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第二章第3話 実技試験1

 学科試験が終了し、午後から実技試験に入る。

 去年の試験は指定されたアイテムの調達。

 一昨年の試験はあそこに見える山で採れる動植物をキャプチャーして料理をするというサバイバル実演。

 その前は、戦略札と呼ばれる数千種のカードから40枚選び出し、そのカードを使用して競うカードゲームだった。

 つまり何が題材になるかわからない。


「それでは実技試験の説明しますよ。 傾注、傾注」


 手を叩いて教師らしい男が注目を集める。


「まずは学科試験お疲れ様でした。 それでは午後の説明をします」


 ゴクリと息を飲み傾注する。


「午後の実技はこの地図に印がついている目的地の情報収集を行ってもらいます。 但し、この試験はアカデミーが指定するペアで行ってもらいます」


 なんて舌足らずな教官だろう。

 概要はわかるが詳細に不明点がてんこ盛りだ。

 そしてなにより何をもって合否なのかの説明がない。

 チラホラと質問がでるが決まって答えは


「これ以上はお答えできません」


 の一点張り。


「それではペアになる人の受験番号を配布します。 紙に書かれた受験番号の人と一時までに落ち合い、校門前に集合してください。 一時を過ぎるとその時点でリタイアとなります」


 みんなギョッとする。

 午前の試験結果が良くても一時までにペアを見つけださなければ失格といってるのだ。

 自分に配布された紙を見る。


「1202」


 選択肢として上げられるのは、1202番に自分を見つけてもらうためこの場から離れないこと。 若しくは1202番を見つけるため動く事。

 相手と異なる選択をしない限り会うことはできない。

 こればかりは相手次第なのでどう転ぶかわからない。

 大衆心理として、タイムリミットがある以上、自ら探した方がいいという結論に落ち着く。

 すでに教室に残っている受験生は数人足らずで廊下で番号を呼びかけ、相手を必死に探していた。

 違う教室から相方を探しにきて、落胆した顔で出て行く人をさっきから幾度も目撃している。

 ここは大人しく待っていたほうが1202番も俺を見つけやすいだろう。

 時間は後45分。


「あ、777番、いた」


 ほら、待って正解だった。


「1202番?」


 先ほど777番を呼んだ受験生に歩み寄る。

 黒く長い髪をポニーテールで縛っており、倭国の民族衣装と言われている浴衣姿で、水色の下地に朝顔の模様が描かれていた。

 しかし、俺が知っている浴衣というのは足を覆う布は足首の関節部まであるはずだが、目の前の少女が着ている浴衣はミニスカートの長さまでしかなく、余計白い足が際立って目立つ。

 いや、悲しき男のサガ。 眼福、がんぷ……。 話がそれた。


「クラブです、宜しく」


「千冬です」


 千冬と名乗る少女はペコリと頭を下げた。


「倭国の人?」


「祖先はそうですが、私は大陸生まれの大陸育ちですよ」


 遥か東方の海にあるとされる倭国。

 そこは戦乱が耐えず、大陸へ逃げてきて、大陸に定着する人たちもいる。

 東大陸の東方にそんな倭人が集まって大江戸という国を作って生活しているのだ。 千冬もきっとそんな一人なのだろう。


「えっと、クラブさん」


「あ、さん付けは勘弁してくれ。 さん付けで呼ばれるの苦手なんだ」


 千冬はキョトンとする。


「あ、その……、さん付けで呼ばれるほど立派な人間でもないし、さ」


「んと、なんて呼べばいいですか?」


「呼び捨てでいいよ。 そっちのほうが俺的に気が楽だから」


「ん〜……。 殿方を呼び捨てで呼ぶのは私が抵抗があるのですよね。 さん付けじゃなきゃいいんですよね?」


「え、ま、まあ……」


「じゃあ、クラブ様というのは如何でしょう」


「それは激しく拒否する」


「え〜?」


「いや、初対面に様付けとか馬鹿にされているようにしか聞こえないんだが?」


「馬鹿になんかしてませんよ……。 じゃあ、クラブ様が駄目なら……」


 千冬は考え込む。

 そしてニッコリと名案が思い描いたような顔をしてこう言った。


「ご主人様」


「だから待て」


「……不服ですか?」


 千冬は不満そうな顔で見上げる。


「なんでそういう結論に至った?」


「さん付け駄目で様付けも駄目ならいっそそうしようかと。 殿方はそう呼ばれると喜ぶとお姉ちゃんから聞いてますけど」


 そりゃまあ、この目の前の可愛い娘にご主人様と呼ばれて萌えないやつはいないだろう。

 だがしかし、それは同時にあらぬ誤解を生む。

 姉なんかに聞かれて見ろ。

 絶対変な誤解されるじゃないか。


「クラブって女の子にご主人様とか呼ばせてるんだ、へぇ〜〜」


 という冷たい目で如何にも軽蔑するような目。


「ご主人様……? んと、クラブ。 女の子にそんな風に言わせるのはね、あんまり好ましい事じゃないと思うんだ」


 と、弟が世間一般的に常識の範囲内から外れてしまったと誤解して、悲しげな顔をしながら叱る姉。


 などなど、およそ宜しくないと思われる予想が次々と脳裏に浮かぶ。

 その予想で背筋が凍り付く。


「そりゃ嬉しくないこともないが、それは俺が困る!」


「ん〜〜、あれも駄目、これも駄目ってじゃあなんならいいんですか?」


「さん付けでお願いします」


「わかりました、改めて宜しくお願いします、クラブさん」


「よ、宜しく」


「ところで時間が大分押しているような気がしますが」


 言われて時計を見る。

 12時50分。

 極めて危険極まりない時間だったりする。


「急ごう!」


 俺たちは慌てて受け付けに向かった。


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