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RAT DANCE  作者: 華街
再始篇
6/22

祝祭

前回のあらすじ:【異常】だった

〜祝祭〜


 ダニエルさんとキメラにつられて、俺も執務室を飛び出す。

 2人は一直線に食堂へと向かう。

 ダニエルさんが食堂の扉に手をかける。

 今まさに開かれんとしている扉の隙間からは、木漏れ日のような、かといって安らぎとは一切無縁なのを感じさせる、そんな光が漏れている。

 2人に追いつき、扉が完全に開かれる。そこは……


「うわー…!」


 香ばしい香り、豪華な食器、賑やかな飾り。

 そこは、立派なパーティー会場だった。


「お、3人ともきたな ほら、どべ三人組は早く座った座った」


 Bがステーキを運びながら俺らへ席につくことを促す。

 ボタンも、リーダーもすでに座っていた。

 キメラが走りながら席へと向かう


「ちょっとキメラ 走ったら危ないよ……」


 ボタンが心配そうにキメラを見る。

 ダニエルさんはゆったりと、そして楽しみげに席に座る。

 左脇の一番手前に、俺の席はもう準備されていた。

 俺はそこへ座る。


「おいミイラ そんなに楽しみだったか?それとも俺様の料理に惚れちまったか?」


 Bが笑いながら俺に問いかける。できる限り自然に行こうとしたのだが、俺の体はそれを拒否したらしい。


「記憶がないので食事を取る経験もこれが初めてなんですよ!いやー……それにしても美味しそうですね!」


 そんなことを目を輝せながら言うと、俺以外の全員がクスッと笑う。

 そんなにおかしいことを言っただろうか。


「おいミイラ もう俺たちは同じ団員だ。もう家族みたいなもんだから、敬語はなしで行こう 皆もそれでいいだろ?」


 全員が肯定する。

 ___こういうのは、いい仲間と言うんだろうな。


「__うん! わかった!

 よろしくみんな!」


 俺は、記憶がない。でも今はそれ以前に、家族ができた喜びの方が、俺の心に溢れている。


「じゃ 全員揃ったことだし、リーダーよろしく!」


 ダニエルがリーダーに体を向け、手前のジョッキを片手に持つ。

 ダニエル以外もリーダーに体を向け、グラスを持ち始める。

 俺もそれにならう。


「それでは、新しい団員とその今後の活躍を祝って」


「「「「「「乾杯!」」」」」」



 俺は今、初めてパーティーというものを経験している。自分の新しい人生として良いスタートをきれたと思う。

なんだかんだ不安なこともあるが、今俺はこの時間を楽しんでいる。

そうだ、パーティーと言えば…………


「ねえB! はやくお酒持ってきて〜! ヒック」


 盛大にダニエルが酔っ払った。


「おいダニエル……お前飲み過ぎだぞ ミイラも困ってるだろ」

「そうだよダニエル!ミイラの顔見て!すっごいアホみたいな顔してるから」


 キメラが俺の顔を指差しながら言う。

 無邪気な罵倒ほど抗いにくいものは無い。


「ミイラ、今日が初日というのにすまんな……ダニエルは酒が弱いくせにいっぱい飲むからな いっつもこうなるんだ」

「いや、全然いいよ むしろ面白くなってきちゃってるもん」


 俺はリーダーにそう返事をする。

 それなら良いが、とリーダーは少し申し訳なさそうにしている。

 するとBが立ってダニエルの方に行く。


「いや、今日は特に飲み過ぎだぜ おい もう酒は没収だ」


 そう言ってさっきまでウヘウヘしていたダニエルのジョッキを取り上げる。

 

「あー! なにしてんのよ びー!かえして!」


 ダニエルが駄々を捏ね始める。最年長の姿か?これが


「ダメなものはダメだ!それにお前、食べ始めに『今日はミイラが新しくやってきたから、お酒は控えめにしておくわ』とか言ってたじゃねえか!」


 Bがダニエルを上から叱る。

 おや?ダニエルの顔がみるみる弱々しくなっていくぞ?


「う うわーーん!!」


 泣いちゃったよ。

 まさかここまでとは。

 昼の頼もしいダニエルはどこへ行ってしまったのだろうか。


「りーだー! びーが私のこといじめてくるー!!」

「いや、今日はお前が悪いぞ?」


 リーダーがマジの顔でダニエルに吐き捨てる。

 ダニエルの目から大量の涙が溢れ出してきた。

 それと同時に


「そんなこといわないでよー! リーダーも私のこときらいになっちゃったのー!? やーだー!」

「ギュムッッ!?」


 そう言ってリーダーに抱きついた。

 それはもう盛大に、豪快に抱きついた。

 リーダーの背中に腕を回し、己の腹にリーダーの顔を押し付けている。

 中々力が強いらしく、リーダーの頭がギチギチと軋みを立てている。


「ちょ、ちょっとダニエルさん!リーダーが窒息死しちゃうます!ねぇ キメラ!」


 ボタンがキメラを呼ぶ。

 しかし、キメラは夕飯に夢中になっており、目の前の食べ物を貪っている。

 ボタンはキメラのことを諦めて、リーダーからダニエルを引き剥がそうとする。

 だが、ボタンの華奢な腕は力が弱すぎるらしい。ダニエルはびくともしない。

 むしろどんどんリーダーを抱きしめる力が強くなっている気がする……!


「ごめん ミイラくん……手伝ってください!私じゃ…無理です……!」


 ボタンが俺に、ダニエルを精一杯引っ張りながら言う。


「わかった……けど いろいろなところ当たっちゃいそうなんだけど……?」

「い、今そんなこと気にしてる場合じゃ無いです!なに言ってるんですか!?」

「ハイッスミマセンデシタ」


 俺よ!持てる力と少ない経験を頼りに頭をフル回転しろ!

 俺は素早くリーダーの方に回り込み、ダニエルさんの腕を引っ張る。それと同時にリーダーの向きを変えて、なんとか呼吸ができるようにした。

 よくやった俺!


「ミイラ! かたにゃ……刀を俺に!」


 いつもリーダーが左の腰に携えてる刀のことだろう。 

 でも…………


「リーダー……いくらなんでもダニエルを斬るのは……」

「違う!ダニエルは斬らん!いいから渡せ!」

「ハイッモウシワケゴザイマセン」


 俺はそそくさと、椅子の後ろの台に置かれてあった鞘に収められた刀をリーダーに献上する。

 リーダーはそれを掴んで、


「ボタン!準備はいいか!」


 とボタンの方を見てクワッと言う


「いいですよ!」


 なんの準備なんですか?

 そう思った次の瞬間、


「テーイッ!!」


 とリーダーが叫ぶ

 ___は?『テーイ』?

 そしたらなんとリーダーとボタンの位置が入れ替わった。

 そのせいで次はボタンがダニエルに抱き付かれている。もちろん顔に巨大な武器が当たっていた。

 

「……あれ?え?なんで!?」


 なんでリーダーとボタンが入れ替わった?それにまたもや窒息死の危機が!?と思っていたら


「あ、間違えた テーイ」


 またもやリーダーが変な掛け声を口にする。

 するとリーダーとダニエルの位置が入れ替わった。

 ダニエルさんは抱きついたままの姿勢のままだったため、その勢いのまま地面に激突した。

 ていうかこの数秒間でなにがあった?

 なんで位置が入れ替わった?『テーイ』ってなんだよ!?

 すると俺の疑問に答えるように厨房のBから声が聞こえてきた。

 ちなみに今までBがダニエル騒動に関与しなかったのは厨房で食べ終わった皿を片付けていたからだ。


「リーダーのその刀『黒驢丸(こくろまる)』は【反転】の【能力】が入っている【異常】だ。」


 【反転】?それに刀が【異常】?俺らはこの【異常】を沈静化するのが任務なのに、なぜリーダーたるものがそれを使っているんだ?

 すると俺の心でも読んだようにボタンが口を開く。


「リーダーのその刀には【異常】の性質の一つである『とりついた物の自我を奪う』って言うのがないんです。それに、それは特別でリーダーの意思で【能力】を発動できるんですよ」

「じゃあ、さっきの『テーイ』って言うのは?」


 リーダーが仏頂面で言う。


「私が作った適当な掛け声だ。なんも言わずに【反転】を使うのは俺以外のやつが混乱するからな」


 なるほど 理由もわかったし理屈もわかった。

 でも一つだけ気になることがあった


「でも、なんで『テーイ』?他になにかやりようがあるんじゃ…………」

「三文字で噛むことはまずないし、最悪『テー』だけでも伝わるから便利だからだが?わざわざそんなもんで技名とか考えるほど落ちぶれてねえぞ?」


 リーダーが言い訳を矢継ぎ早に捲し立ててきた。

 その仏頂面×平坦なトーンからは、もう反応すんなよと圧を感じる。それに加えて筆者の心が垣間見えた気がした。

 俺はその通りにした。

 部屋にひとときの静寂が走る。

 その静寂を壊したのはキメラだった。


「あのー皆? ダニエルが倒れたまんま寝てるんだけど」


 キメラがダニエルの頭をツンツンとしながら言ってくる。


「「「「あ」」」」


 完全に忘れていた。

 どうもこんにちは設定厨おじさんです。

 華街っていう華奢な名前からは想像のつかないほど設定がもりもりの大盛りですね。

 ちなみに没の設定として、主人公の【ミイラ】っていう名前は【グリード】になる予定でした。

 でもそうしたら白要素が完全になくなるしお寿司ってわけでこのお話を書く前に急遽変わったんですよね。

ということで華街でしたー

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