第二章第39話 チートコード
肉体に経験値は宿っていないが、魂には経験値は貯まっている。
それが今の状況。
分かりやすく例えるならば
本来レベル80で取得出来る魔法が今レベル20の自分が使用可能な魔法として選択できるようになっている。
ただし、それを行使する魔力、わかりやすく例えるならMPが全く足りておらず、その魔法の文字色は使用不可を示す灰色。
その魔法を行使する為には数値化して100のMPを使うのに対し、自分の最大MPは60弱しかない現状と言えばわかりやすいだろうか。
60の範囲で使える魔法は威力も低いし、必殺と呼ぶには程遠い。
今この鉄火場でそんなチンケな魔法は使い道すらない。
かといってMP100消費の魔法を一発だけ使えるようになるまで最大MPをチートで底上げしてもそれは意味がない。
今必要なのは消費MPが100の魔法を100回撃っても尽きない最大MPが必要となる。
普通に考えれば、それはどんな熟練の魔法使いが一生涯かけても辿り着けない難問ではあるが、俺は一生涯ではなく何百という生涯の中でその方法に辿り着いている。
経験を蓄積させればさせるほど、強固な個になるのは摂理であり、俺はその手法で編み出した禁呪がある。
「検索開始―――――」
結局、俺に足りないのは魔力の総量。
総量さえ増やせばこの先の苦難、なんとか打開できる。
魔法の破壊力を決める魔法攻撃力の計算式に当てはめられる数値も必要となるがそんなの外部数値、いわゆる装備で補えば良い。
「該当情報、検索完了。 該当情報の解凍を開始―――――」
情報の解凍で、酒木原ひじりというハード残容量以上の情報量が駆け巡る。
情報が許容量オーバーする前に不要なデータを削除。
酒木原ひじりが念のため保存していた新規データ、つまり東方薬学のデータだが、今必要な情報ではない。
酒木原ひじりのこれまでの半生をすべて無に返す所業になるが、酒木原ひじりが俺の最終代にすると決めた以上、躊躇はない。
薬師酒木原ひじりはこの場から消え、魔法使い酒木原ひじりと為す。
薬師技能は後方技能として必要な能力だが、俺が求めるべき居場所は後方ではなく、クラブと共に最前線に立つこと。
奴はピィ、カイ、モモという力を得た以上、奴と並ぶためには力は絶対条件。
「解凍……、完了。 解凍不備調査……、不備無」
敵はカメレオンという組織だけではない。
この世界の根に位置する教会が敵に回る公算が高い。
それに対抗できる力は…………要る!
「コード、起動―――――」
大丈夫。
俺はこの作業を前代で経験している。
二度目だから失敗の可能性は低い。
それにこれは魔力総量を増やすだけのチートコード。
このコードの構築に十代程度かかってはいる。
一代一代が重く濃い代。
それの集積がこのコードの開発なのだ。
失敗するわけがない。
「オール、クリア…………」
俺は静かに目を開けた。
「なるほど……。 それが先代の際、急激に総魔力を得た仕掛けなの……」
不意の声に俺は声の主を見る。
「アマリリス……」
アマリリスは興味深げに俺を見つめていた。
アマリリスはくすりと笑う。
「そのチートコード、私に教えなさい」
「……仇敵であるお前に教える謂れはないんだが」
「仇敵ね……。 同じ仇敵である朱雀と青龍とは和解できて私とはまだ和解できないんだ?」
「朱雀と青龍? なんでお前がその事を知っている?」
「あなたと私はほぼ同等の刻を生きてきたのよ。 今はピィとカイでしたっけ? 私はあの姿のあの二人を知っている……。 それが答え」
「なるほど。 敵対はしなくとも存在は知るか」
「今、私はあなたと共にあなたと同じ土俵に立った。 前に言ったよね。 私には欲しいものがあると」
「ああ、言っていたな」
「それはあなた」
「は?」
「あなたが欲しいから悪魔の身を捨て、人間に転生した。 そして私はあなたと方を並べる力が欲しい。 だからそのチートコード、教えなさい」
「……信じろと? そんな根拠の無い言葉を」
「信じる信じないはあなたの自由。 いえ、その言葉じゃあなたの心に響かないよね。 どう言ったらいいかしらね」
「ふふふ…………、ふはははははははは」
俺は笑いだしていた。
あの悪魔アマリリスの顔が
「お前、顔真っ赤だぞ?」
「う、うるさいわね。 今の身は人間なんだもの。 心拍制御なんてできるわけないでしょ」
「……全く、酔狂なやつだな。 まあ、気の迷いとは思うが今の言葉は信じるに値する。 けど、それなら尚更教えることはできない」
「なんでよ?」
「このコードを起動するためのハードがお前には備わっていないだろう。 ディスクだけ渡してもハードが無ければ起動すらしない。 ハードも一緒に渡せば問題ないのだろうけど、このハードの必要容量はお前の総量を越える。 物理的に容量が足りていないんだよ」
「どれだけ足りない?」
「そうだな、2割ほど足りないな」
「なんだ、2割か。 それならなんとかなる」
「なんとかなる?」
「足りない分は外部から補えば良いだけでしょ?」
「補う? どうやって……」
「こうやって」
アマリリスは手のひらに乗るくらいの黒い小箱を取り出して、それを自身の胸に当てる。
そしてそのままその小箱を体内へ力任せに押し込んだ。
「な、何をやってる!?」
アマリリスが小箱を押し込んだのは心臓に当たる部位。
心臓を貫いたら人間なら死ぬ。
アマリリスは自分の大事な器官を惜しげもなく潰したかのように見えた。
「あなたが2000年生きて経験を蓄積したように、わたしも伊達に2000年無闇に生きていたわけではないのよ。 さっきの箱はあなたで言う総量を増設するための人工的な装置。 それを体内に取り込んだだけよ」
「だけって……、人間にとって心臓は急所だぞ! その器官に異物を挿入するとか何を考えてるんだ!!」
「このまま放っておけば、人間アマリリスは死ぬでしょうね。 でもあなたのチートコードを使って魔力が上がれば私が尽きかけている命の炎を再び戻すことが出来る」
「俺を信用しすぎだろう! 俺がチートコードを渡さなければお前はただ死ぬだけだぞ!」
「渡してくれなきゃ、あなたのなかで私の言葉は信用に値しないっていわれてしまったのと同義だもの。 悔しいけどそれは仕方ないわ」
「あああ、もう。 俺の敗けだ、受けとれ!」
俺はアマリリスの額に手を当て、ハードとコードを直接アマリリスの脳に転送した。
「うく……、く……」
送り込んでいる情報量が半端なくでかい。
それが為、アマリリスの頭の中では俺の送り込んでいる情報と言う異物を受け入れるため過熱しているようなものだった。
「コード……、起動」
こうして俺とアマリリスは膨大な魔力総量を手にいれた。
この度の大震災、被災した方にはお悔やみ申し上げます。
私自身は西日本側にいたのですが、
ただ、未だ連絡のつかない同僚もおります。
その同僚は同僚の中で唯一、ふじぱんが私であることを知っている同僚でありなんだかんだ酷評しながら提督立志伝を読んでくれていた人です。
きっと今は読める環境にいないでしょうが、彼がとっとと更新しろと言っていたこの作品を更新します。
というわけで、酷評上等。読めるようになったら酷評のメール待ってるんで。
後書きに私情書いて申し訳ないですm(__)m




