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第二章第12話 新白衆

「はじめまして、千冬の姉の多恵と申します。 千冬が色々世話になったようで」


 と、丁寧に俺に挨拶をしてきたのは千冬の姉を名乗る多恵さん。


「クラブといいます。 酒木原ひじりにご紹介頂きました」


「はい。 一度、ひじり君の仲介で仕事させていただきましたので存じております」


「ああ、例の件ですね。 あの時は大変世話になりました」


 例の件とは、俺こと、ファラスの爆炎の所在に関する情報を情報屋界隈で混乱させた時のことだ。


「その件の中途報告なんですが、見事ファラス魔導軍もカメレオンの残党も罠に引っかかっています。 今頃四苦八苦しているでしょうね。 さて、本日の依頼内容をお伺いさせていただきたいのですが……」


「内容は前回と全く一緒です。 改めて宜しくお願いしますということで」


「と、申されますと?」


「せっかく骨を折ってもらったのに何なんですが、恥ずかしながら、ファラスの爆炎としての行動を一度ポシューマスでやらかしてしまいまして……。 改めて隠匿の必要が出てきてしまいました」


「鋼鉄の蜘蛛と戦いになった折の件ですか……」


「さすがひじりが押す情報屋ですね。 もうその件は耳に入っていましたか」


「情報屋……。 ひじり君ですか、私を情報屋とか言ってるの」


「は?」


「確かに情報屋の真似事もしていますけど、私たちは正確には情報屋ではないですよ?」


「はあ……、といいますと?」


「新白衆という隠密です」


「隠密? 隠密というと、あの隠密?」


「どの隠密かわかりませんが、暗殺とか傭兵までは引き受けておりませんのであしからず。 あくまで諜報選任の隠密ですけど。 普通、情報屋は情報操作とかまでしませんよ、念の為」


「はあ、さいですか」


「改めて自己紹介させていただきますね。 私は新白衆頭首代行、多恵と申します」


 なんとなくだが、千冬の姉だな、って思ってしまったりする。

 血は争えないというやつか。


「さて話を戻しますと、今回の依頼に関しては何もしない方が賢明ですね」


「と、いいますと?」


「今回の事はいじると逆効果になりえます。 この件をいじると逆にいじった事によって、そこを疑問に思いたどり着かれる危険性があります。 それに鋼鉄の蜘蛛の件は、目撃者も少なく、鋼鉄の蜘蛛の所在も不明になっておりますので動かない方がいいですね」


「所在……不明?」


 確かあれはアカデミーが回収したんじゃなかったのか?


「あれ? 知りませんでした?」


「……初耳ですね」


「私たちが仕入れた情報だと、回収途中で霧のように消えたとなっています」


「霧のように? あんな鋼鉄の塊が?」


「ここからは推測となりますが、機密保持の仕掛けが発動したんだと思われます。 目下、あれの開発元を辿っていますが、今のところ手がかりが一向に掴めていないんですよ」


「ふむ……」


「クラブさんも、実際に対峙しているから気付いているでしょうが、あれは科学畑の代物です。 ただ、あれほどの科学水準を満たしている組織は辛うじてウェンデス王国くらいなものですが、ウェンデス王国があの場所に鋼鉄の蜘蛛を配備するメリットはまるでありません」


「ですよね。 俺もそれは思っていました。 あれをあんな場所におくデメリットは大量にあれどメリットはまるでない」


「一つ考えられるのは、クラブさんか千冬のどちらかにあれの開発元に狙われるだけの理由がある場合です。 失礼ながら独断でクラブさんの事を調べさせて頂きましたが、一つだけ該当しているかもしれないことがありますね」


「該当? ファラスの爆炎とは他に?」


「ピィさんと名付けられた、と記憶しています」


「ピィ? するとあれはピィを狙った?」


「確証はありません。 ただ、その可能性はあります。 あの鋼鉄の蜘蛛に襲われる直前だったりしませんか? ピィさんの卵を保護したのは……」


「………………その通りですね。 なんで俺気付かなかったんだ……」


「他に思い当たる事がないからそれを睨んでるだけの段階にすぎないのですけど。 まあ、それが原因なら厄介です」


「厄介?」


「ウェンデス王国がピィさんに目を付ける理由が全くないのが現状です。 ここだけの話ですが、ウェンデス王国はそんな事をしている暇は全くありません。 なにせ皇太子フメレオンが現王を倒したばかりで、国内の取りまとめに躍起になっている段階なので」


「そんな大事件は初めて聞いたが、それが本当ならウェンデス王国はポシューマスくんだりにあの鋼鉄の蜘蛛を配置する暇ないよな……」


「となりますと、開発元の手がかりがなくなってしまったわけですね」


「ふむ」


「追調査は行っていますが、残念ながら雲を掴むようなものですね」


「あれは科学に見せかけて動力源は魔法だったりは?」


「あれが魔法を動力源とするなら千冬が魔力の流れを感知しています。 あの子、それに関しては新白衆随一ですから」


 魔法の線が消えた以上、手がかりは喪失したといっていい。

 そして新たな懸念点として、ピィが何者かに狙われている可能性があるということ。

 確かにピィは鳥なのに人になったりする珍しい鳥だ。

 学術的観点からいったらかなり重要視される存在であることはわかる。

 だが、あんな誰にも認知されていない兵器を繰り出してまで捕獲する理由がわからない。

 行動という痕跡を残すのを踏まえた上で動いた以上、動いたやつはピィの何かしらを重要視しているということ。

 が、ピィの何をそこまで重要視しているか皆目見当がつかない。


「話は変わりますけど」


「………は、はい?」


「クラブさんってひょっとしてファラス水軍中夫のリーズさんと血縁だったりします?」


「はい?」


「顔立ちが似ている上、ファラス出身ですから、そう思ったんですけど」


「ん? 多恵さんはリーズ兄と知り合い?」


「いえ。 私が一方的に知っているだけですよ。 でも結構興味の沸く殿方ですし」


「なんでまた? ファラス軍は国柄上、隠密を嫌うって聞いたから多恵さんらと交友が今後も築けるとは思わないんだけど……」


「さて、それはどうでしょうね……」


「む。 まあ、いいか。 とりあえずこれはお渡ししておきます」


 そう言ってクラブは自分の一枚と、ひじりから先ほど徴収した一枚、計二枚の金貨を多恵に渡そうとした。

 しかし、多恵は首を横に振り、


「今回、私たちは何もしませんからこれは受け取れません」


 と、報酬を断った。

 それは困る。

 ひじりから徴収という形で引っ張った金だ。

 どんな顔してどんな言葉を持って返せばいいのか?

 奴のことだ、ネチネチと文句をいってくるのはわかりきっている。

 そりゃだるい。

 なんとしてでも受け取って貰わねば……。


「わかりました、こうしましょう。 例の件に綻びが生じた場合、それの修復を依頼したいのです」


「それは前回お支払い頂いた分内の内約です。 新たにお金を頂くわけには参りませんわ」


「それにこうしてわざわざ出向いてもらったわけですし、手ぶらで帰ってもらうのも気が引けるわけです。 お茶代としてお納めください」


「こんな金額のお茶があってたまりますか。 高級茶十年分買っても余ります」


「今後の顔つなぎ代って意味も含んでいます。 なので受け取って頂けませんかね?」


「顔つなぎも何ももうつながっています。 それに仕事を受ける方がペコペコするのはなんか違うと思います」


「どーしても受け取らないというわけですか?」


「受け取らないと死ぬみたいな顔でそんな事言わないでくださいよ」


「まあ、当たらずも遠からずでして」


「?」


「半分はひじりの金なので、支払いにすむと解ったら手数料だの、手間賃などと屁理屈こねて出した分だけ帰せばいいってわけじゃなくなるんですよ」


「……ん。 ひじり君ならあり得そうですね。 ならこんなのはどうでしょう」


「こんなのとは?」


「クラブさんもひじり君も冒険者なんですからハウスの依頼状況を知っていて損はないですよね?」


「まあ、学生である以上、長く拘束される依頼は受けれないしね」


「ひじり君とクラブさんからそれぞれ金一枚分ですので一年は定期的にその依頼状況を調べさせて報告します。 これなら充分私たちも金2枚受け取れる理由になりますし、クラブさんたちも前もってどんな依頼があるか知ることが出来れば活動計画を組みやすくなるかと思いますよ」


「それでいきましょう」


「はい。 契約成立ですね」


 クラブは改めて金貨を二枚取り出し、多恵に渡す。


「確かに受け取りました。 ところで千冬、さっきからあなた何も話さないけどどうしたの?」


 多恵の横に座っていた千冬はただ無言で二人のやりとりを聞いていた。


「いえ、なんというか金額に萎縮しているだけです」


 と、本当に萎縮したような感じで返答した。


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