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第二章第18話 帝竜の名

「安直な名前じゃの。 もっとマシな名前は思いつかんのかえ?」


「ピィはいい名前と思うですよ」


「汝は鳥頭じゃから感性というものがじゃな……」


「む、またピィをバカにするですか?」


 姉ほどではないにせよ、俺のネーミングセンスは最悪らしい。

 思いついたまま名前を言ってみたら付けられた本人はむっとした表情となる。


「主殿、それが我の名前かえ?」


「え……、いや、気に入らないなら変えるけど」


「気に入らないことはない。 だがこのバカ鳥と同系列の名前は如何したものかと思案する次第じゃの」


「またバカ鳥ていった。 上等です、ピィ強いんですよ!」


「ま、うるさいのは置いておいて、主殿は我らのことどの程度認知しておるかや?」


「我ら? なんのこと?」


 少女はため息をつき、ピィを見る。


「汝、主殿に本当になんの説明もしていないのじゃな?」


「パパと遊ぶのが楽しくて、つい」


「つい……。 困ったバカ鳥じゃ。 だから何も知らず我の所に主殿がきたのじゃな……。 そもそも主殿が我と対峙しておったのを主殿と繋がっていた汝は気づいておったはずじゃが、なぜすぐこなかったのかの?」


「う……」


「ふむ……、あのものかえ?」


 あのもの?


「気持ちはわからんでもないが主殿が死すれば本末転倒じゃて」


「ピィ、あれ嫌いだもん」


「困ったヤツよ。 だからバカ鳥と言われるんじゃ」


「むぅ〜〜」


「さて主殿、このバカ鳥が話していなかった事を話そう。 結構大きな話ゆえ、信じることできないかもしれんが、主殿に頂いた真名カイの名に誓い、我は嘘偽り言わぬ」


「どんな話?」


 カイは俺の目を見つめる。

 その瞳は神秘的なまでに深い黒。

 俺はその瞳に吸い寄せられるように、話を聞いていた。


「主殿は四聖という言葉を聞いたことがあるかの?」


 四聖。

 教会が言うには世界の根源を司る神の代行者。

 四体の聖獣を総称した呼び方だ。

 東方の呼び方をするなら、青龍、朱雀、白虎、玄武。

 朱雀は不死鳥やフェニックス、火の鳥と様々な呼ばれ方をし、神話やおとぎ話に奇跡を引き起こす神の使いとして登場した。

 そして朱雀という名前は、人間にとって記憶に新しい存在である。

 朱雀を信奉する集団が50年前結成された。

 その組織の名を彼らは朱雀神軍と称し、汚れた世を浄化するという名目で世界に宣戦。

 圧倒的魔力の前に世界中の国の軍隊は敗走した。

 つい25年前、勇者と呼ばれる一行が朱雀神軍の中核を倒すまで世界は暗黒時代だったという。

 その中核に位置したのは朱雀と呼ばれた神獣。

 朱雀の名は、世界にとって忌むべき名前だった。

 勇者の話について色々逸話があるが長くなるので割愛する。


「まあ、知っている」


「ならば話が早い。 我は青龍と呼ばれたモノ。 そしてそのバカ鳥が朱雀と呼ばれたモノじゃ」


「は?」


 カイが何を言っているのか理解するのに数秒時間を要した。


「まあ、50年前の話じゃて。 今の主殿のように朱雀に魅入られた者がいた。 それがエドワードというもの。 人なら聞いた事あるじゃろ?」


 エドワード。

 朱雀神軍を結成し、魔王の名を欲しいままにした破壊の主。


「あれは純粋であった。 まもなく来る未曽有の災厄を本気で憂い、世界の意志を統一すべく敢えて汚名をかぶり魔王となった」


「未曽有の災厄? 敢えて汚名?」


「そんなヤツだからこそ、我と白虎は彼の者に協力した。 だが人間にしたら我らは災厄以外何者でもない。 本来我らと手を携えるべき人間が残念なことに我らと敵対した……」


「それが勇者?」


「白虎が敗れ、我が敗れ、そしてエドワードが敗れた。 そしてこのバカ鳥は大人しくしてればよいものをエドワードの敵をとるべく暴走した。 それが現在最後の聖魔大戦のすべてじゃ」


「力を失いし我は地中に眠り、こやつも空に眠った。 しかし先も話したが未曽有の災厄が目前までに迫っておる。 我らは未曽有の災厄に対抗するためにのみ存在するものよ」


「その未曽有の災厄ってつまりなんなんだよ?」


「地と天の魔とでも言っておくかの。 これまで起きた聖魔大戦は記録されているだけで17回。 それはすべて世界を滅ぼしかけたというが、この未曽有の災厄とやらはその17回いずれよりも凌駕する危機と認識で間違いない」


「話がすごく突拍子ないからイマイチ実感が掴めないんだが……。 つまりまた聖魔大戦がおきるてこと?」


「既に予兆はおきておろう」


「予兆?」


「魔物のことはどう説明する? 狩っても狩っても尽きることなく沸く魔物。 賢者が築き上げた国の腐敗。 いずれも災厄の前触れだとしたら?」


「…………まあ、国の腐敗に関してはなんとも言えんが、魔物に関してはなんか納得。 でも、疑問があるんだけど」


「なんじゃ?」


「なんで俺?」


 俺は至極まっとうな質問をする。


「その質問の真意はなんじゃな?」


「俺、勇者の家系ってわけでもないし、ただの一冒険者だぜ? なんでそんな勇者がされるような話を俺なんかに?」


「魂の輝きじゃの」


「は? 魂の輝き?」


「惹かれる人間というものがいるじゃろ。 それこそ主が選ばれた証よな」


「そんな不確定なもんで……」


「うむ。 偶然、主殿がこやつの目に止まり主殿に接触したわけじゃ。 いわゆる宝くじに当たったもんだと認識すればいいわけじゃて」


「んな適当な。 それこそそんな重責、勇者のとこにもってけよ」


「我らと勇者、存在理由は同一でもうまがあうわけではない。 幾度も勇者と我らは敵対していることも人間の歴史には残っておろうて」


「……む」


「価値観の相違といったやつじゃな」


 どこぞのお偉いさん夫婦が離婚会見で常套句として言うようなセリフをほざく目の前の自称神の使い。

 なんだろな、この人間くさい連中は……。


「まあ、そう深く考えることはない。 何も主殿に世界を救えと大層なことは言う気もない。 我らが落ち着く巣としていてくれればいいのじゃよ」


「巣……ね」


「まあ、あまり一度に話しても主殿の頭が混乱するだけじゃ。 追々その話は補足していこう」


「なんか色々重大発言しときながら煙に巻かれたような……」


「放っておいてもいずれ主殿は自ら実感するであろ。 主殿がどう動こうと我はそれに従うのみだて」


「つまり傍観者に徹するといっても?」


「それも一つの選択じゃな。 我らは主殿の決定に意を挟まぬ。 それが主従であろ?」


「主従……?」


「いかがしたかえ?」


「いっておくが俺はピィやカイを従えるとか面倒なことはしないぞ」


「というと?」


「俺はそんな上下関係みたいの嫌いなんだよ。 だから冒険者なんてやってるんだから」


「かわった主殿よの」


「冒険者なんてみんなそんなもんだろ」


「そうかえ?」


「ま、なんだ。 おまえ等が妙に重たいもの背負ってるのはわかった。 それにピィだって俺を巻き込みたくないから言わなかったんだろ?」


 ピィの頭に頭を乗せ、撫でてやる。


「パパ、頭ぐるんぐるんするです」


 こいつらと面白可笑しく過ごせればいいな……とそんな事を思いながら……。



 ファラス王国水軍、カネル水塞。


「何か起きてるな……」


「革命に暗殺と、なかなか世界は混沌としていますね」


 ナストリーニ王国とユハリーン王国で革命がおき、ウェンデス王国では現王が自身の皇太子に倒された。

 どれ一つをとっても歴史的事件。

 不安定ながらも拮抗を保っていた世界のバランスが音をたてて崩れ落ちていく。


「リーズ中夫! ここにいたのか!」


「どうしたんです、そんなに慌てて」


「魔法軍の連中、やりやがった!」


「…………」


 魔法軍若手将校たちによるクーデター、勃発。

 遠い戦火の火種は身近に燃え移ったということか……。


「すぐに出陣する、奴らを王都から追い出すんだ!」


「了解です。 水軍五番艦、直ちに王都に急行します」


「うむ、急げよ!」


 クニラ水軍大夫は、バタバタ出て行った。


「副長、どう思う?」


「きな臭いですね。 ファラスでも混沌の匂いが渦巻いています」


「ボクの所感ではここまで続くとなんか作為的なものを感じる……」


「作為的? 誰が何のために?」


「世界中が戦争という業火に包まれれば得をする人間なんてはいて捨てるほどいる。 だけどそれを実行に起こせるだけのやつとなるとそれこそ見当はつかないけどね」


「しかし焚き付けるのが我ら水軍でなくよりによって魔法軍とは。 存外に見る目のない仕掛け人ですね」


「まあ、ここで副長と議論しても全く意味のないことだ。 さっさと準備しないとアレー提督にどやされる」


「いつでもいけますよ、抜かりはありません。 さてさて海賊相手とはいえ常に実戦に身を置いている水軍と王都でまったりやってた魔法軍。 勝敗は明らかですが」


「副長、油断だけはするなよ」


「心得ています」




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