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第二章第28話 拳と爆弾

 夏期休暇を利用してクラスメートとリグウェイへ出発した翌日、俺はやっぱり止めておけば良かったと後悔する。

 ポシューマスから出発してすぐ、俺ら一行を後ろから付けてくる奴がいる。

 気配からかなりの使い手だとわかる。

 カメレオンの残党か?

 それともファラス王国の諜報機関か?

 同行するクラスメートを巻き込むわけにはいかない……。


「みんな、悪いけど先に行ってくれないかな?」


「どうかしたの?」


「野暮用ができちゃったんだ」


「野暮用?」


 民家はおろか何もない山中で使う言い訳としては無かったかな。

 みんな怪訝な顔してるし……。


「トイレか? だから山登る前に済ませとけって行っただろ」


 と、ひじりが事情を汲んだのか話を合わせてきてくれた。


「ま、まあね。 そういうわけだから先に行ってくれないか? すぐ追いつくから」


「だ、そうだ。 先に行こうぜ」


 と、ひじりが一行を先に行かせようとする。


「そうだ、クラブ」


 そういって小さめの包みを俺に放り投げた。


「これは?」


 包みの中には傷薬やら軟膏やら治療道具一式が入っている。


「サンキュ、恩にきる」


 ひじりも後ろから付けている存在に気付いていたんだろうな。

 ひじりは手を振って先に行ってしまった。

 さて……。

 気配を読む限り敵は一人。

 ここは先手必勝で行くべきか?


「おかしい……」


 気配が俺を一瞥だけして、俺を無視し一行の方に向かっている。

 こいつの目的は俺じゃない?

 それは想定していなかったな……。

 が、どちらにしろ殺気に近いこの感じは俺ら一行の誰かに向かって放たれている。

 それを放置するわけにはいかない。

 俺はその気配を追った。


「よう、兄さん。 何の目的で俺らをずっと付けている?」


 気配の元にたどり着いたら一人の男が一行を睨みつけるように見ていた。


「ファラスの爆炎か……。 お前に用は無い」


 こいつ、俺の事知っていやがる……。


「何者だ、てめえ……」


「少なくとも貴様には害意はない。 去ね」


「俺……にはだろ。 俺の友人の誰に用があるか知らないが俺の友人の誰かに害意があると分かっていて無視するほど器用な生き方はしていないんでね……」


「トーシロが……。 吼えるな」


「トーシロ? どっちが……。 トーシロの俺にも分かる殺気ばらまいているやつが……」


「貴様を釣るつもりで放った殺気ではない」


「釣る……。 そういうことね」


 俺は地面に向かって爆弾を叩きつける。

 爆発と共に銀色の紙吹雪が舞い散る。

 マジックチャフ。

 あらゆる魔力干渉を阻害する物質が一面を覆った。


「釣れてしまったのは俺という雑魚だが、俺にとって釣れたのはどうやら大物らしい……。 答えてもらいたいことがいっぱいあるんでね、逃しはしねぇ……、教会!」


 教会という単語に男は眉間にシワを寄せる。

 ハッタリで出した言葉だったがどうやら図星のようだ。

 てことはこいつが追っているのはユイかエルニエルってとこかな。


「そうか、死に急ぐか……」


 男は聖書を取り出す。


「マジックチャフか……。 報告には聞いていたが厄介なものを散布してくれる」


 そう言い放つと男は視界から一瞬で消えた。

 直後、腹部に衝撃が襲う。


「ぐぎ!?」


 男の蹴りが俺の腹を直撃したのだ。


「トーシロ……、俺から魔力を奪っても戦う術はある。 己の力を過信したか?」


 男はそう言って俺の顔面に拳を叩き込んできた。

 全く拳筋が見えない。


「遊びは終わりだ」


「警告だ、挽き肉になりたくなかったら動くなよ」


「なに?」


 男は俺の言葉の真意にすぐに気付いた。


「鋼糸か……。 これは見事な布陣だ……。 しかし、俺の本質をよく知らぬ故の愚よ」


「なんだと」


 指先の感覚に違和感を感じる。

 先ほどまで繋がっていた鋼糸がピンと張っていた感覚が、一本一本なくなっていく。

 やがて全ての鋼糸の感覚が喪失した。

 この目の前の男は鋼糸を切断したのだ。


「我が拳を舐めるな、トーシロ」


 ヤバいな……。

 頼みの鋼糸まであっさり破られた。

 これは腹括るか……。

 男は聖書で俺の頭を殴打する。

 拳と蹴りと聖書での殴り。

 教会に属する戦闘者は特別に認められた聖騎士と呼ばれる騎士以外刃物での戦闘を禁じられている。

 そのため、教会の戦闘者は刃物の着いていない獲物、拳や鈍器、棒といった戦闘術に特化していった。

 そして目の前の男は拳に特化し、拳で刃物を凌駕するに至る。

 OK。

 散財覚悟で行くか。

 俺は閃光弾を破裂させる。

 目つぶしと相手を怯ませる効果を期待して放ったのだが、バックステップで後退する俺を迷いもなく追従する男を見て、効果がまるでなかったと認識させられる。

 気を探るとかいうやつもマジックチャフが有効な限り、あまり当てに出来ないはずだ。

 気を探るといった業は、たいていが魔力を感知して位置を計る業のはず。

 魔力、視覚を潰して尚、この迷い無き追跡は聴覚、もしくは嗅覚によるもの。

 ならこいつで、


「どうかなっと!」


ズカーーーーーーーーーーーン!!


 大音量での爆発。

 音と煙が聴覚と嗅覚を奪う。

 ま、俺も似たようなもんだが。

 多少なりとも防護策はしているとはいえ、俺も未だ無音異臭の世界にいる。

 しばらく音を失うが、向こうも同じ。

 後、頼れるのは相手の行動を予測し、如何に相手の動きを封じる事ができるかのみ。

 え?

 グレネードとか殺傷力のある爆弾はなぜ使わないのかって?

 旅行の行き先、今から行くところは国外です。

 グレネードなんて危険物を持って関所くぐり抜けることなんか出来ないでしょ。

 それは別ルート使ってリグウェイに運んでます。

 マジックチャフや閃光弾とかはハンターの資格のおかげで持ち込みは突破できるけどグレネードは誰でも扱える広域大量殺戮兵器に分類されるから自由に国外に持ち運びするためにはハンターランクが2つほど足りんかった。

 なんで手持ちの爆弾は相手を無力化を目的としたものしかないわけですよ。

 さて、話を戻して、さすがは俺の行動予想。

 敵さん、俺の仕掛けたとりもち爆弾にハマってくれたようです。


「……! …………!」


 なにを言っているのか全く聞こえませんが、自ら罠に足を突っ込んだ事に自らの警戒心のなさを悔やんでいるってとこかね。

 ざまー。

 さて、とりもちで絡めとったはいいが、この先どうするかとか何も考えていなかった。

 正直現状の装備で出来る事はここまで。

 とか思っていたら、魔力の塊がこちらに向かってぶっ飛んできた。

 しまった。

 マジックチャフが、さっきの音爆弾の爆風で吹き飛ばされたのをもう察知したのか。

 こいつ、かなり高い域にいる殺し屋か。

 状況判断能力が常人のはるか上にいやがる。

 もう一回マジックチャフ散布して完全に無力化するしかないか?

 そう思った時、別の方角から男の方に向かって魔力の塊が放出していた。

 誰だ!?


「…………。 ……………………」


「………。 ………………」


 先ほどの魔力の塊を飛ばした奴が男と対峙して何かを喋っている。

 そいつがだれなのか、粉塵と無音のせいで全くわからなかった。

 ……まあ、自分で蒔いた種だけど。


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