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第二章第15話 帝竜の逆鱗

「全テヲ滅消セシ爆炎!」


 カイザードラゴンの口から吐き出される全てを灰塵に化すほどの高火力の炎が一行を襲う。

 さすがにこれは誰もが死を覚悟した。


「無敵のイージス!!」


 カイザードラゴンの爆炎は、突如現れた盾に遮られる。

 その盾は強大な魔力によって発生した障壁。

 何人なるものも通さない、完全無欠の巨大な盾だった。

 一体だれが?

 その魔力の発生源に立つ男は、こんなことするのは俺以外にいないだろ、っとでも言いたげな顔で立っていた。


「ひじり!」


「悪い、クダンのマナコ、使わせてもらってる」


 魔力の塊であるアイテム、クダンのマナコから魔力を抽出し、この鉄壁の障壁を発生させていた。


「あの爆炎、後2、3発位なら耐えれる! 後は頼むわ!」


 その言葉に反応したのはロブ爺さんだった。

 徒手空拳でカイザードラゴンの前に立ったロブ爺さんは、カイザードラゴン目掛けて走り出す。

 カイザードラゴンは強靭な爪と、岩をも楽々と砕く怪力を持った腕で迎撃。

 カイザードラゴンの放つ一撃に、ロブ爺さんは枯れ葉の様に掴みどころがない動きをしてやすやすとカイザードラゴンの体を登り上がる。

 そしてその老体のどこから出たのかわからないほどのエネルギーがある蹴りをカイザードラゴンの頭部目掛けて蹴りはなった。


「がっ!?」


 顔をしかめ、声にならないうめきを上げるのはロブ爺さん。

 カイザードラゴンの皮膚は、金剛石をも凌駕する硬度。

 その硬度ある皮膚を持つカイザードラゴンに放った蹴りのエネルギーは、ロブ爺さんに跳ね返る。


「竜の体躯は金剛に勝ると聞いたが、誠であったか……」


 足を引きずり、そんな悠長な感想を漏らした。


「ファイヤーランス!!」


 アマリリスは詠唱を終了させ、火炎の矢を次々とカイザードラゴンに撃ち込んでいく。


「やっぱりダメか……」


 アマリリスの放つ一発一発はカイザードラゴンの体に命中するものの、体に当たると同時に何事もなかったような四散した。


「金剛装甲に、全魔拒絶アンチマジック完備とか、有り得ない体ね……」


 武器による物理攻撃もだめ、魔法による魔力攻撃もだめ。

 ドラゴンの脅威はその破壊力のみではない。

 その強靭な防壁も合わさっているからだ。

 そのドラゴン種の中で最も強いからその名がついたカイザードラゴン。

 ひじりのイージスがなければ容易く決壊するしかない局面である。


「プリーストの嬢ちゃん」


「は、はい?」


 ロブ爺さんはエルニエル先輩を直視して質問する。


「剣神の天罰は使えるかね?」


「一応使えますけど……」


 剣神の天罰。

 教会が編み出した、如何なる攻撃を一回だけ二倍の威力にしてしまう奇跡。

 戦闘を生業とするプリーストの起死回生の魔法として広く伝われている。

 しかし、いくら攻撃を二倍としたところであのカイザードラゴンに有効なのかというと、NOと言わざる得ない。

 0の二倍も0。

 ロブ爺さんの蹴り、アマリリスの魔法、いずれも1すら届いていないのだ。


「なら頼む」


 ロブ爺さんがエルニエル先輩にそう告げた。


「や、やってはみます」


 エルニエル先輩は詠唱を唱える。

 ロブ爺さんはヒョイヒョイと、再びカイザードラゴンに肉迫する。

 カイザードラゴンの迫り来る爪を危なげなく避ける。

 千冬はカイザードラゴンの目に精密射撃を繰り返しながら援護するも、決定打に乏しいのが現状。

 そして千冬はエルニエルの視線に気付き、射撃を止める。

 千冬の射撃が止まったことを確認したエルニエルは


「戦神の天罰!」


 攻撃力二倍の奇跡を発動した。


 カイザードラゴンの体が光で覆われる。

 カイザードラゴンが戦神の天罰の効果が適用しているという証明。

 それを確認したロブ爺さんは、体中の気を練る。


「敵が硬いのなら硬いなりの戦い方がある……」


 カイザードラゴンに腕を突き出し、ぐっと体を貯め、そして発する。


 ズドゴーーーーーーーーン!!


 今までビクともしなかったカイザードラゴンの体躯が吹き飛ぶように動き出した。


「発勁……」


 ひじりはロブ爺さんの繰り出した大技の名前を呟いた。

 発勁。

 外殻ではなく、内面にダメージを与えるモンクと呼ばれる自らの肉体を武器とする職種の特殊技。

 この技を習得するのは容易ではない。

 生物内面の構造を熟知し、どこに働きかければ内部破壊できるかを正確に把握していなければ意味を成さず、さらに自分の練気を生物の体内に送り込む術も必要とする。

 外殻が硬いと傲るものほど、中身は柔らかい。

 それならば外殻を無視し、中身のみを衝撃でダメージを与えるというコンセプトのもと生み出されたと聞く。

 膨大な練気を必要とするが、必殺を冠した技だった。


「う〜〜〜む……」


 発頚は決まった。

 が、必殺にはほど遠い。


「修練が足りぬか……。 ワシもまだまだだて……」


「ロ、ロブさん、もう一度!」


 エルニエルは再度戦神の天罰を発動するべく詠唱を始めるが、


「無理じゃな」


 と、言った。

 エルニエルはその言葉の真意が掴めなかった。


「老いを言い訳にしたくないが、体がようけついていかん。 ひじり君、クラブ君、すまんがじじいは先に離脱する」


「了解です、ロブ爺さん」


「後方支援頼みます!」


 主に前衛アタッカーの離脱は、かなり痛い。

 現パーティーで前衛アタッカーを張れる者はロブ爺さんしかいないから。

 ひじりも前衛に立っているがイージスの公使に専念する専守防衛。

 後は魔法アタッカーのアマリリスと、ガンナーの千冬、支援補助のエルニエル先輩、そして爆弾使いの俺という、基本後衛ばかりである。

 この中で前衛配置として融通がきくのは俺しかいないため、無謀と分かりながら前に立つ。

 手持ちの爆弾は残念ながら少なく、あの金剛装甲に傷を付ける破壊力をもつ爆弾は恐らくとっておきの一発のみ。

 残りのはよくて注意を引きつける程度の威力しか見込めない。

 そしてなにより、このとっておきの爆弾、今は使い時ではない。

 ロブ爺さんの発頚と同じく、必殺のタイミングでのみしか有効とならない手段であり、現状では本当に外殻を傷つける程度にしかならないからだ。

 なら、違う攻撃手段が必要となる。

 これは本当に使う気なかったが、そんな贅沢を言える局面でもない。

 俺は専用のグローブをはめた。


「鋼糸……」


 ひじりは俺がはめたグローブを見てそう呟いた。


「制御できる自信があるのは二本のクロスレンジ……」


 昨日、すぐ鋼糸の修練を行い、無理なく操れるのが二本のクロスレンジと判別した。

 何より昨日修練を始めた獲物だ。

 まだまだ実戦に使えるとは到底思っていなかったが、全滅するよりは遥かにマシだ。

 グローブの人差し指と薬指からクロスレンジ分の糸を垂らす。

 目標はカイザードラゴンの左足。

 速度と精度によってはこれを切り落とす事が可能!


「は!!」


 二本の鋼糸がカイザードラゴンの足に絡む。

 が、絡んだのみで、断ち切る事はできなかった。

 俺の練度不足もある。

 しかし、鋼糸は対人用武器であり、間違っても対竜用ではない。

 人程度の皮骨を切り刻むことは出来ても、竜の皮膚を切断するには圧倒的に硬度が足りない。


「クラブ……」


 そんな中、ひじりは俺に小声で話しかけてくる。

 いつも如何なる時も飄々としているクラブの眼は真剣のように鋭い。

 こういう顔をした時のひじりはあまり宜しくないことを言ってのける時だ。


「聞きたくないけど、聞くしかないよな……、何?」


「言いたくないけど、言うしかないんで言うけど、後五回だな」


「何が五回なのかスッゴく聞きたくないんだけど……」


「……イージスの発動だ」


 ひじりはこれまでカイザードラゴンドラゴンが繰り出す三十余の攻撃を如く如くイージスで止めていた。

 それを無詠唱かつ即具現化している以上、本来発動に使用されている魔力より多く使用してできる芸当だ。

 そして何より……


「残量か? それともお前の体?」


 あれだけの魔力を一時とはいえ発動のたびイージスに変換するためひじりの体を通過させているわけで、体にかかる負荷は想像を絶する。


「体もそりゃヤバいけど、なによりクダンのマナコの内蔵量の底が見えてきた」


「もともとジリ貧だったけど、ソロソロ終焉を覚悟しろ、ってことか……」


「残念だけどな」


 しかし。

 俺自身も自覚してはいるがひじりも相当追い込まれても軽いノリなのはある意味強がっているようなもんで。

 お互いこいつには絶対決定的な弱みは見せたくないからこんなノリの会話になる。

 だが、俺はまだ悲観的になる要素はない。


「んじゃ、その五回分の魔力、…………」


「………………まあ、イエスかノーで答えるならイエスだが」


「じゃ、反論なければそれでどうよ」


「反論はないわけではないが…………ってしまっ!?」


 カイザードラゴンは隙を見逃さなかった。

 その巨体をいかした範囲攻撃。

 カイザードラゴンは飛び、その重量が地面に着地した際の衝撃をパワーにかえて攻撃する通称衝撃波。

 それの公使を許してしまったひじりは慌ててイージスを張るが、不安定な状態で具現化してしまい、力を押さえ込む事ができなかった。


「く!?」


 イージスによって幾らかは弱体化しつつある衝撃波ではあるが、高濃度のパワーを纏ってパーティー一同を襲う。


 結果、その場で立っていられたのはひじりと俺だけ。

 他のメンツは息も絶え絶えだった。

 立っている俺らもかなりのダメージを受けており、満身創痍。

 全滅までのカウントダウンが刻一刻と近寄ってきていた。


「ひじり!」


「わかったよ、俺も腹括る!」


 これでカイザードラゴンがダメなら俺らは為すすべもなくなる。

 もはやとっておきも切り札もない。

 できる全てを持ってカイザードラゴンと戦う。


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