第二章第2話 学技試験
今日はアカデミーの入試日。
ポシューマスのアカデミーはヴィンセントに次ぐ一大学問機関だ。
ヴィンセントのアカデミーに入学するためには高名な師の推薦状が必要な他、身分証明、家柄など学識以外も問われる。
しかしポシューマスのアカデミーは学識にさえ長けていれば門戸を開くのだ。
そのため世界中からさまざまな国の受験生が受けにくる。
ポシューマスのアカデミー卒業者の中には高名な冒険者や政治家、高級軍人、商社の重役、医者など華やかな職に就いた人もおり、アカデミーで学ぶ事は人生の成功を意味する。
(さて、俺の席は……、と)
受験票に書かれた受験番号を見る。
「777」
確率変動突入しそうな番号だ。
それとも継続か?
んな事はこの際どうでもよい。
なんとなくロベルトに仕組まれた感強いこの受験番号だが、一受験生としてはただの自分の認識番号に過ぎない。
昇降口に張り出されている自分の受験番号を探す。
「700〜800、402号教室」
402号教室か。 試験開始まで時間はあるけど、試験場でただ待ってるだけというのも緊張するだけだな。 とりあえずブラブラしていようかな……。
そう思い、校舎の中に入る。
しかし、校舎の中は受験生で混雑しており、とてもではないがブラブラ気ままに歩くのは出来ないという結論に至る。
仕方ないので自分に割り当てられた席につき、参考書をパラパラとめくった。
「それでは席に着いてください」
参考書に没頭している間に試験官がやってきていた。
「ようこそ、アカデミーへ。 これより試験を開始します。 試験内容は告知通り、午前は学力テスト、午後は実技テストを行います」
アカデミーの入学テストは毎年学力テストと実技テストがあるのだが、厄介な事に学力テストにしても実技テストにしても毎年試験内容はガラリと変わる。
学力テストに至っては何の教科を出題されるかは問題用紙を見るまでわからないからくりになっているのだ。
そもそもアカデミーとは賢者と呼ばれる上位職を養成する機関なのだから、如何なる学問も精通する必要があるわけだ。
科目は三教科。
ある程度は勉強してきた。
だがどうしても苦手な科目もあるわけで……。
「問1、以下のアイテムにおける流通価格を地域毎に記入しろ」
最初の科目はアイテム知識だった。
仮にも俺は商人の息子である。
この辺の勉強はオヤジに嫌になるくらい叩き込まれている。
出題されているアイテムはどマイナーなアイテムで一般人には馴染みの薄いアイテムだった。
これは世界中の流通に関して常に情報を張っていなければ解けない難問なのだろうが生憎と知っている問題。
第一関門はまずは突破したと見ていい。
次の科目。
「以下の物質をAとし、Aを練成させるために最も適した手順を記載せよ。 またそれに伴いAから派生させる事が可能な金属を全て記載せよ」
錬金学とはまたマニアックな学問のチョイスだ。
錬金学に携わる人が少なく、それに関する書籍は基本的に一般公開されていないため、学びたくとも学ぶ機会を得るのが難しい学問だ。 独学でなんとかなる学問でもない。
しかし俺はオヤジの顧客に錬金術師がいて、届け物とかしていたらその錬金術師に気に入られ錬金術の基礎を学ぶ機会を得ている。
全問題を見る限り、解けない問題はない。
今の所、運だけで問題を解いているようなもので、全くといっていいほど試験対策のため勉強してきたものを活用できていない。
これでいいのかと自問自答したくなるが運も実力のうちと昔の誰かが言っていた。 今回に関してはまさに俺に当てはまる言葉だ。
人生どこで何が役にたつかわからない。 くそ親父に関わることで二科目通過できたんだから尚更だ。
次の科目。
「問1,以下の設計図を見て、改善案を記載せよ」
……………。
そもそも何の設計図だ、これ?
科目が何なのかを模索するために、まず最初に問題を解くより前に全ての問いを読む。
合成式、調和と平定。 融解に光の速度を求める問い。
……。
とりあえずこの科目は科学、魔法学、天文学、錬金学など古今東西の学問の集合体というわけだ。
結論から言って問い1は純粋に設計図を見て完成形を推察し、そこから問題点を上げるという難問のようだ。
しかしこの科目の問題を作ったやつはかなり底意地が悪い。
上から順番に解いていく人にとって、この問題は鬼門。
一番難しい問題を一番最初に配置するとか、悪意以外何物でもない。
問い1は時間がかかるのが目に見えているから他の問題を解いてから取りかかろう。
学技試験終了後、周りからざわめきが立っていた。
「なんだよ、さっきの問い1。 あれ結局何の設計図だよ?」
「知るか! てかそもそも完成形がわからんのに改善案も何もないだろ」
俺も諦めかけていた。
あの設計図、動力部はあるものの、何を動かすための動力なのかが全くない。
タービンを回すために必要なエネルギー源を補給する場所、エネルギー源を気化爆発させ、エネルギーを発生させる部屋。 爆発のエネルギーを力として動力を回すシステム。
しかし、動力が回るだけでそれを活用するものがないのだ。
改善の前に欠陥なのだ、あの設計図。
そこを指摘できるかどうか、冷静に考えなければいけない問題だったのだ。
気付いたのは終了直前。
してやられた感があるが、解けたので問題はなかった。
次は実技。
何を課題にされるか直前まで不明。
姉に作ってもらった弁当を食べながら、黙々と時間を過ごしていった。