第二章第36話カメレオン戦
四方を山に囲まれた古代都市、リグウェイ。
数千年の大昔、この地に栄えたと言われる古代都市の埋没技術を発掘し、その技術の恩恵を受けながら栄えている国である。
栄華を誇ったと言われるその古代都市がなぜ地中深くに眠っているのか、文献などもないが、出土する彼らの遺産から、かなりの魔法科学文明であることがわかっているくらいである。
彼らの遺産は、リグウェイという一国を形成するべき力を持ち、その高度な技術力で本来は人が住めない地に楽園を象っていた。
「話には聞いていたが、これはすごいな……」
街全体はまるで球体の巨大なる硝子玉の中にすっぽりと入っており、高山地帯で酸素の薄い外壁から一歩踏み入れると清浄ともいえる酸素に満たされている。
街の中心部にそびえ立つ巨大な時計塔は、ネジも巻くこともなく永久機関なる動力で人の手を加えることなく動き続け、上空には機械飛兵という巨大な鳥の機械人形を駆るライダーが飛び回っていた。
始めてこの国に訪れるものは、この古代都市の置き土産に必ず目を奪われると言われるが、一行も例外ではなかった。
「じゃあ、夕方まで自由行動にしましょう」
千冬の提案に頷き、それぞれ興味を引かれる場所に出歩いていった。
「あれ、ひじりは見て回らないのか?」
「まあね」
「せっかくリグウェイに来たのに勿体無い。 見たこともないものばっかりじゃないか」
「ここには何度も来たことあるからな。 俺はお前らほど好奇心もてないんだよ。 そんなわけで俺は先に宿屋に行って休んでるわ」
「そっか……」
「それにお前だって今からやることは観光じゃないだろ?」
「まあ、ね……。 そういうひじりだって、今から今からただ宿で寝るってわけじゃないんだろ?」
二人は不敵に笑いあった。
「んじゃ、互いに健闘を祈るってことで」
ひじりは拳をつき出した。
「ああ、正味お前が何をしようとしてるか分かりかねるが、お互い無事に会いたいものだな」
お互い、何をやろうとしているか分からない。
ただ分かることは互いとも命をかけてなにかをやろうとしていることくらいだった。
クラブと別れたひじりは宿屋にチェックインし、荷物を漁り出す。
青龍……、いや、カイが言った言葉が言ったクラブの因縁。
それはクラブの異名、ファラスの爆炎の名を響かせたカメレオンのアジトの爆破から始まる因縁。
クラブの使う爆弾という武器が、あまりにも派手でクラブにばかり戦功がいったが、逆にその分恨みもいっている。
まだ自分の正体を秘匿したいがためひじり自身が意図的にそうなるように仕向けたのだが、それが失策だったと思い至る。
あの爆破事態はただのとどめであっただけでそれを誇張したのは他でもないひじりだった。
今のカメレオンという組織は頭さえ潰れれば瓦解するワンマン組織だと思っていた。
だが、頭を潰した事を契機に頭の威光に隠れて見えていなかった連中が沸きだし、頭がいたころに比べ勢力を持ってしまったのが最大の誤算だった。
そうなるとタフかつ悪運最強と定評のあるクラブも生きていられるかわからない。
「根本から引き抜かないとな……」
ひじりは黒い石を象ったペンダントを荷物から引っ張りだした。
そのペンダントをポケットに押し込み、ひじりは宿を後にした。
エルニエルは喫茶店で緑茶を啜りながら、のんびりとした時を過ごしていた。
「エルニエルのお嬢ちゃん、隣いいかの?」
ロブがお茶を持って声をかけてきたのでエルニエルはにこやかに頷いた。
「ロブさんって、何者ですかー?」
エルニエルが思っていた疑問を、ロブにぶつけてみる。
「ただのジジイじゃダメかの?」
ロブは一見好好爺といわんばかりの翁なのだが、何もかもを見通しているような目と、教会派生職であるモンクの技をカイザードラゴン戦で披露してみせた。
どこかで教会にも繋がっている風体にも見えるが、彼と教会の反逆者であるエルニエルと知り合ってからも教会には特に動きはない。
最初は様子見で泳がされている程度の認識でいたのだが、あれからすでに4か月の月日が流れても尚、動きに変化はないのだった。
「ロブさんは教会に所属していたことがあるんですかー?」
「若いときにの……」
「今はー?」
「お嬢ちゃんと一緒じゃよ。 ワシも教会を抜けた身じゃて」
エルニエルはロブのこの返答には特に驚かなかった。
なんとなくではあるが、そんな気はしていていたから。
「お互い大変ですねー」
「お嬢ちゃんほどワシは優秀なものじゃなかったからの。 そこそこは大変じゃったな」
ロブは自分のお茶をずずっと飲み、ほぅと溜め息をついた。
「教会ってなんなんでしょうねー?」
「昔は純粋に信仰を広め、人々を救う存在じゃったが、如何せんでかくなりすぎた。 今では世界中に信徒を抱え、神の名のもとに神を汚す事を平然とやってのける。 人はそれを狂信というが、さて……」
ロブはお茶請けの羊羮をつまみながら遠くを見つめる。
「まあ、多くは真面目に神を信仰しているが、中にはよくないものもおる。 それだけじゃて」
「よくないものー?」
「神の名を借りて自らの欲を満たす輩がおる。 こいつらは狡猾だからこそ、上に存在し続ける。 全く、今の教会の有り様を神は嘆き悲しんでいるんじゃないかの」
「……そうですねー」
二人は沈黙する。
「じゃが、友に恵まれるとはこういうことかの」
「え?」
「クラブくんを狙っているカメレオン。 今でこそろくでなしの集まりじゃが根っこは教会が糸引いている。 それを根絶しようとする彼は我々教会脱会者にとって非常に助けになるだろう」
投稿したつもりでいました。
投稿されていないの気づいたのさっきです。
これ年末には投稿していたはずの作品です。
いまごろ慌てて投稿しております。
まだ投稿待ち話、じつはありますのですぐにでも、、、
申し訳ありません。




