第二章第34話 薬師無双
困った事態になってしまった。
敵勢はたかが三人という決めつけに後悔。
今俺は目算10人程度の男に囲まれていた。
一番腕がたちそうな奴をぶっとばして残りの二人が慌てて逃げていくまでは良かった。
まさかこんなに援軍を引き連れて帰ってくるとは……。
いや、言うまい。
こればっかりは俺の見通しの甘さだからな。
クラブにカッコつけた手前、数にびびって逃げるのも負けって気がするし。
「貴様……、ファラスの爆炎の仲間だな?」
この集団のリーダー格の男が俺を吟味するように見てそう言った。
やれやれ、やっぱりファラスの爆炎の一味って認識ですかい。
まあ、クラブの爆弾は見た目も威力もド派手だし、俺への認識が薄いのも仕方ないちゃ仕方ないのかもしれないけど、俺をファラスの爆炎の付属品扱いっていうのは納得いかないな……。
いっちょ酒木原ひじりの名前をこいつらのトラウマにしちまおうかな……。
「吠える暇があるならかかってきたらどうだ?」
俺はさっさと終わらせたいんで連中を挑発する。
「やろう……」
3人の男が俺を取り囲むように俺の回りにジリジリと詰め寄る。
「殺すなよ、こいつはファラスの爆炎を誘き出す撒き餌に使えるからな」
あ〜〜……。
まあ、ふざけんなってことでいいかな。
たかが10人たらずでなんとかなると思ってるあたり俺のプライド傷つくんですがね。
3000年の経験を持つ俺がたかだが20〜50年程度の若造に舐められるのもいいかげんウンザリしてきた。
棒を俺の頭めがけて降り下ろしてきた、暫定で適当に名前をつけた雑魚Aから棒をひょいっと取り上げ、その棒で雑魚Aの脳天に降り下ろす。
「ぐぎゃ!?」
頭を叩き割ることはできるが、そりゃ無意味な殺しになるのでしない。
俺の目的は敵を迅速に無力化すること。
そのまま雑魚Bが持ってる手斧の金属と木の接合点めがけて軽く叩きつける。
接合点に力を加えられた手斧は斧という形を失い、金属とただの木の棒に分解する。
何が起きたか理解できず呆然とする雑魚Bの顔面に俺の左ひじがめり込む。
「ぐぼっ!?」
俺の手にある棒で何が起きてるかまるでわかっていない雑魚Cの足を払い、雑魚Cを地面に転ばせ、棒の先で雑魚Cのみぞおちを突く。
「ぐがあ!?」
時間にして3秒ってところか。
経験はあってもそれに見合う身体能力はまだないからって時間かかりすぎ……。
三人くらい刹那で無力化しなきゃ一騎当千は不可能だってのに。
「て、てめぇ、なにもんだ?」
リーダー格の男がやっと俺の認識を改めてくれたようだ。
遅いっての……。
まあ、この身体の精神面はだいぶ低いようだ。
なんでこの程度の戦場で昂ってんだろうね。
だからついつい口を滑らせてしまった。
「ただの一介の薬師ですよ」
「ふざけるな!! 言うに事欠いて一介の薬師だあ?」
ああ、テンパっちゃってら。
まあ、一介の薬師ごときに部下が3秒でのされちゃったんだから気持ちはわかる。
「殺れ! 殺しちまえ!」
残りの雑魚が一斉に俺に向かって突っ込んでくる。
ダメだ、こいつら……。
数の上で優勢とでも思ってるのかね?
いくら数いてもせいぜい俺と対峙できるのは三人から四人。
全員で一直線に突っ込んできてどうするんだろうね。
素人はなにも考えないから捌きやすくて楽っちゃ楽なんだけど。
俺は雑魚Dめがけて突っ込み、雑魚Dの足の間に棒を差し込み、回す。
雑魚Dは足をとられ転倒モーションを始めたのを確認し、雑魚Dを横にいる雑魚Eの方向に雑魚Dを突き押す。
雑魚Dと雑魚Eは衝突し、崩れていく。
雑魚Eの後ろを走っていた雑魚Fは前で何が起こったか把握出来ず、力任せに走っているので、そのまま雑魚Fの進路上に左足を突きだしておく。
案の定、雑魚Fは俺の左足と腹部が衝突し、雑魚Fが走っていた分の力がそのまま雑魚Fの腹部に衝撃を与え悶絶する。
体勢を整え、正反対から走ってきている雑魚Gに向かって棒を脇腹に叩き込む。
雑魚Gの脇腹を殴った衝撃で棒が真っ二つに割れてしまったので雑魚Hの背後に回り込み、持っている鎖を引っ張って奪い取る。
いきなり武器が手から離れた雑魚Hはキョトンと自分の手を見ているので、手刀で脛椎に叩き込む。
武器提供ありがとうっと。
まだ自軍劣勢に気付いていない雑魚Iめがけて鎖の先端を雑魚Iに投げつけ、足に絡ませる。
そのまま樹の枝に鎖を通し、引っ張る。
足をとられた雑魚Iは逆さ釣りとなる。
この間10秒。
これでリーダー格の雑魚Jを除き全滅したようだ。
「う、嘘だ……。 こんなの夢に決まってる!!」
「お前らみたいなチンピラごときが100人集まった所で俺を地に臥せさせるのは無理だよ……。 で、君は向かってくる? 来るなら返り討ちにしてあげるけど」
今まで格下相手に数の暴力でいたぶってきただけの小者とくぐってきた修羅場は酒木原ひじり単体の経験にも及ばない。
この結果は必然。
「帰ってお前の上役に伝えな。 あんたらのアジトに直接乗り込んでやるから首を洗って待ってなってよ」
雑魚Jは俺の口上を最後まで聞かず、バタバタと逃げ出していった。