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第二章第19話 残炎

 クラブを置いて転移した先は、一面草原だった。

 ここがどこか考えるより早く強烈な眠気に襲われる。

 当然だ。

 クダンのマナコに内蔵されている魔力を使ったとはいえ、イージスに範囲転移、業炎レベル15に氷結レベル18と、本来の酒木原ひじりでは有り得ない魔法を連発したのだ。

 体がついていっておらず、本能が休養を欲しがるのも無理はない。

 周りを見る。

 千冬、ロブ、アマリリス、エルニエルと俺。

 クラブを除くパーティーメンバーを無事ここまで運ぶことができた。

 だがここはまだ安全地帯とはいえない。

 俺を除くものはまだ意識を回復しておらず、ここで俺まで眠ってしまっては魔物にとって格好の餌だ。

 意識を保とうと努力する。

 しかし、朦朧とする頭は調合の計算式をうまく構築できず、眠気に負けてしまう俺がいる。


「くそ!」


 クラブを見捨てるという苦い選択をしたのに自身のていたらくに泣けてくる。

 わかっていた。

 あの場に残る事による危険を。

 クラブの策があるという発言は、俺の迷いを断ち切るための方便であることも。


「眠って、たまるかよ……」


 危険な地帯にいるのならもう一度転移すればいい。

 ここならアンチマジックもなければマジックチャフもない。

 安全地帯までの接続に苦労ないはずだ。

 俺はクダンのマナコを手に取る。

 その瞬間、なぜこの事を忘れていたのかと考える。

 クダンのマナコの残量はもはや皆無であったということを……。

 ならば諦めるか?

 否、断じて否。

 クラブは俺を信用して俺を逃がした。

 なんのために?

 このパーティーを生還させるためだ。

 手がなくても諦めるわけにはいかない。

 何か、何かないのか?

 周囲を見渡す。

 ただ一面に広がる草原。

 そして遠巻きに一行を囲む赤い猪の群れ。


「ファルサー……」


 最悪のタイミングで遭遇してしまった。

 ファルサー。

 猪の亜種で彼らの持つ牙は彼らの突進と相乗して重鎧すら粉々に砕き、その様から草原の突撃魔と異名を持つモンスターだ。

 また彼の牙には麻痺毒もあり、油断すると麻痺毒で動きを封じられる危険もある。


「く!」


 俺は剣を抜き、ファルサーの群れを睨みつける。

 ファルサーの群れは遠巻きに俺らを見ていた。

 本来の調子であればファルサー如きに遅れはとらないものの、今の調子では苦戦は免れない。


「来るなら来い!」


 その言葉が戦闘の合図となったのか、ファルサーの群れの中の数匹が突撃してきた。

 俺は白い液体の入った瓶を突撃してくるファルサーの進路上に投げつける。

 瓶は地面と接触し割れる。

 割れた瓶の中から白い液体が空気に触れた瞬間粘着力がある固体に変化する。

 その固体に足を突っ込むファルサー。


「ブギギギギ!?」


 白い物体はとり餅のようにファルサーの足を離さず、その場で固定させてしまった。

 クラブ命名、とり餅爆弾。

 クラブが調合したこの爆弾の威力は市販のとり餅より扱い難いが、効果はご覧の通り。

 薬師を生業とする俺と爆弾使いを生業とするクラブ。

 俺の薬師としての業は、治療、予防、強化に特化したものを調合するのに対し、爆弾使いの調合は、破壊、妨害、弱体に特化したものを作り出す。

 調合とは奥が深い。

 俺の記憶にあるかぎり、クラブという爆弾使いは発想力、応用力ともにダントツだ。


「やっぱりクラブはすごいよな……」


 だが感心ばかりもしていられない。

 まだファルサーの群れはこちらを伺い攻撃するタイミングを計っているのだ。


「眠い…………。 寒い………」


 あ、こりゃダメだ。

 今の俺じゃ不相応なことだった。

 知識を引き出す反動……。

 まだこの身体には無茶すぎた。


「昼なのに流星群が見えるとか、いよいよヤバいな……」


 そういえば酒木原ひじりの一代前、弓を流星の撃ち放つ仲間がいたっけ。

 放っておけない娘だったな。

 勇者とやらの重責を押しつけられながらも何に対しても懸命で……。

 レイ=クルレサス。

 第16次聖魔大戦で朱雀神軍を打ち破った勇者とされた少女だった……。


「は!?」


 流星が、流星の矢の嵐がファルサーの群れに降り注ぐ。


「………流星」


 流星群の矢、シューティングスター。

 勇者と呼ばれた少女レイ=クルレサスの技。


「レイ……」


 それが最後の意識だった。




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