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第二章第16話 帝竜の苦痛

「炎と氷、同時に高火力で撃ち出す事可能?」


 クラブのやつは魔術師ならだれもがNOと答える質問をしてきた。

 両極にある属性の行使は、極めて危険なのである。

 魔力を火に変換する方法と氷に変換する方法は全く違う。

 シュールに例えるならば、古典の教師と物理の教師が同じ教室で自分の科目の授業を行い、二人が発言したことを一語一句間違えずに術者である俺に書き出せと無茶極まりない事をいっているものである。

 それぞれ単体でやるなら、かなり難しく面倒だが理解できる頭があるのなら出来ないことはない。

 が、文系理系にそれぞれ見事に別れた科目を同時に理解しながらついでに一語一句間違えずに全て教師が発言したことを書けと言われているのと同義なのだ。

 当然同じ教室でやっているんだから声は被るし、話す速度も異なる。

 で、書き出す人間としては、同時進行で進む以上、両手でペンを持ち、それぞれ違う文字を書き出していかなければならない。

 句読点の有無、漢字の誤字など些細なミス一つしてしまった時点でその教室は爆発してしまうというオマケ付き。

 クラブの言った言葉はまさにそれと同意義なのだ。

 確かにクダンのマナコに内蔵されている魔力にはそれぞれを行使する魔力残量はある。

 が、撃ち出す酒木原ひじりという体にそれを処理できるだけの経験はない。

 が、抜け道があることもある。

 だから俺の答えは


「………………まあ、イエスかノーで答えるならイエスだが」


 不安要素はそれこそ星の数だけあり、酒木原ひじりという存在が一歩間違えれば消し飛ぶ可能性が十二分にあるが、成功確率は零ではないのでイエス。


「じゃ、反論なければそれでどうよ」


 気楽に言ってくれるやつだ……。

 まあ、こいつの場合わかってて言ってそうなので余計に始末に負えないが。


「反論はないわけではないが…………ってしまっ!?」


 意識をクラブに向けたわずかな隙。

 それを見逃す程カイザードラゴンは甘くはなかった。

 カイザードラゴンの放つ衝撃波が迫っていた。

 全てを拒絶する盾イージスを発現展開するが急造ゆえに、衝撃波を押さえ込む事が出来ず、イージスは拡散した。

 半分程度威力を押さえ込むことができたが、押さえ込む事が叶わなかったパワーがパーティーを襲う。

 これだけの威力。

 これで立つ事が出来る俺とクラブはしぶとさに定評があるとか言われそうで怖い。

 そんな事はこの際どうでもいい。


「ひじり!」


「わかったよ、俺も腹括る!」


 やるしか方法は残されていない。

 俺が炎と氷の魔法を同時に行使さえ出来れば勝算があるのならそれに頼る。

 例え酒木原ひじりが今後再起不能になるよりもこの場で全員死ぬより遥かにマシだからだ。


「言っとくけどこれは流石に無詠唱は無理だからな!」


「何分耐えればいい!?」


「10分………、いや5分頼む!」


「長いって!」


「んな事はわかってるよ! だけどそれが精一杯だよ!」


 クラブは鋼糸をカイザードラゴンめがけて放つ。

 鋼糸は、カイザードラゴンの頭部に巻き付いた。

 蜘蛛の糸が体にまとわりつく不快感のようなものをカイザードラゴンは感じているのか、鋼糸を振りほどこうと体をよじる。

 一方、カイザードラゴンが体をよじる度に、クラブの体は宙に浮き、その都度壁に激突する。

 カイザードラゴンの力に人間であるクラブが叶う訳がない。

 だから力勝負ではなく耐久勝負にうってでたのだ。

 クラブは壁に激突する寸前、衝撃吸収の護符を発動し、自身の負担を軽減させているが、護符にも限りはあるだろうし、完全に相殺できているわけでもないため、壁に衝突する度にダメージを蓄積していっている。

 長いとぶつくさ文句を言いつつも、クラブなら五分程度は耐えてくれると信じれる。

 今世において、最も背中を任す事に躊躇の必要なき戦友とも

 冒険者支援組織、ハウスの仲介で偶然知り合った男。

 最初は無愛想の突撃厨の上、よりにもよって自己満足型の典型的な武器、爆弾を使うあまり関わりたくないと思えるやつだった。

 だがどんな腐れ縁だよ、って感じで同じ依頼を受諾して事あるごとにパーティーを組み、クラブという男の内面に触れる機会が増えていった。

 気付いたら信用に値する戦友ともになっていた。

 そうなったきっかけなんてどうでもいい事なんだろう。

 こいつといたら面白い事がある。

 そう思ったからこそ、俺はこいつがアカデミーに通うと聞いたから俺もアカデミーに来た。

 アカデミーには知識を得にきたんじゃない。

 こいつとこんな風に暴れたいから俺もアカデミーに来たんだ!

 俺にはやらなければいけないことがある。

 だが俺一人で出来る事じゃないと、長い長い転生の旅の末、理解している。

 こいつとなら今度こそ出来ると思わせてくれる。

 転生の呪縛を、今世で終わらせる期待が持てるってものだ。


「まだか、ひじり!?」


「もうちょい待て!」


 両極にある火と氷。

 それを同時に発現することは不可能。

 だが同時じゃなければ不可能から実現困難となる。

 つまり、できんことはない、ってことだ。

 まず酒木原ひじりがどちらかというと得意な方の属性、氷をまず発現する。

 それを左手に留めておく。

 ちなみに留めておくと簡単に言っちゃったが、殺傷を目的とする凶悪な氷の塊を留めておくというのは体にかかる負担もでかい。

 なんの防護策も無しにそんなことしたら左手は真まで凍結し、永久に使いモノにならなくなる。

 というわけで左手にはあらかじめ対氷魔法……アンチアイスの魔法をかける。

 当然アンチアイスの効果と氷の魔法は常にぶつかり合っているわけだから、徐々に威力が相殺しあい、拡散してしまう。

 だから拡散する前に炎をとっとと発現する必要があるのだ。

 そして今、右手には炎、左手には氷の魔法が発現している。


「待たせた!」


 クラブは俺の言葉を聞き、鋼糸をグローブから切り離す。


「口ん中突っ込んで!」


 口の中……。

 なるほど。

 外はアンチマジックが適用しているから中から崩そうって魂胆か。


「了解!」


 カイザードラゴンが爆炎を吐くため口を開けるタイミングを見計らって炎と氷の魔法を口めがけて同時に放つ。

 二つの魔法は、ドラゴンの口の中に炎、氷の順に入り込んでいく。

 ドラゴンはこの熱冷の痛みにより、苦しみ出す。


「こいつはオマケだ!」


 カイザードラゴンの口にクラブが小さな筒を放り投げた。

 筒はカイザードラゴンの口の中に入っていき……


「ガアアアアアアアアアアアアア!?」


 カイザードラゴンの内面が何かが爆発した。

 冷たい食器に熱湯を注ぐと砕けるように、温度差によって弱った患部を爆弾によって吹き飛ばしたのだ。



 勘違いされそうな表記はありますので先に言っておきます。本作はBL要素はありませんのであしからず。

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