第二章第4話 実技試験2
受付で地図を受け取り、地図に書かれている記しと現在位置を頭に叩き込む。
「タイムリミットは夕暮れまでです。 記しに書かれている地点まで到達してください」
地図を配布していた教師はそんな事を言っていた。
地図に書かれている記しは7つ。
つまりゴールが7つあるという解釈でいいというわけだ。
タイムリミットがある以上、一番近くの記しに向かうのが正解かも知れないが、俺が試験官なら近い所ほど罠など沢山こしらえるだろう。
つまり到達するのが難しくなっているはずだ。
逆に遠い所ほど早く着く可能性もある。
「というわけなんだが、どこ目指す?」
「おまかせしますよ」
サクッと丸投げする千冬。
「おいおい、仮にも合否の判定に関係のある重要な事柄を初対面の奴に丸投げするとかないだろ?」
「クラブさんは多分私より状況分析力に長けているというのは、もうわかっています。 私が適当に判断するよりクラブさんが判断した方が合格の確率が高くなると思いますけど」
「それは買いかぶりすぎだ。 俺は小兄と違って行き当たりばったりな性格だしな」
「小兄?」
「ああ、なんでもソツなくこなす兄貴でさ。 俺には自慢の兄と姉が一人ずついるんだ」
「三人兄弟ですか?」
「いや、さらに上に駄目な兄がいて、下に二人妹がいるから全部で6人だよ」
「駄目な兄?」
「実家が商売しててね。 一番上の兄は自動的に跡取りになるから跡を継ぐまで好き勝手が許されている節があるんだ。 それをいいことに毎日快楽三昧。 小兄とかは呆れ果てていたよ」
「小兄?」
「そうだな、小兄はとにかく自分に厳しい人だな。 そういう奴って普通、自分がやってるんだからお前もやれよみたいな感じで厳しさを周囲の人間にも押しつけてくるだろ? だけど、小兄はそんな奴ではなく、逆に俺たち下の弟妹に優しい兄だったな。 リーズ兄ぃは今何しているんだろう……」
リーズ兄ぃは今やファラス軍の軍人になっている。
しかもクソ親父の勧めで騎士団に入るよう言われていたが貴族の社交界に成り下がり国防の意識が皆無な集団に入り自らを堕落させたくないといって、国境を守る事の多い水軍に仕官した。
国境を守ると言うことは即ち隣国が攻めてきたらすぐさま最前線になるという事。 リーズ兄ぃは国を守る盾になると言っていた。
俺はそんなリーズ兄ぃを純粋にかっこいいと思うし、憧れる。
俺はいつかあんなでかい男になりたい。 ファラスにいる以上それが叶わないから俺はファラスを出たんだ。
……と、今はそんなこと考えている暇はない。
俺は改めて配布された地図を確認し、記し周辺の地形を見る。
まず念頭に入れなければいけないのは、これは試験だということ。
試験官は何を見たくてこんな試験をしているのか検討する必要がある。
恐らくこの試験で試されているのは状況分析能力と、任務達成遂行能力。
後はルートによって異なるが基礎サバイバル力といったところか。
これはあくまで予想だが、俺らの後ろに試験官が着いてきていると思ってもいい。
俺は気配を探る術は持ち合わせていないからあくまで推論なのだが。
合否判定基準が時間内に到着だけだとは考えにくい。
魔法の一種に一定地区の間でランダムにテレポート移動する術がある。
それを使えばすぐに到達してしまうのだが、それを使って合格点を導き出せるかというと微妙なラインだ。
「さすがにアカデミー側もテレポートの対策はしているみたいですよ。 近辺にはテレポートを禁止する結界が張られてますし」
「へ〜〜……、って分かるのか?」
「私、結界には敏感なんですよ」
「変わった特技だな」
「特技というか慣れですね」
「慣れ?」
「いえ、こっちの話です」
気にはなるが、人には聞かれたくない事もある。 話したくないのなら無理に聞かない。 それが俺の基本スタイルだ。
「しかし結界探知機がいるって事はかなり有利だな」
「?」
「恐らくこの試験の為にたくさんの結界による罠みたいなのが仕掛けられていると思った方がいいだろう。 如何に切り抜けるかを念頭に行動するかだったが結界を回避前提で動けば最短でたどり着ける」
「でも私は発動していない結界は感知できるか怪しいですよ?」
「感知できる結界だけでいいさ。 全て任せろと言われる方が逆に不安だ」
「期待されてるのかされてないのか微妙ですね」
複雑な顔をして千冬は呟いた。
「じゃあ頑張ります」
俺は実技試験用に用意していた獲物を確認する。
剣、槍、弓、銃、爪、鞭、斧など様々な武器の種類があるなかで、残念ながら俺はどの武器も練度は大したことはない。
だけどこの獲物に関しては自分の性格上、最も適していると思っている。
維持費が高いのは難だから出来れば使わないに越したことはないのだが……。
「ひとまず、ここを目指すか」
地図上での距離は七つの記しの中で近くもなく遠くもない、いわゆる半ばの位置に記しがあった。
「近い所は多くの罠の可能性があり、遠すぎる所は時間内に到達するのは困難という判断ですか」
「そう。 あと補足するなら地図から読み取れる地形で最も安全地帯が多い」
「安全地帯?」
「見晴らしがいいからね、このルートは。 遮蔽物が少ないから待ち伏せには適していないし、罠を張るのも極めて難しい」
「へえ……」
千冬は感心した顔をする。
「じゃあ行こうか」
そして俺たちは目的地に向かう。
地図に記された通り、遮蔽物は少なく、見通しの良い原っぱを慎重に縦断している途中……。
「あれ?」
「どうかしました?」
ふと、目がいった先にあるのはサッカーボールくらいの大きさの球で青と赤のグラデーションをしたような色。
妙な所に妙な物が落ちていたのだ。
俺はその球に近寄り、観察する。
アカデミーが張った罠かと思い警戒しながら慎重にその物体に触れてみる。
「?」
その球は俺が触れると同時に、俺の手に吸収されるように消えていった。
「???」
先ほど球があった位置を観察するが、まるでもとよりなにもなかった風に何の変哲もない原っぱの一部だった。
「クラブさん、ぼうっとしてどうかしました?」
「え……、いや、何でもないよ」
迂闊だったかもしれない。
先ほどの物体は明らかに怪しいものだった。
その物体がなんなのか、まったくもって不明だが、何かのトラップを発動させるキーの可能性もある。
しかし、これがキーだったとして何か身に迫る危険は一向に感じない。
杞憂?
ある程度結界を感知できると称する千冬もこれといって警戒している素振りもない。
原っぱを抜けるまで気を許すのは危険だ。
「何事もなく原っぱを抜けれそうですね。 クラブさんの読みだと、あの原っぱの先にある森が大変なんですよね」
「あ、ああ……」
この際、何のトラップだったかとかは発動するまでわからない以上、より注意を払いつつ進むしかない。
まもなく原っぱを抜ける。
本格的に警戒しなければならないのは原っぱを抜けたあとの森。
森を迂闊する事も視野に入れたが、それでは期限内に目的地に到達するのが困難になる。
だからこの森を突っ切る事を選択したのだが……。
その前に嫌なものが見える。
ありゃ、なんだ……。
目の前に見えるのは俺の身体の三倍はあろうかと思える鋼鉄の塊。
鋼鉄の塊には蜘蛛のような八本の足がついている。
蜘蛛、と表現してこの巨大な鋼鉄の塊が蜘蛛を模していることに気づく。
頭部、腹部もまさに蜘蛛の形をしていた。
「これ、試験なんですかね?」
千冬の意見はもっともだ。
鋼鉄の蜘蛛の頭部についているものは銃の様に見える。
あきらかにこれは殺傷を目的とした機械。
こんなもの、熟練の冒険者でも二人だけで倒すのは無理なんじゃないかと思うのだが。
鋼鉄の蜘蛛の目は千冬を捉えている。
俺は直感でヤバいと感じた。
頭より身体が危険を先に感じていたのか、千冬を横に突き飛ばしていた。
それが最も最善であったことを思い知る。
千冬のいた場所にレーザーの線が走り、線の先にあった地面は大穴が開いた。
「………………」
あんなの当たったら人間の身体どうなるんだ?
てかそもそもこいつから逃げる術なんかあるのか?
如何に逃げるか思案するが、正直逃げ切れる算段がたたない。
逃げれないならもはやこれしかないか。
チラッと千冬を見ると、千冬も同じ結論に達したようで俺を見て頷く。
俺らが行き着いた答えは戦う事。
無謀と呼べる決断だと思うが逃げられず、降伏すら叶わない相手にはもはや戦う以外の術があろうはずがない。
それに策もある。
それでも生き残れる確率は五割を切るのだが……。
千冬は二丁の銃を取り出した。
千冬の獲物は二丁銃か。
千冬は鋼鉄蜘蛛目掛けて射撃するが、弾丸は鋼鉄蜘蛛の体躯を突き抜けず、覆われた鋼鉄の皮膚で止まる。
やがて蜘蛛の目は俺を捉え、レーザーを放ってきた。
「………わかった」
レーザーを回避しながら呟いた。
「え?」
「あの光、蜘蛛の目が目標を固定して5秒後に発射される」
「………わかりました」
一回目の発射と二回目の発射。
そこからの共通点から導き出した答え。
一回目の発射で頭に引っかかっていた事があった。
なんですぐ撃たなかったのだろう、と。
二回目で確信した。 撃たないのではない、撃てないのだと。
ドラマみたいにチャンネルをかえられないように続きを期待させるための間切りがすごくヘタクソですね。
すごく中途半端な切り方とわかってはいますが、諸事情により第4話切りました。
言い訳は第五話のあとがきでします