第二章第24話 クラブと娘たち
アカデミーに入学して早4ヶ月。
新入生だった一年生はアカデミー生活にも慣れ、アカデミー生活を謳歌していた。
そんな中、暗い表情で悩みまくっている男がいた。
その名をクラブ。
言わずとしれた赤鳥編の主人公である。
彼が何を悩んでいるかというと……。
「魔法学どうしよう……」
あと数日アカデミーに来れば夏期長期休暇、通称夏休みに突入するため、アカデミーの学生たちは夏休みに向けて色々と楽しそうにしている。
が、クラブにおいては夏休み開けのとある授業について解決しそうにない悩みに直面していた。
「う〜〜〜〜〜〜ん……」
入学から夏休み前までの俗に言う一学期。
一学期の魔法学はただ魔法に関する知識を詰め込むだけの授業内容であったため、問題ないとも言いがたいが、勉強すればなんとかなる程度の難関であった。
で、先ほどの魔法学の授業中、魔法学の教師はクラブにとって死刑宣告ともとれる一言を言ってきたのだ。
「二学期の授業では実技もします」
魔力をピィとカイ、二人に全部もっていかれて常時空っぽなクラブにとって死活問題だったりする。
「どうしようなあ……」
魔力が空っぽである以上簡易的な魔法の公使も出来ない。
実生活になんら問題もないからあまり気にしていなかったがこんな落とし穴が待ち受けているとは思いもよらなかった。
「パパ、どうしたですか?」
「主殿、顔色が優れぬようじゃが、なんぞ問題でも発生したかや?」
クラブの前に立つクラブの悩みの元凶二人。
二人は相変わらず人型で生活している。
人型の方が生活する上で楽だと言って鳥や竜になっている姿をここ最近とんと見ていない。
二人の外見、4ヶ月という時の流れで大きく変わっていた。
人型になった当初、二人とも7歳くらいの女の子の姿形をしていたが、今では12歳くらいの少女くらいにまで成長している。
ピィは肩の辺りまでの長さだった髪をバッサリと切り、ショートカットにしている。 もともと元気で活動的な印象があったが、ショートカットになったことでその印象がさらに強くになっている。
姉がピィに買ってあげた麦わら帽子を大層気に入っており、家の中でも麦わら帽子を被っている始末だった。
服も春を思わせるような赤と黄のフラワープリントのワンピース。
一方のカイは真っ直ぐなロングストレートの髪が腰元まで伸びている。
服装は水色基調で無地の浴衣を着ていた。
二人とも何処にでもいそうな人間の女の子だ。
「如何したかや?」
「パパ、ため息をつくと幸せが逃げちゃいますよ」
「二人に相談があるんだけど、いいかな?」
クラブの一言を聞き、二人は顔を見合わせる。
「相談……とな?」
「ピィでわかることなら遠慮なく聞いてください」
「実は夏期休暇明けに魔法学で実技があるんだ……」
「……」
「……」
俺の一言に二人は顔を見合わせる。
俺が何を言いたいかその一言で二人は悟ったようだった。
「つまり落第しないだけの魔力は残せといいたいのじゃな?」
カイは要点を摘んで俺の要求したいことを的確に言った。
「困ったのぅ」
「むぅ……、困りましたね」
「……何が?」
「いやな、我らに送られてくる魔力の供給量に関しては我らは一切関知しておらんのじゃ」
「そうなのです。 だからカイはピィを暴食鳥と罵った事を深く謝罪するべきなのですよ」
「まだ根にもっておったか。 まあ、ピィへの謝意は置いといて、我らが言いたいことは、我らに言われてもどうしようもないということじゃな」
「マジでか?」
「マジなのですよ」
絶望的な回答にクラブは頭を抱える。
「主殿よ、その実技とやらは魔力を用いて決められた魔法を公使する試験かや?」
「どうなんだろ? そこまで注視して教本を読んだわけじゃないからな」
そういってクラブは魔法学の教本を取り出しページをめくっていく。
それをカイとピィは一緒に教本に目を落としていた。
「ふむ。 魔法を公使する点だけで良さげじゃな。 なら問題は解決された」
「は?」
「ぴ?」
カイがニヤリと笑う。
「主殿、魔力を使わずに魔法を使う方法があるじゃろ?」
「は?」
「わからんかえ?」
「わからん」
「教本にその魔法の事書いてあるのじゃが」
「どこに?」
クラブは教本をめくってカイが言いたい魔法を探す。
「それじゃ、それ」
クラブがとあるページにたどり着くとカイはそのページを指差した。
「召還術?」
「うむ」
「召還術が?」
「左様」
「これほど魔力使う魔法はないだろ?」
「主殿は召還術に誤解した知識をもっておるようじゃの」
「誤解?」
「召還術は一見魔力を膨大に必要とする魔法に見えるが、それは契約のバイパス接続時と召還獣を環六界から呼び出す時のゲートを開く時くらいにしか魔力は使わん」
「ん? それは召還術の基礎だと習ったが……」
「人間の公使する術は非効率なものが多い。 召還術は最たる例じゃ。 しなくてもいい事までやっているからの」
「しなくてもいいこと?」
「契約した召還獣を環六界に配置することじゃ」
環六界とは、契約した召還獣を待機させる空間の事で、異次元とでも思っていただければいい。
「環六界に置いておかないと召還獣が暴走するとか習ったんだけど……」
「暴走……。 うむ、それは現界での制御法を行わなければそうなるわな」
「つまりカイは、現界での制御法を知っているというわけか?」
カイは不適に笑う。
「そんなめんどくさい事しなくてもピィたちがパパの召還獣の真似すればいいです」
と、ピィが口を挟むがカイはため息をついて首を横にふった。
「それは汝も我も都合が悪かろう?」
「ぴ?」
「忘れたか、このバカ鳥。 その手をアカデミーで使うと汝の姿をあのものに晒すことになるぞ?」
「ぴ!?」
ピィはイヤイヤと言わんばかりに首を振った。
「ひじりに存在をバレるのってそんなに嫌なのか?」
「嫌ですよ、なんかあいつ嫌いです」
「まあ、我とてあまり好ましくないな。 我はピィと違い鮮明に記憶が残っているからの」
「ひょっとして、そうじゃないかな、ってずっと思っていたんだけどひじりって英雄カシューの転生?」
「おや、言ってなかったかの?」
ひじり=カシュー説、確定か。
「ピィの奴は一度卵に戻っておるため当時の記憶は残っておらなんだが、ピィの魂があのものの事を徹底的に覚えておる。 だから記憶がなくともあのものを本能で嫌うんじゃろうな。 まあ、話を戻すぞ、主殿」
「ああ、その件はまた追々聞かせてくれればいいさ」
「結論から言うとじゃな。 ……主殿が召還術を会得すれば魔法学の実技はパスする事ができる」
「会得っていってもどうやって? 召還術ってかなり難度が高いから一年時の魔法学では基礎すら習わないぞ?」
「そこは我らの出番じゃて。 我らが魔力を必要とする工程を受け持ち、あとは主殿が召還獣と契約すれば解決よの」
「契約の方法とか、全く知識ないんだけど」
「やり方は様々あるが、暴走とか維持とかめんどくさい事を簡略化するならば力で倒して調伏させれば早い。 我を調伏したようにの?」
「なんかいろいろ突っ込みたいこと満載だが水掛論になりそなのでおいておこう。 確かに方法があるのならそれにすがるしかないよな」
「では善は急げじゃ。 早速やるかの」
「早速やる!? 今すぐってことか!?」
「うむ。 早い方がいいじゃろ」
「心の準備くらいさせてくれよ」
「大丈夫じゃ。 我とピィもおる。 よほどなものを呼び出さない限り楽勝じゃて」
「そのパターンはそのよほどなものとやらを呼び出してしまうパターンだ!」
「むぅ。 主殿は心配性じゃのぅ。 主殿は確かにそういった星の下に生まれているようじゃが、人間と相性の良い召還獣で我らと並ぶ格の連中などほぼおらん。 並たいていの召還獣なら我らで処理できるから安心するが良いぞ?」
そこまでカイが言うなら信じてみよう。
「わかった、じゃ、頼む」
「うむ……。 ピィよ、汝は呼び出しを頼む。 我は戦闘フィールドの形成を行うでな」
「りょーかいであります!」
カイは見たこともない魔法式を紡ぎ出し、周囲は緑一色の背景となった。
「戦闘フィールドの生成終了じゃ。 ピィ、主殿と相性の良い召還獣を選別して呼び出すが良い」
「…………ん〜と、おいでですよ!」
ピィの呼びかけに呼応して、ピィの足元にまたもや見たことのない魔法陣が発生し、その魔法陣からなんかがでてきた。
「…………」
「…………」
「………なあ?」
出てきたのは黒い刀身をしている剣。
その刀身からはまがまがしいまでの殺気が放たれていた。
「質問いいか? あれ、処理できるんだよね?」
「…………」
「……こんのバカ鳥! ヘポイオスの剣など呼び出しおって!」
「ち、違うですよ! ピィはパパと相性が最も良いのを呼んだらこれが来ちゃったんですよ!」
「ヘポイオスの剣って何?」
とりあえず知らない単語なので後学のため聞いてみた。
「簡単に言うと全てのものを断つ生きた邪剣じゃ! 神とてヘポイオスの剣の前には断たれてしまう!」
「………んと、それってヤバい?」
「限りなくヤバい!」
なんでこうなるやら……。
慌ててるピィやカイを後目にまたか……となんとなく観念に似た感情がクラブに沸き上がっていた。
「やるっきゃ生き残る術なさそうね」




