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第二章第14話 帝竜の彷徨

 学校の行事でダンジョンに潜る。

 学校の行事だからこそ、死に関わる危険はないと思ったのは間違いだったのか?


「なんでこうなったんだ、ひじり?」


「知るか!」


 目の前にはドラゴンがいた。

 ドラゴンといっても、飛竜やランドドラゴンのように人と共存している種類の温厚なやつではない。

 その獰猛さかつ凶悪さからカイザードラゴンと呼ばれている。

 一時は魔王として冠された魔物の中の魔物。

 こんなドラゴンを討伐する依頼は極めて困難なため、Sランク以上が8人以上でコンビネーション豊富と認められたパーティーが初めて受注できるほどのミッションとなる。

 で、今いるのは出会って2、3日の最高ランクBで留まっているパーティー。

 なんでこんな最悪の敵と出会ってしまったかというと……。


 オリエンテーションということでクラスメートと一緒にアカデミーが管理するダンジョンに潜るという日。

 そんなわけで、ひじりと千冬、エルニエル先輩と、アマリリス、ロブ爺さんと俺でアカデミーがダンジョンに放った魔物を雑談しながら狩りつつ、ダンジョンを歩いていた。

 ふと、千冬が何もない壁に目をやり、そこで立ち止まる。


「千冬さん、どうしたの?」


「ん……、この壁なんかおかしいんですよね」


 で、一同はその壁に注視する。

 ここでなんとなく嫌な違和感に気付いていたけれど、このダンジョンは既に何千っていう人が何回も潜り、この道を幾多の人が通っている。

 しかもここはアカデミーが管理するダンジョンであり、隅から隅まで探索を終えているダンジョンなのだ。

 だからてっきりアカデミーが洞察力の訓練のため、あえてこの罠を解除していないと思っても不思議じゃなかった。


「この壁、天然魔力によってただの壁に見せかけている仕組みっぽいね」


「て、事は……、この先にあったのは……」


 ダンジョンというものは自然にできるものではない。

 それぞれのダンジョンにはダンジョンを制作したものがいる。

 知恵のある魔物が自らの巣にするため、古代人が自分の資産を隠すためと様々な理由でダンジョンが至る所に点在するようになる。

 で、こんな手の込んだ隠し方をする通路には希少なアイテムが鎮座していたり、そのダンジョンの主がいたりするわけで。


「せっかくだし、行ってみるか?」


 この俺の発言は後々後悔することになる。

 基本、みんな冒険者だけあって好奇心は常人より旺盛なわけで反対意見は出なかった。


 最初に違和感に気付いたのはひじりだった。

 目の前に置かれている未開封の宝箱。

 しっかりと施錠してあり、誰も開けた形跡が全くない。


「有り得ないな……」


 っと呟くひじり。

 そう言われて俺も違和感に気付く。

 隠し通路に入ってからエンカウントする魔物の質が上がっているのも奇妙だし、まだ誰も触った形跡がない宝箱こそ、隅々まで探索されたはずのダンジョンにあってはならないものだった。

 そもそもここ、本当に踏破済みのダンジョン?

 開けようとするエルニエル先輩とロブ爺さんを一先ず制止するひじり。

 二人は怪訝な顔をするも一応それに従った。


「ミミックの可能性がある、ってひじりは言いたいの?」


「クラブもそろそろ気付いているだろ。 この辺りは未だに誰も踏破していない区画だと」


「まあ、この宝箱を見るまでは半信半疑だったけど……」


 ひじりとクラブは一応Bランク。

 他のメンバーよりダンジョンに潜るという経験があるため、感じた違和感である。

 その中で宝箱に対する危険もある程度認識していた。

 まずは罠。

 開けようと試みようとすれば発動するタイプ。

 毒ガスが吹き出たり、落とし穴が発動したりすることもあり命の危険がある。

 で、既知の罠でもっとも厄介なのは宝箱に擬態したミミックというモンスター。

 小型に属するモンスターだが、ミミックの持つ牙は重鎧をも噛み砕き、多彩な魔法で高ランクの冒険者ですら命の危険に晒される強力凶悪な魔物だったりする。

 一昔前ならば、ミミックに遭遇はパーティーの全滅を意味していたが、最近ではミミック対策方がある程度確立されているため、出会ったら脅威程度の認識になってしまったが……。


「むぅ……、ミミック探知機の反応は無し」


 ひじりは宝箱に変な装置を近付ける。

 ミミックは魔物なので、魔物のもつ魔力を感知する道具さえあれば、ミミックの存在に前もって気付くことができるというわけだ。


「魔力の残滓もないようですよ」


 ミミックという可能性は低くなった。


「だがまだ油断しないほうがいい。 いっそ諦めるという選択肢もあるけど?」


 と、俺は少し慎重な意見を述べた。

 誰だ、今ヘタレと言ったのは?

 これはヘタレではない。

 最低限、命を守るための勇気ある選択だよ!

 まあ、気を取り直す。


「危険はそこまで感じられない。 この中に何が入ってるか開けるまでわからないけど、レアだったら?」


 と、ひじり。

 こういう宝箱の中身は当たり外れが極端なのだ。

 これまでの宝箱で俺の中で大当たりだったのは、古代文明の書物。

 なにが書かれていたか全くわからなかったが、学者系冒険者が大騒ぎをしていた。

 なんでも歴史的価値がかなり高く、売却価格が金30枚となった。

 で、外れは古代では希少だったかもしれないが現代では道具屋などで一般的に流通しちゃってるアイテム類。

 これを引いてしまった時は骨折り損、くたびれ設けってやつだ。

 そんな事を思っていると、ひじりのやつが宝箱を開錠しだした。

 しかしひじりって何でもできるよな。

 開錠という特殊能力は、レンジャーやシーフといった職種が習得するスキル。

 自称薬師とほざく男は、そつなく現在開錠を行っている。

 便利なので突っ込まないが……。


「ん〜〜、これがこうなるから、ここをこうしてっと……ん、開いた」


 開いたと言った瞬間、カシャっという音が響く。

 ひじりはそおっと宝箱を開ける。


「ぬ」


「ん?」


 ひじりは宝箱の中身を取り出す。


「なんだそりゃ?」


 紫色の丸い物体だった。

 なんであるかは不明。


「なんて言えばいいかな。 クラブ風にいうならレアだよ」


「はい?」


「クダンのマナコじゃな」


 と、成り行きを見守っていたロブ爺さん。


「クダンのマナコ?」


「これはいわゆる魔力の塊じゃ。 古代人が魔力を何の目的でこの中に入れたか知らんが、この中には魔力が大量に入っておる。 魔術畑の職は我先にと喉から手がでるほど欲しくなる一品よの」


「つまりは?」


「これだけの高純度なら末端価格ですら金5枚といったところかの」


 ロブ爺さんは、クダンのマナコを触りながら言った。


「さて、これだけの宝がここに眠っているということは奥にもなにかしらレアな宝が眠っていても不思議ではないが……。 そこはパーティーリーダーのクラブくんの判断に委ねよう」


 今回、パーティーリーダーになってしまった訳。

 ただ単にランクがこのメンツだと俺とひじりが一番高く、リーダーの押しつけ合い合戦で我が方が敗退したらかに他ならない。


「む……」


 確かにこの奥には未開封の宝箱がある可能性もある。

 が、同時に奥に進むことにどこか警鐘めいた感覚が先ほどから途切れないのだ。

 しかしその警鐘めいた感覚に自信が持てるほど経験を積んでいるわけではないのは事実として。


「んじゃ、決をとろう。 奥に進むか、このまま帰還するか……」


 皆の意志を取ることにした。


「まず、このまま帰還する方に一票入れる人」


 手を上げたのはアマリリスのみ。


「アマリリスさんだけか」


 こういっては意外だが、彼女が手を上げるとは思わなかった。


「では、進む方に一票入れる人」


 手を上げたのはロブ爺さんと千冬とエルニエル先輩。

 ん?

 ひじりは?


「俺は保留」


「保留、って……。 なんでまた?」


「確証の持てない事は言えないからね。 アマリリスだって確証はないんだろ?」


 一人帰還に手を上げたアマリリスは軽く頷く。

 この二人も奥から流れる妙な違和感を感じているのか…。

 千冬が感じない以上、魔力とかいった確かなる脅威ではない。

 だけどいやな予感がするのは間違いないのだ。

 が、多数決の法則上、


「進むか……」


 と決断した。

 残念ながら俺らの感は最悪なことに当たってしまったが……。


 途中の道々、特に宝箱があるわけでもなくただまっすぐ進むと広い空洞に行き渡り、俺らが来るのを知っていたかのようにカイザードラゴンが待ちかまえていた、というわけです、はい。


「話が通じるといいんだけど」


 と、ひじり。


「話が通じるって、そんな事あるのか?」


 俺の疑問にひじりは答えず、カイザードラゴンに向かって問いかけた。


「貴殿の住処とは知らず、荒らした非礼を詫びる。 このまま去るのであわよくば見逃して欲しいのだが?」


「…………」


 カイザードラゴンは何も応えずひじりをまっすぐ見据える。


「誇り高き孤高の王よ、返答は如何に?」


「…………我ノ覚醒。 其レ即チ試練也……。 汝ノ力ヲ示セ。 サスレバ我ハ汝ヲ試ソウ。 我ハ試練也。 我ヲ得タクバ力を示セ」


 ……………。

 試練って何?

 汝って確かあなたという意味だよね?

 あなたたちという意味じゃないよね?

 この竜、誰を差して汝って言ってるんだ?


「だんまりか……。 相当怒り心頭のようだ」


「は?」


「無言の威圧ってとこね」


 そう納得しあうのはひじりとアマリリス。


「むぅ……。 欲からでた錆か。 致し方ないの……」


 と覚悟を決めるロブ爺さん。

 無言で構える千冬とエルニエル先輩。

 だれも試練という突っ込みなし?

 正直、ここまできたからわかったんだけど、あの竜の言葉が聞こえているの俺だけ?

 これが噂の主人公補正とかいうやつ?

 正直、こんな実用性のない補正いらないんだけど。


「クラブ、手を抜いてどうにかなる相手じゃない」


 ひじりの言いたい事はよくわかる。

 ファラスの爆炎として戦えと言ってるんですよね。

 そりゃ後の心配より今の存命が重要だってわかる。

 が、一個だけ言わなければいけないことがある。


「人違いじゃ?」


 と、俺はカイザードラゴンに言ってみた。

 なんか俺が某勇者のようにさも当然のように試練を受けにきたような発言をするどこぞの竜。

 言っておくけど、どこぞで天啓を受けたとのたまる電波な経験は皆無だし、何より俺はただの一般人ですよ?

 明らかに人違いです。


「神鳥ヲ携エナガラ何ヲ戸惑ウ、調律者エンプナー


 えんぷなー?

 聞いたこともない単語を言われても知らんとしか言えん。

 そもそ神鳥って何?

 思い当たる節すら………………あ。


 頭によぎるは俺をパパとのたまうピィ。

 いや、人の姿になるわ、珍しい見た目だわであまりにも規格外のやつが身近にいたこと今まで忘れてたよ。

 今でこそ人型に定着してたんでピィが鳥って事忘れてた。

 なら話は早い。

 そもそもピィが俺の元に来たのはたんなる偶然が重なったもの。

 それを説明すりゃこの勘違い竜も納得してくれるだろ。


「ああ、やる気になっているとこ大変申し訳ないんだけど……」


 って話始めていたら竜の口になんやらとてつもなくヤバげなパワーが貯まっているように見える。


「全テヲ滅消セシ爆炎!」


 竜の口から有り得ない高火力の炎が吐き出されていた。


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