第15話 貴族との繋がり②
「大丈夫か!? おい! ジョゼフィーヌ!!」
クリスフォード氏の声が部屋に響き渡る。奥様は椅子に崩れ落ち、そのまま意識を失ってしまった。顔色は青白く、まるで血の気が引いたようだったが、胸は規則正しく上下している。呼吸はしているようだ。
「お、お母様……」
双子の子どもたちが震え声で呟く。
クリスフォード氏が必死に奥様の名前を呼びながら、肩を軽く揺すっている。メイドや執事も「奥様! 奥様!」と駆け寄った。普段冷静そうな執事も今はあたふたしているのが分かる。だが反応はない。
「すみません、お医者様を……」
メイドが青い顔をして慌てて部屋を出ようとした。
その時だった。
『私が力になれそう』
ミントの声が俺の頭の中に響いた。
(え? どういうこと?)
『契約してからなんだけど…実はスキルを覚えたみたいなの。でも実際に試したことがないから、どこまで出来るか分からないけど』
俺は急いでスマホを取り出し、ペットアプリを開いた。すると、今まで見たことのないステータス画面が表示された。
【ミント】
HP:3000/3000
MP:1500/1500
スキル:心癒
満腹度:48/100
【チョコ】
HP:2500/2500
MP:1500/1500
スキル:治癒
満腹度:52/100
「これは……」
『僕は傷や病を治す力。お姉ちゃんは精神的な病や疲れを治す力みたいなんだ。どこまで出来るかわからないけど、試してみたら?』
チョコが背中を押してくる。
(そうだな、試してみよう。でも、気を失ったけど病気の可能性は? 精神的な問題だと分かるのか?)
『わかるよ! まぁ僕らの能力じゃなくても、タイミング的にそうだと思う。ほっといても目は覚ますと思うけど…救うとなるとお姉ちゃんの力を使うべきだよ』
俺はクリスフォード氏を見た。今までの流れで、俺がどんな力を持っていてもおかしくないと思ってくれているだろう。伏せるべきところは伏せて話そう。
「あの……私にも治療の心得があります。完治をお約束することは出来ませんが、応急処置だけでも試させていただけませんか?」
「そうですね…、あなたの事を信じましょう。是非お願い致します」
クリスフォード氏は一瞬迷ったようだったが、奥様が意識を失った現状を考えると、俺にお願いすることが最善だと判断したのだろう。その顔には藁にもすがるような必死な表情が浮かんでいる。
双子の子どもたちは母親の側で小さく縮こまっている。大きな瞳に涙を浮かべながら、不安そうに俺を見上げていた。
メイドは医者を呼びに出てしまっていたのか、部屋にいなかった。執事は家族と共に心配そうに見守っている。
俺は奥様の前に跪き、右手を彼女の額にかざした。左手にはスマホを持ったまま、ミントに話しかける。
(頼んだぞ、ミント)
『任せて』
瞬間、俺の手から微弱な光が放たれ、奥様の体を包み始めた。
「これは……」
クリスフォード氏が息を呑む。双子の子どもたちは目を丸くして、光に包まれる母親を見つめている。執事も驚きに満ちた表情を浮かべ立ち尽くしていた。
(大丈夫か? ミント?)
『頑張ってるから話しかけないで』
スマホの画面を見ると、ミントのMPが徐々に減っていくのが分かった。1500から1400、1300……段々と数値が下がっていく。
奥様の青白かった顔色が、少しずつ血色を取り戻し始めた。
1000、900、800……
俺は心配になったが、ミントを信じて続けた。双子の子どもたちが小さく「お母さん…」と呟いているのが聞こえる。
500、400、300……
200を切った時、奥様の顔色は正常に戻り、目がゆっくりと開いた。
そして残り100を切ったその時、奥様がはっきりとした声で言った。
「もう大丈夫です」
光が徐々に消え、俺は手を下ろした。ミントのMPは残り80まで減っていた。
「ジョゼフィーヌ! 本当に大丈夫なのか?」
クリスフォード氏が安堵と驚きの入り混じった声で尋ねる。
「ええ……これはなんなの? 心もスッキリして、疲れも取れているわ」
奥様が不思議そうに自分の体を見つめる。頬には健康的な赤みが戻っていた。
「お母様!」
双子の子どもたちが嬉しそうに母親に駆け寄る。
「ありがとうございました!」
いつの間にかメイドも戻ってきており、執事と一緒に深々と頭を下げている。
「良かった…。精神的な疲れも取り除きました。色々と心労が溜まっていたようで」
俺は安堵の息をついた。クリスフォード氏と子どもたちの顔にも安心の色が戻っている。
『お疲れ様、ミント』
『危なかった〜〜〜! ギリギリだったね。思ったより大変だった。でも、成功して良かったわ』
疲れを見せないミントは偉いな。この明るさや前向きさがスキルに繋がっているのかもしれない。俺はそう思ったのであった。




