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召喚余剰人員の為、魔王は任せて異世界満喫(元祖)  作者: -冬馬-


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第14話 貴族との繋がり①

長くなってしまいました…。

読みにくいかもしれませんが、お付き合い下さい。

 約束の時刻までに少し時間があった俺は、まず宿屋に戻ることにした。昨日購入した物でアイテムボックスがいっぱいになったので、念の為に一部の荷物を宿屋に置いていこうと考えたのだ。


 宿屋で荷物を整理しようとアイテムボックスを開いた瞬間、俺は目を見張った。


「あれ? 枠が増えてる……」


 今朝魚を取り出したりした時には気づかなかったが、アイテムボックスの枠が10個も増加していた。スマホがレベルアップしたことで枠が増えることを忘れていたのだ。


「10枠は大きいな。荷物を置いていく必要がなくなっちゃった」


 俺は約束の時間に合わせて出発をし、クリスフォード邸へと向かった。


   ◇


「お待ちしておりました、携太様」


 昨日と同じ執事が玄関で出迎えてくれた。今度は邸宅の中へと案内される。


 玄関ホールに足を踏み入れた瞬間、俺は改めてこの家の格の高さを実感した。天井は吹き抜けになっており、そこから差し込む自然光が大理石の床に美しい模様を描いている。壁には名画と思われる油絵が飾られ、調度品(ちょうどひん)はどれも一目で高級品と分かるものばかりだった。


「すごい家だな……」


 思わず呟いた俺の言葉に、執事はまるで家主かのように誇らしげな表情を浮かべた。


「ありがとうございます。では、どうぞこちらへ」


 案内された客間も、これまた豪華絢爛(ごうかけんらん)な造りだった。重厚(じゅうこう)な木製のテーブルと椅子、壁には家族の肖像画が掛けられている。


「携太様、本日はお越しいただきありがとうございます。昨日は家族で外出をしておりました。申し訳ございませんでした」


 クリスフォード氏が立ち上がって丁寧に頭を下げる。隣には上品な装いの奥様が控えめに微笑んでいた。


「いえいえ、約束をしていた訳ではございませんので、お気になさらず。こちらこそ、本日はお世話になります」


 俺も丁寧に挨拶を返す。貴族なのに、中級層に住む俺に対しても丁寧なのは普通なのか疑問に思う。


「息子たちは現在、メイドが面倒を見ております。双子で5歳になったばかりでして……なかなか手のかかる年頃で」


 奥様の表情に、(わず)かな疲れの色が見て取れた。


「それでは、改めて今回の依頼内容を確認させていただけますでしょうか」


 クリスフォード氏がテーブルに書類を広げる。


「はい。息子たちの持ち物の色を、それぞれ同じ色を基調に色替えしていただきたいのです。洋服は靴下やズボンから上着、帽子まで、それに靴、おもちゃも含めて、全て同じ系統の色にしていただければと」


「なるほど。何色をご希望でしょうか?」


「それが……」


 クリスフォード氏は困ったような表情を浮かべた。


「一人は黄色、もう一人は青を希望しているのですが、実は先日までは一人は白、もう一人は黒を基調にしてほしいと言っていたのです」


「子どもですからね、気が変わるのも仕方ありません」


 奥様が苦笑いを浮かべる。その表情の奥に、深い悩みが隠れているのを俺は感じ取った。


『簡単じゃなさそうね』


 ミントの声が俺の頭の中に響く。契約してから、ミントとチョコには他の人間の声も聞こえるようになったようだった。また、俺の見ている世界が、俺を俯瞰(ふかん)するかのようにアプリ内の部屋の中に投影されているそうだ。


『悩んでも仕方ないから、とりあえず2人に会わせてもらったら? 実際に色を変えながら確認してみようよ』


 チョコの冷静な意見に、俺は頷いた。


「では、実際に色を変えてみながら決めていきましょうか」


「え? 今から?」


 クリスフォード夫妻は驚いたような表情を浮かべた。


「今日は打ち合わせだけかと思っていました。数日はかかるでしょうし……」


「え? 今日で全部終わらせるつもりでしたけど?」


 俺の言葉に、夫妻は再びきょとんとした表情を浮かべた。俺は、実際に色を変える品々を集めてもらうようお願いした。今日作業すると思っていないものだから、何も用意していなかったとのことで、とてもバタつかせてしまった。少し待ちはしたが、メイドと執事が力を合わせてかき集めてきてくれたおかげで、あっという間に集まった。


「では、見ていてください」


 俺はスマホを取り出し、部屋の中を見回した。


「まずは色を変える必要があるものの写真を撮らせていただきますね」


 そう言って、用意してもらった子どもたちの洋服や靴、おもちゃなどを片っ端から撮影していく。端から見ていると、何をしているのか全く理解できない行動だろう。黒い物を持ってウロウロしているようにしか見えないのだから。


「あの……何を?」


「私の力は、よその染色や塗装とは訳が違うので」


 俺の説明に、夫妻はますます困惑した様子だった。


「よし! 準備が終わりました。それでは、お子さんたちにもご挨拶させていただけますか?」


   ◇


 メイドに連れられてやってきた双子の男の子たちは、恥ずかしそうに母親の後ろに隠れるように立った。母親の両脇から左右に1人ずつ顔を覗かせる。


「こんにちは」


 俺が優しく声をかけると、二人は小さな声で挨拶を返してくれた。知らない人の前では猫をかぶっているのだろうか、それとも人見知りなのだろうか。家族だけの時は喧嘩をしたりと手がつけられないほどだと聞いていたが、今はとても大人しい。


「今から、君たちの洋服の色を変えてみるから、感想を教えてくれるかな?」


 俺はスマホを手に取り、最初の一着の色を変えた。


「色変更」


 瞬間、洋服の色が鮮やかな黄色に変わった。


「え……!?」


 あまりにも一瞬の出来事に、その場にいた全員が動揺した。双子の子どもたちは目を丸くして、変わった洋服を見つめている。


「そ、そのような魔法があるのですか?」


 クリスフォード氏が震え声で尋ねる。


「いいえ、私の能力です。こういった魔法は少なくともこのスラタニクスにはないと聞いております」


 子どもたちはまだ驚いているようだが、興味深そうに俺の手元を見つめている。もう少し色を変えて見せると、だんだん笑顔になってきた。どうやら気に入ってくれたようだ。


「実は私、物を増やすこともできるんです。お二人とも同じ色を着たい日もあるでしょう。そんな時に喧嘩にならないように、複製も行います。そして、それぞれ私のセンスで色々な色を取り入れたカラーパターンを5つずつ作らせていただきますね」


「ふえる?」

「ほんとに?」


 子どもたちが興味深そうに身を乗り出した。


「複製」


 俺がスマホを操作すると、洋服が瞬時に増えた。子どもたちから小さな歓声が上がる。


 そして俺は次々と洋服を様々な色合いでコーディネートしていく。黄色をベースにしたもの、青をベースにしたもの、緑や赤、紫を基調としたものまで、子どもらしい明るい色合いで5パターンを作成した。


 作業を進めるたびに、子どもたちの表情がどんどん明るくなっていく。最初は恥ずかしがっていたのに、今では身を乗り出して見ている。


 大人たちは何が起きているのやらといった顔で終始見つめていた。


「わあ! きれい!」

「これはカッコイイ!」


 子どもたちの目が輝いている。


 子どもたちは満足そうで、どの色も気に入ってくれているようだ。


「どうです? おもちゃはどのくらいあればいいかな? 多すぎたら邪魔になりますよね。君たちはどう思う?」


「5個!」

「5個がいい!」


 双子が元気よく答える。


「5個ですね。分かりました」


 俺がおもちゃも同様に複製していく。増やすたびに子どもたちの表情が明るくなっていく。


「魔術師みたい!」

「ほんとほんと!」


 最初は恥ずかしがっていた双子も、最後には大はしゃぎで色とりどりの自分の持ち物を抱きしめていた。


「本当に……本当にありがとうございます……」


 クリスフォード氏の声が震えている。


「これで息子たちも……」


 その時、奥様の表情が急に和らいだ。今まで見せていた疲れた表情が嘘のように消え、安堵(あんど)の表情が浮かんでいる。目には涙が浮かんでいた。


「やっと……やっと……」


 奥様が小さく呟いた瞬間だった。


「あ……」


 奥様が突然よろめき、そのまま椅子に崩れ落ちた。


「大丈夫か!? おい! ジョゼフィーヌ!!」

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