしていた。
「お帰りなさい! 携太さん、今日はお仕事だったんですよね?」
「ああ、治療の仕事をしてきたよ」
「治療もできたんですか?」
バルトさんも奥から顔を出す。
「できるようになったんだよ」
「すごいじゃないですか! あ、そうそう!今日は街が大騒ぎでしたよ」
エレナが目を輝かせて話し始める。
「『見えざる客』の話、聞きました? 街中の店で、誰も見ていないのにお金と引き換えに商品がなくなってるんです! きちんとメモまで残して!」
「うちは宿屋だから関係ないけど、商店はみんな持ちきりだったよ」
バルトさんが苦笑いを浮かべる。
「でも不思議ですよね〜。いったい誰なんでしょう?」
エレナが首をかしげている。
(どうせバレないし、密かに街の話題になってみるのも悪くないな)
俺は心の中でほくそ笑んだ。
「それは確かに不思議だな。……じゃあ、俺は部屋に戻って夕食にするよ」
「はい! お疲れ様でした!」
◇
部屋に戻った俺は、さっそくMAPアプリを開いた。
「よし、今日は『見えざる客』として豪華に行こう」
俺は街中の店から色々な料理を少しずつ注文し始めた。肉屋の牛肉のステーキ、魚屋の焼き魚、パン屋のガーリックブレッド、野菜屋のサラダ……まるで高級レストランのコース料理のようだ。
注文を終えると、アイテムボックスに次々と料理が届く。部屋に温かい香りが充満した。
俺はスマホから2匹を出してあげた。他の人には知られないように静かにするようにというのは、ちゃんと守ってくれるから有難い。
「わあ! すごい量の料理!」
「これ全部食べるの?」
「みんなで分けて食べよう。今日は特別だからな」
3人で豪華な夕食を楽しんだ。2匹は普段とは違う料理に大興奮で、特に肉料理がお気に入りのようだった。
食事を終えると、いよいよだと言わんばかりに目を輝かせる2匹。
「今日は君たちからしたら異世界のアイスクリームという冷たい食べ物をあげたいと思います」
俺は通販アプリを開き、善行ポイントでチョコミントアイスを注文した。
「じゃん!! チョコとミントの名前の由来である、チョコミントと呼ばれる味のアイスクリームです!!!」
アイテムボックスから取り出したアイスクリームを2匹に見せる。
「もちろんミントと同じ色の部分がミント味、チョコと同じ色の部分がチョコ味。これらの色が、その毛の色とそっくりだろ? だからチョコとミントと名付けたんだ!」
「本当だ! 僕の毛の色と同じ!」
「私の色ともそっくり!」
「実は俺、元の世界でもチョコミント味が大好きだったんだ。でも元の世界だと年中買える物が少なくてさ……アイスは夏だけとか、ケーキも期間限定とか……」
俺は興奮気味に話し続ける。
「でも! 何故かこのスマホでの通販だと、俺が知ってるチョコミント系の食べ物がぜーーんぶ時期外れなのに買えてるんだ! チョコミントアイス、チョコミントケーキ、チョコミントクッキー、チョコミントチョコレート……全部ある! これってすごくない?!」
「ケイタってチョコミント好きなんだね」
「ほら! 食べてみて」
2匹は興味深そうに近づいて、様子見のようにペロリと舐める。
「冷たい!!」
「あははは。そうだろ? でも美味しくない?」
「美味しい!」
「本当! 美味しい!! 冷たいけど止まらない!」
ミントがガツガツと食べ始める。
「おい! ミントやめとけ! そんなにがっついたら!」
「いたーーーい! 頭が痛い〜!」
「だから止めたのに! ゆっくり食べないと頭が痛くなったりするんだよ。気をつけろよ?」
頭を押さえ悶えるミントを見て、チョコがクスクスと笑っている。
「お姉ちゃん、食べるの早すぎ」
「うう……でも美味しくて止まらないのよ……」
「でも……考えたら、単純に名前付けられたんだね僕たち」
チョコってたまに冷静になって的確にズバッと言ってくるよな……
「ま、まあ……覚えやすいし、間違えることもないと思ったから……」
「でも嬉しい! 僕たちの名前、こんな美味しい食べ物が由来だなんて!」
「私も嬉しいわ! 毎日食べたいもん!」
「毎日は太るからダメだ。それに、特別な時に食べるから美味しいんだよ」
そんなこんなで、今日もまたデザートで一日を終えようとしていた。こいつらちゃんと外で歩かせたりしないと、みるみる太りそうだな……定期的に城外に行って走らせよう。
そう決めた夜であった。




