第二章第35話 カメレオン黒幕一幕
「ほぉ、俺らを叩き潰すってかい?」
「舐められたものだ……。 たかだか二人ぽっちで我々に歯向かおうなどと……」
「ちょっとばかし名声を得て調子に乗っているらしいな……」
とある場所のとある会議室。
そこに集うは色々な世界で名を馳せた者たち。
あるものは闇世界の、あるものは経済の、あるものは某国の軍隊の、そしてあるものはハンターの重鎮と呼ばれたものたちだった。
カメレオンは首魁の捕縛によって瓦解したと世間では認識されていたが、実被害は首魁の捕縛と本部アジトの倒壊のみ。
カメレオンに属するものは汚名と言う汚点をつけられただけで、実力はなにも損なわれていない。
小国程度の規模なら一夜たらずで乗っ取ることができる兵力や人材を有していた。
「あまり舐めるなよ……。 ファラスの爆炎の一味には我々の実行部隊10人を一瞬で無力化してしまった猛者もいるんだ。 ……用心に越したことはない」
「老の言い分にも一理ある。 ならば私の持ちうる最強の駒を用意しよう」
「貴殿の最強の駒って、奴のことか?」
「左様……。 奴の能力、卿らも見ただろう?」
「は……ははははは、それは心強い」
「だが、もしもと言うときもある。 そのもしものため、私の所の奴にも動員をかけておこう」
「卿は用心深いな。 奴だけで事足りると思うが……」
「獅子は兎を狩るのも全力を尽くす。 ……それに昔の活劇が色々教訓を教えてくれているだろう?」
「活劇?」
「時の魔王は勇者現るという報を聞いたと同時に刺客を送るだけで魔王軍全軍であたらなかった。 勇者は魔王の刺客を次々打ち倒し、経験と自信を得て、最後は本拠に攻めこまれ最後は滅ぼされてしまった。 なぜ魔王はまだ弱い勇者に己の持つ最強の駒、己自身を向かわせなかったのかと……」
「……力を持つものは、時に己の力を過信するのものだ。 魔王の敗北は必然っといったところか」
「だが腑に落ちない。 例えでなぜ魔王の名を出す? 我らは我らの信ずる正義のため集まった。 悪の象徴ともいえる魔王を我が方で例えられるのは不愉快このうえない」
「勝てば官軍。 そんな言葉があります。 どんな悪党でも勝てばそれが正義なのです。 前聖魔大戦の魔王は本当に思想まで悪だったのかと問われれば私は疑念を持ちます」
「卿はやけに魔王に肩持つのだな?」
「私は客観的視点で語っているだけです。 別に魔王を支持するつもりはありませんよ」
「まあ、油断によってカメレオンという本体が崩れるのは面白くない。 既に大衆は我らのことを悪と認識しているのも事実。 大衆を敵に回せばいかなる正論も悪論にねじ曲げられるのが世の常ってことか」
「ならば私は私の持ちうる全ての戦力を一括投入しましょう。 何をしにファラスの爆炎がリグウェイにやってくるか知りませんが、リグウェイに足を入れたことを骨の髄まで後悔させてあげますよ」
「おもろい。 カメレオン総力戦っというわけやな。 首領の仇、きっちりとらしてもらうで」
「ちなみに私が先ほど魔王を例に例えたのは理由があります……。 ファラスの爆炎の一味に面白い人が混じっているからです」
「ほお?」
「勇者レイの娘」
「なんだと!?」
「勇者の血族を討ったとあれば協会の支持を得ることができます。 それがどんなメリットになるか聡明なる諸氏なら語るまでもないと思いますが……」
一般には知られていないが勇者の一族と教会は敵対関係にある。
詳細なことはこの場にいるものたちは知らないのだが、教会という国境を越え一般大衆を容易に味方につけることのできる組織と協力関係になるメリットは果てしなくでかい。
カメレオン内部にも教会信者は多数おり、教会から敵と認識されるとどんな大勢力を誇る組織も組織として立ち行かなくなるからだ。
だが逆に教会の公認を正式に受けることができれば大衆の信用を無条件で得ることができる。
それはとても魅力的な提案だった。
「あまり気が進まなかったが、こうなってくると話が変わってくる。 なにがなんでも全力で叩き潰す必要があるみたいだな」
「まさに鴨が葱を背負って、とかいうやつだな。 わざわざ向こうからやって来てくれるんだ。 丁重にかつ最大級のもてなしをしてやらんとな……」
会議場は失笑の嵐に包まれる。
「では、懸賞でもつけようか。 ファラスの爆炎の一味を一人討った者に100金だそう」
「豪快ですな。 久々にやりますか……。 人の生き死にを賭けたゲームを」