第16話 貴族との繋がり③
奥様が回復し、部屋に穏やかな空気が戻った。
「本当にありがとうございました。でも、一体私はどうして……」
奥様が困惑している。俺は椅子に座り直し、優しく尋ねた。
「もしよろしければ、お聞かせください。何かお悩みがあったのではないでしょうか?」
クリスフォード氏と奥様が顔を見合わせる。双子の子どもたちは、まだ心配そうに母親の側にいた。
「実は……」
奥様がゆっくりと話し始めた。
「息子たちの問題で、思っている以上に疲れ切っていたのだと思います。食事で、一人がこれがいいと言うと、もう一人が反対したり……一人が着た服を自分も着たいと言って癇癪を起こしたり……」
双子の子どもたちが小さくなった。
「外出時にもことある事に喧嘩をして、服選びに時間がかかることが日常茶飯事でした。主人は忙しく、メイドもいますが、やはり子育てを全面的には任せる訳には行きませんので……」
クリスフォード氏が申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「私がもっと家にいられれば…仕事に逃げていた部分もあったかもしれません」
「あなた……」
奥様が夫を見つめる。
「私の育て方が悪いのかと、自分を責めてばかりいました。親戚などからは『しつけがなっていない』と言われることも……」
奥様の声が震える。
「メイドも困り果てて、何人も入れ替わってしまいました。夫婦仲は良いのですが、主人は仕事で忙しいものですから……心配かけないよう、できるだけ疲れを隠していましたし……」
その時、双子の子どもたちがゆっくりと母親に近づいた。
「お母様……」
「僕たちのせいで、お母様が倒れてしまって……」
二人の目に涙が浮かんでいる。
「僕たちのわがままだったんだ……」
「お母様居なくならないでね……ごめんなさい」
子どもたちの素直な言葉に、奥様も涙を流した。
「大丈夫よ、大丈夫……」
奥様が二人を抱きしめる。クリスフォード氏も家族の輪に加わり、温かい抱擁となった。
俺は静かに立ち上がり、双子の前に膝をついた。
「聞いて。まだ5歳だから難しいかもしれないけれど、もう少しお母さんやお父さんのこと、それからメイドさんたちのことも思って生活できるかな?」
二人は真剣に頷いた。
「うん……」
「頑張る……」
「でもね、君たちだけが頑張るんじゃない。お父さんもお母さんも、みんなでお互いのことを考えて助け合うんだ。家族っていうのは、そういうものだからね」
俺の話を聞いた子どもたちはしっかりと返事をしてくれた。そして、クリスフォード氏もうんうんと頷く。
「そうですね。私ももっと家族の時間を作ります。仕事も大切ですが、家族が一番大切です」
「私も、一人で抱え込まずに、みんなに頼るようにします」
奥様の表情が明るくなった。
「いい子にしてたら、また魔術を見せてあげる。約束だ」
俺が手を差し出すと、双子は小さな手で握手をしてくれた。
「約束!」
「約束する!」
その様子を見ていたクリスフォード夫妻の顔に、安堵と希望の表情が浮かんでいた。家族四人が手を重ね合い、新たな出発を誓う姿は、とても美しいものだった。
「本当に……本当にありがとうございました」
クリスフォード氏が深々と頭を下げる。
「いえ、お役に立てて良かったです」
俺は微笑みながら答えた。
こうして、一つの家族の絆が深まったのだった。




