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第二章第29話 拳の苦悩

「お久しぶりですね、レン……」


「エル……」


「あなたが何度来ようと、私の気持ちは変わらない……。 そういったはずですよ?」


「部長は帰順さえすれば脱走の罪は問わないと言っている! お前程の才あるやつがこんな所にくすぶっているのは勿体無いんだ!」


「私が帰順したらまた人を殺す仕事をさせるんですよね? それは絶対にイヤです……」


「殺人じゃない! 罪悪な彼らの御霊を救ってるんだ!」


「そんな言葉を免罪符にするんですか? 人を殺めるという行為を正当化するために……。 いくら理由があっても殺人は殺人です。 私の手はすでに血まみれているけど、これ以上血まみれになりたくありません……」


 いつもオドオドしているか、のほほんとしているエルニエルが真剣な顔でレンと呼ばれた男を見つめる。


「エル、よく聞け……。 もうまもなく抜けたお前を討つためのチームが編成されてしまう。 そうなったらお前には死しか選択肢が許されない。 戻るチャンスは今しかないんだよ!」


「私をミィみたいに討つんですね……」


「そうだ! そうなる前に戻ってこい!」


 レンと呼ばれた男はエルニエルに手を差し伸べる。


「ミィの事がショックだったのはわかる! だけどお前が味わった思いを他の仲間たちにも味あわせる気なのか!」


「イヤな事を強制させて、仕舞にはたちの悪い泣き落としか。 性悪もいいとこだな」


「は?」


 クラブはレンと呼ばれた男に跳び蹴りをかます。

 レンは受け身を取れず、そのまま頭から地面に突っ込む。


「卑怯とか言うなよ……。 戦いの最中に気を外す方が悪い……。 それがてめえらの常識だろが」


「ぐ……」


 クラブはダイナマイトのような形状をした爆弾を両手にもち、レンと対峙する。


「さっきも言ったが、俺は聞きたいことがあるんだ。 力ずくで吐かせてやる」


「トーシロが! 調子にのんじゃねえ!」


 勢い良く振り上げたレンの拳がクラブの頬に接触する。

 瞬間、クラブが弾けるように割れ、大量のシャボン玉みたいな物質が周囲を拡散する。

 捉えたと思った拳は空をきり、面を食らうレン。


「バカな……」


 シャボン玉はレンの体に触れた瞬間、パンっという大きな音をたてて割れる。


「ち!」


 遠近感に違和感を覚えるレン。


「なんだこりゃ!」


 目の錯覚か、クラブが二人、三人と数が増えていく。

 やがてそれぞれのクラブが様々な方向に動き出した。


「残像か!?」


「どうかね?」


 一人目のクラブがレンに殴りかかってきた。

 レンはその拳を交わし、カウンターを入れるようにクラブの腹部めがけて拳を貫こうとしたのだが、クラブの体は虚空に消える。

 その瞬間、脇腹に衝撃が走る。


「ぐ!?」


 レンの脇腹をクラブは正拳突きでぶん殴っていた。


「貴様……、なぜ!?」


 情報と違う。

 ファラスの爆炎という男は爆弾を駆使する中遠距離型の戦闘を得意とすると聞いた。

 近距離で戦闘に持ち込まれるのは想定外。

 剣や槍などなら風切り音を頼りに武器破壊もできる。

 しかし、残像に惑わされている今はクラブの拳を砕く事も出来ない。


「トーシロが! つけあがるな!」


 地面を蹴り上げ跳躍しようとした瞬間、体の動きの違和感に気付く。


「エル!?」


 エルニエルがレンに時間鈍化、通称スローの魔法を施行していた。


「ちっ! ファラスの爆炎と連弾のプリを両方相手にしては勝機は薄いか!」


 そういってレンはテレポートリングを取り出し、


「絶対に貴様らは俺が殺す」


 そういって、テレポートした。


「さて、みんな待ってるし、急ぎましょうか、先輩」


「聞かないんですか?」


「…………まあ、なんとなくはそういうことかなって思ってたし、それにお互い様ですよね?」


「お互い様?」


「俺が悪名高きファラスの爆炎だということ、知ってたでしょ?」


「私もなんとなくそうかなって思っていただけですよ」


「さようですか。 まあ、お互い追われる身。 しんどいですが頑張りましょうか」


「ただ、クラブさん……」


「なんでしょ?」


「クラブさんもレンの口ぶりから言って狙われることになってしまったみたいです。 ……すみません」


 エルニエルは頭を下げた。


「いや、それは気にしないでくださいな。 追われる組織が今更一個や二個増えたところで大した変化ないっす」


(犯罪組織に国家、宗教。 一致団結する要素の低い組織同士、食い合い、潰しあい、邪魔しあいしてくれると御の字だしな、わっはっはっは)


「流石Aランクハンターってところですね」


「ん? 俺まだBランクですよ?」


「あれ、知らないんですか? クラブさんAランクに昇格しているの……」


「昇格? いつ?」


「フリーランスに掲載していましたよ、先月」


 フリーランスとはハウス発行の情報誌で、微妙な位置にある情報収集ツールである。

 ハウスの依頼状況や高ランクハンターへのインタビュー記事、様々な物の相場やどこぞの王家のスキャンダルなどを掲載したごった煮雑誌である。

 ごった煮故に情報の質が薄く、クラブらくらいのランクになると、暇つぶしで読む程度の価値しかないものだった。


「通知寄越せよ……、ってそういやそうか……」


 先月、今月と、アカデミーの課題処理に奔放されて自らハウスにいっていない上にハウスに登録している連絡先住所はファラスにある。

 そりゃ通知が手元に届かないわけだ。


「でもなんでまた昇格したんやら」


「コツコツとデカい依頼をこなしていったからじゃないですか?」


 最近の依頼はいつもの面子で受注している。

 稀にソロで受けることもあるが、学生をやっているということもありそこまで大きな依頼を受けてもいない。

 その程度で昇格できるほど甘いもんではないはずだけど……。

 それに意図的にランクをBに留めようとしていたというのもある。

 前述したがクラブは追われる身。

 目立つ事で利することは少なく不利なことが多い。

 若干……。

 いや、かなり困った事態であることは明白だ。


「まあ、波瀾万丈とでもいうかね……。 平々凡々が望みなんだがそうは問屋が卸さないらしい……」


 クラブは諦めの溜め息をはく。


「まあ、悩んだところでどうしようもないですね。 みんなに合流しましょうか……」


 そう言った矢先、エルニエルが杖を構えた。


「ん〜……、次はクラブさんのお客様のようですよ……」


「うっわ……」


 不覚。

 爆弾の在庫が心許なくなる瞬間を狙ってきた。

 俺は爆弾の手持ちを確かめ、溜め息をついた。


「……仕方ないか」


 藪から出てきたのは二人の侍。

 ギラギラとした目つきをした男と、ニコニコ顔を崩さない男。


「ファラスの爆炎とお見受けします。 依頼主の命により、あなたの命、頂戴致します」


 侍の一人がニコニコと殺気を出さずに言った。


「なる程、黒一門の暗殺者どもか……」


「暗殺者という言い方は心外ですね。 我々はこう見えても侍。 二対一とかいう姑息な真似はしませんよ?」


「そういうわけだ、プリーストの、いや、教会暗部の嬢ちゃん。 あんたが手を出さない限り、俺も手を出さないぜ?」


「よくいいますねぇ……、クラブさんの爆弾の弾数が少なくなってから仕掛けてきておいて……」


「まぁ、そうだわな。 だが爆弾のストックが少ないだけで五体満足の様子。 爆弾を使用した戦術がやりにくくなっただけで戦えはするだろ。 我々が有利になるフィールドに持ち込んだだけで、やってみなければ結果はどうなるかわからない……。 くくくくく、血がたぎるね、こんな戦い」


「銀蝶、はやる気持ちもわかりますけど、先鋒は先立って決めた通り私ですよ?」


「というがよ、金套。 そこの教会の嬢ちゃん、ファラスの爆炎に加勢する気満々だぞ? なら二対二で丁度いいんじゃないか?」


「困った人ですね、銀蝶は。 ただ自分が戦いたいだけでしょう?」


「ハン、こちとら久しぶりの実戦だ。 それくらい金套の度量で見逃せや」


 そう言って銀蝶を名乗る侍は刀を抜く。

 遥か東方の島国に独自の文化を華開かせる国、倭。

 そこの国の戦闘者である侍は大陸の騎士や戦士などを凌駕する戦闘力を持っている。

 その大きな理由として上げられるのは彼らの持つ太刀。

 剃刀の切れ味に鉈の頑丈さは近接武具の中で最も強いとされていた。


「まあ、あなたの気持ちもわからないでもないです。 どうやらプリーストのお嬢さんは如何に言葉巧みに言ったところで、退いてはくれないでしょうし……」


 ニッコリと笑って金套も刀を抜いた。

 逃げることはまず無理。

 この不利な状況でこんな手練と戦うのはあまり好ましくないのだが、これもクラブ所以。

 戦難の相とでもいえばいいのか。

 クラブは腹を括り、残り少ない爆弾の安全装置を外した。


てなわけで第一章の主役が第二章でやっと敵として出せました。

ちょっと早すぎたかな、って思わなくもないですが、書きたかったものは仕方ないていうことで(え?


金套こと金次、銀蝶こと銀太の話は第一章に掲載してます。

興味のある方は読んでいただけると嬉しいです。

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