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第二章第17話 帝竜戦終幕

クラブサイド


 昔のとある偉い人がある格言を言った。

 全力を尽くせば例え失敗しても全力を尽くせたのだから後悔はない、っと。

 壁に当たれば全力を持ってぶち当たれ、それで壁を砕けずとも挑戦した事に意義がある……だったっけ?

 では、今俺は全力を持って挑戦に失敗したわけだが、満ち足りた気分になれるわけがない。

 いっそ、今俺の中にある感情は満足や満ち足りるといった感情の両極に位置する絶望、って感情が満たされている。


 俺の切り札であった次元核融合弾を内部から食らっても立ち上がってきたカイザードラゴン。

 いや、前回カッコつけたんだから大人しくぶっ倒れてくれればいいものを……。

 ていうか、もう対抗策は微塵もない。

 このままこの竜にぶっ殺されるのを待つだけ。

 面白くない事実だが、如何せん切り札を使い切ったので成す術がない。


「ひじり、クダンのマナコなんだけど、どれくらい残ってる?」


 ひじりは首を横に振る。

 空っぽということか。

 ならやることは一つか……。

 戦術的撤退あるのみ!


「んじゃ俺が引きつけるから撤退な」



ひじりサイド



「んじゃ俺が引きつけるから撤退な」


 一瞬、目の前のやつが何を言っているのか理解できなかった。


「……は?」


 撤退。

 つまり、逃げるということ。

 何から?

 この目の前のカイザードラゴンから……。

 どうやって?

 そんなこと出来るならカイザードラゴンの存在を確認した瞬間にしている。

 全員が無事逃げ延びれることは不可能と判断したからこそ戦うという選択をしたんじゃなかったのか?

 引きつける?

 確かにクラブなら俺らが逃げるまでカイザードラゴンの注意を引きつけることは可能だろう。

 しかし引きつける役のクラブは俺らが逃げたあとどうやって撤退するのか?

 まさか……。


「クラブ、死ぬ気か?」


「冗談いうなっての。 なんで俺がこんなとこで死ななきゃならんのさ」


 クラブはいつもの調子でそんな事を言う。


「じゃあ俺が引きつけるから、クラブこそみんな連れて逃げろよ」


「バカいうな。 薬師のお前がどうやってあれの注意をひくんだ? 頼りのクダンのマナコも殆ど空っぽなんだろ? そんなお前が引きつける役をやってどうやってお前が助かるんだ?」


 クラブの状況に基づいた的確な回答に何も答えることが出来なかった。

 だから確認する。


「クラブが生き延びる公算はあるんだな?」


「くどい!」


 クラブは爆弾を取り出す。


「行け!」


「わかった、頼む」


 俺は気絶しているパーティー面々を集め、クダンのマナコに残っている魔力を頼りに空間転移の法を行使する。

 この場所の空間と、指定した先の空間をつなぎその場の人間を指定した先に纏めて転移する魔法だ。

 転移先の指定は、ダンジョン外で待機している教師のそば。

 くそ!

 カイザードラゴンの発するアンチマジックが空間のゆらぎにまで干渉していてうまく接続できない。

 なら空間指定を放棄。

 この際、この場から離れることができればどこでもいい。

 転移先を再検索。

 マグマの火口上空?

 そんなとこに転移したら全員もれなく黒こげだ。

 その転移先は破棄だ。

 再検索開始。

 よし、そこなら転移先で死ぬ事はない。

 空間接続開始。

 ってなんだ、このノイズ。

 クラブがカイザードラゴンの注意を引くために使ってる爆弾か。

 マジックチャフグレネードとかいうやつで魔法による探知を阻害する物質を散布したわけか。

 確かにカイザードラゴンは俺らへの注意はそれてくれだが転移空間も一緒にノイズだらけになったわけで、接続に時間がかかる、かかる。


「ひじり、まだか!?」


「少し待て!」


 ったく。

 俺を過度に信頼しすぎだろ。

 マジックチャフを空間に散布されて転移先の座標固定をやらせようとするんだからな。

 この難易度を例えるなら常にコンパスがグルグルと回転しながら星も太陽も見えないどんよりとした雲に囲まれて何の目印もない大海原で食料がまったくない状態で舵をとるくらいの難易度。

 世間一般でいうなら詰み。

 俺の認識でもそりゃ詰みだと観念する。

 だけど、クラブはそれでも俺を信用した。

 わかったさ。

 無駄に難易度高いこのミッション、やり遂げてやる。

 運を天に任せ終着点を目指して接続を続行。

 接続、完了。

 転移の施術式、起動。

 転移効果距離、術者より半径三メートルに指定。

 施術式が完成するまで20秒。


「施術式の構築まで20秒だ、クラブ!」


 クラブが20秒で転移範囲に飛び乗ればクラブも一緒に転移できる。

 しかしクラブは首を横に振った。

 カイザードラゴンの口には爆炎を吐くべく膨大なエネルギーがたまり始めていた。

 クラブが転移範囲内に向けてしまうと、あの爆炎がこちらに標準をあわせてしまう。

 イージスを幾度も相殺したあの爆炎を防護なしに被弾してしまうと塵も残らない。

 クラブは挑発と言わないばかりに威力の低い爆弾を次々に繰り出し、爆炎の発射向きをこちらに向かないよう、一心に引きつける。

 クラブの目論見は成功している。

 カイザードラゴンの意識は俺らではなく、クラブ一人に向いている。


 15、16、17、18、19……。

 転移陣、発動。

 視界に写っていたクラブとカイザードラゴンは消え失せ、どこかの草原が目の前に広がっていた。



クラブサイド。


「さて……と……」


 ひじりらは転移でこの場を離れた。

 これで全滅という最悪の目はつぶれたわけなのだが……。

 目の前には爆炎を吐き出す瞬間のカイザードラゴン一匹と、それをなすすべもなく食らうしか選択肢しかない俺。

 もとよりみんなを逃がした後の策なぞ皆無。

 この先のことなんて微塵にも考えていない。

 爆弾のストックも今し方全部使い切った。

 はいはい、自己満足乙。

 俺は自分に対し、冷ややかな感想を投げかけた。

 いくらカッコ良く味方を逃しても自身が死んだらそれで何もかも終わりだということも認識している。

 自身に対しては何も益なき行為。

 そんなことわかってる。

 でもさっきの状況で出来る手はこれしかなかったわけで。


「あ〜あ、俺ってほんと貧乏くじ」


 ただ単にあの状況下、ひじりが引きつけ、俺がみんなを連れて逃げるという選択肢が選べなかった。

 みんなを連れて逃げる為の手段はひじりにはあって俺にはない。

 これこそ俺がここに残らざるえない理由だったのだ。


「死にたくないな……」


 頭によぎった絶対絶命の言葉を俺は打ち消すように呟く。


「死なせませんですよ」


「え?」


「パパにはピィが着いています」


 炎を纏い、忽然と現れたのはピィ。

 カイザードラゴンの吐き出す爆炎をピィの纏う炎が完全に打ち消した。


「よくもパパをいじめましたね? 昔の知り合いとはいっても容赦しないですよ」


「ヌ……、汝カ……。 久シイナ」


「ええ、あなたはおかわりなく」


「汝ハ大分カワッタナ……。 シカシソノ姿デハ本来ノ力ノ10分ノ1もダセマイテ」


「あら、あなただって大分弱体化してるじゃないですか。 パパにやられたんですね?」


「フ……。 汝ノ主ハ人間ニシテハヤル」


「当たり前ですよ、ピィのパパなんですから」


 ピィの左手に炎が収束しだす。


「警告しますです。 降伏を受け入れなさい」


「ヌ……」


 カイザードラゴンはピィの発する警告に一瞬止まる。


「見タ目ハソレデモ力ヲソコマデ回復シタカ」


「パパのおかげです」


「フム……。 デハ我ハ降伏ヲ受ケ入レヨウ。 ココデ消滅スルノハ本意デハナイカラナ」


 そう言ってカイザードラゴンは爪を収めた。


「主殿、主殿ノ名ハナントイウ?」


「は?」


 事態の急展開さに俺の頭はついていかなかった。

 ピィとカイザードラゴンがなんか勝手に話を進めてしまい、俺としてはわけがわからない状態となっているわけで。


「声がくぐもってるからですよ、きっと」


「ム……。 コノ姿デハコレガ精一杯ナノダガ……。 ヤムエマイ」


 そういってカイザードラゴンは急に縮みはじめ、気がつくとカイザードラゴンが立っていた場所にはピィと同じくらいの少女が立っていた。

 黒い髪で黒い瞳、黒い服を着た一見可愛らしい人形のような少女はクラブを見つめる。


「どうじゃ、この姿なら声がくぐもることもあるまい」


「なんで幼女?」


 色々突っ込むことは多々あるが、突っ込まなければならない優先順位を絞ったらこの発言になった。


「この姿になってしまったのは主殿らのせいじゃて。 あれだけのえげつない攻撃のせいでこの姿になったのじゃ」


「そもそもあるじどの、って何?」


「これは意なることを。 主殿は我を破った。 古き盟約により我は主殿に仕えることが決まったわけじゃ」


「は? はあ?」


「さて、主殿。 主殿の名前はなんというのじゃ?」


「クラブ……」


「クラブ殿か。 記憶した。 さて、我の名前はなんじゃ?」


「は?」


「ちょっと待つです」


 困惑する俺の横でピィは横やりを入れる。


「パパはピィだけで十分ですよ! 他を当たってください!」


「それは受け付けぬ。 古の盟約に乗っ取り主殿は我の力を得る。 これはもはや動かぬ事実じゃて」


「古でもダメです! パパを干からびさせる気ですか?」


「汝が自重すればいい話じゃろ?」


「……なあ、二人は何の話をしているんだ?」


 何を言い争っているのかわからないので口を挟んでみた。


「なに、この暴食多寡なアホ鳥に世の中の道理を説いているだけじゃて」


「暴食って、侮辱ですか!?」


「実際暴食じゃろ。 主殿の魔力、ほとんど底をついておるではないか」


「う……」


「あ〜〜、意味がわかるように説明してもらってもいいかな?」


「主殿の魔力をこのバカ鳥が食べ過ぎているという話じゃ」


「俺の魔力を食べ過ぎている?」


「あ〜〜、うぅ〜〜……」


 ピィはばつが悪そうに俺をチラチラと見る。

 なんとなく納得。

 最近魔力が全く無い原因はピィに食べられていたからか。

 ま、俺は基本魔術師じゃないし、魔力無くてもあまり困らんから問題ない。


「パ、パパ、怒ってるですか?」


「なんで怒らなきゃいけないの? ピィにとって俺の魔力は必要だったんだろ?」


「はいです」


「ならいんじゃね? 俺、別に魔力使う戦い方しないし」


「それは勿体無いの、主殿」


「ん?」


「そのバカ鳥が現界したのはわずか一週間程度じゃろ? そしてその期間でここまで回復させるだけの魔力をこのバカ鳥に与えていたわけとなるわけじゃから、主殿の総魔力はかなりのものと推察するのじゃがな」


「パパの魔力は純度が高いのです」


「そんな魔力なら我を養う位わけなかろう。 そういうわけで我に早よう名をつけておくれ」


「名前? 名前をつけるとどうなるんだ?」


「名前を主殿から授かれば我は主殿より魔力を受ける道を繋ぐ事ができるのじゃ。 バカ鳥から説明はなかったのかえ?」


「うんにゃ、全く……」


「呆れたバカ鳥じゃ。 重要なことを伏せておくとは……」


「うぅ……」


「名前を付けなければどうなるんだ?」


「我が消える」


「は?」


「主殿らから受けたダメージは主殿らが思っているより大きい。 今でこそこうやって話しているが、いずれ力尽きて朽ちる定めよ」


「先に喧嘩ふっかけてきたのお前からだろうが」


「なかなか痛い事をいいよるな。 まあ、我をいらぬというならそれはそれで構わぬ。 我はここで静かに消えゆくのみじゃて」


「なんか良心に訴えるような脅迫をされているのはわかった。 これ断ったら俺かなりの人でなしじゃね?」


 とりあえず名前をつけてあげればこの娘は消えないですむという。

 んじゃ、名前をつけてみるか……。

 名前、名前、名前……。

 う〜〜む……。



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