第二章第37話 カメレオン戦2
クラブは誰の迷惑にもならない場所に歩いていくうちに、人気の無い裏街道までたどり着いてしまった。
「千冬さん、危険だから表街道に引き返した方がいいですよ?」
クラブは後ろを振り向いて誰もいない方に向かって呟いた。
「あら、クラブさんって人の気配読む術ないっていってませんでしたっけ?」
虚空から現れた千冬が、クラブの前に姿を現す。
「俺だってこの四ヶ月ただ闇雲に遊んでた訳じゃないですよ」
「勤勉ですね」
「そんなことはどうでもいいです。 ただでさえここは裏の人たちのテリトリーだから千冬さんみたいな若い娘が歩いているのは危ないです」
「クラブさん、おかしなこと言いますね。 私、忍びですよ……。 クラブさん風に言うなら私も十分裏の人ですけど」
「む……」
「まあ、ご心配頂き有り難う御座います。 けど私、クラブさんが思っているほどやわではないですのでご安心を」
千冬はクスクスと笑う。
「まあ、正直、手遅れっぽいから俺の側から離れないでいてほしいかも
しれないです」
クラブは目の前に立ちふさがる男を見る。
男は自身の体より大きな大槌を片手にもってクラブをみていた。
「あんた、カメレオンの関係者? それとも教会?」
男はなにも答えず、ただじっとクラブを見つめている。
「ファラスの爆炎。 汝に与える言葉は持たず。 汝に与えるは死のみ」
「そいやなんか見たことあるね、あんた。 どこでだっけか?」
「ハウスの機関誌じゃないですか。 彼はランクAのハンター、ラフコフ=エンシング。 通称『爆せる天槌』ですよ」
「……二つ名持ちか。 教会か、カメレオンかしらないけど二つ名を持ちながら権力者の犬になったってことかな?」
クラブは左手に鋼糸を装着し構えた。
「対話する気ないんだろ? ならさっさとやろうぜ。 ……こっちはお前のあとにも何戦も予定してるんでね」
「ここで貴様の命はこの大槌の前に消える。 先の心配などふよ………」
「ああ、やっと気づいてくれた? もうあんたの周りは鋼糸の結界が完成している。 ちょっとでも動いたら挽き肉だから気を付けてくれ」
「おのれ、いつの間に!!」
「んじゃ、もう一回聞くけど……、あんたの飼い主は教会? それともカメレオン?」
「…………」
「話さないなら話さないでいいや。 俺は行くから、ゆっくり脱出してくれ。 ちょっと考えれば抜けれる様に配置してはいるから」
釣れた魚は雑魚だった。
しばらく撒き餌にならざる得ない。
大物が釣れるまで危険を承知で我が身を餌に見立てるしかなさそうだなっとある意味覚悟を決めていると……。
「彼の所属はカメレオンです。 カメレオンの四天王、フレグスの小飼ハンターっていうのは有名ですね」
さらっと千冬が呟いた。
「フレグス?」
「表の顔は武器商人ですよ。 ついでに言うなら、教会に接近して利権を得ようとしている派閥の人だから、さしずめ裏で糸を引くのは教会ですね」
「小娘……、どこまで知っている?」
ラフコフは千冬を睨む。
「新白衆を過小評価しないでくださいね。 私たちは情報収集こそを糧に生きている一族です。 そんな裏側の事情、狡猾に隠しても筒抜けですから……」
千冬は双銃をラフコフに向ける。
「帰ったら飼い主さんに伝えてくださいね。 下手な小細工はクラブさんには通用しないって。 新白衆はおろか、黒一門までこの件はクラブさんについているってことを」
千冬の双銃の銃口は火を吹き、ラフコフの足元で破裂する。
破裂した場所から白い煙幕が覆い、辺り一面が真っ白になる。
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