自己紹介②
前回のあらすじ:女神が舞い降りた
〜自己紹介②〜
だんだんと意識が戻ってくるのを感じる。俺はどこかの上で寝かされているらしい。目を開けてみる、そこは知らない天井だった。
そんな訳はなく、見知った天井だった。
こんなことついさっきあったな、とデジャブを感じながら上体を起こす。
「お、起きたかBaby」
「起きるてくるの意外と早かったですね」
「3分くらいだったんじゃないか?」
と、頭から血を流して倒れた人に向かって言うセリフじゃないことを平然と言ってのける3人がいる。
もうちょっと心配してくれてもいいのではないだろうか。
Bもなかなかだが、もしかしてダニエルさんもリーダーもイカれてるのではないか。
……そんなことを言ってる場合じゃないんだ。俺はいち早く頭に打たれたものの正体を突き止めなければならない。
するとダニエルさんが俺の心でも読んだかのように喋り始める。
「あなたを治してる時にこんなものがでてきたわ」
とダニエルさんは針金のようなものを服から取り出す。
よく見てみるとその針金のようなものは管のように穴が空いていた。
「これって……なんですか?」
「見たところ、注射器の針みたいね」
ダニエルさんが針を指で回しながら説明を始める。
俺が倒れた後、すぐ【加護】で回復をしようとした。そのために前髪をかき上げて額を見たら、出血したところにこの針が刺さっており、まわりが青あざになっていたらしい。
ダニエルさんが治してくれてすでに青あざは無くなっている。
それでも針が刺さっていたのがどうにも不思議でたまらない。
て言うかこの針、すごい長い。
こんなもの腕に刺されたら貫くだろ。腕以外に刺さっていたとしても、ほとんどの部位で貫通してしまう。
「俺様にいわせると、これはBabyを狙撃した奴、もしくはその仲間のオーダーメイドだな」
なかなか的を得ていそうな発言だ。
でも何故そうしたのか、これはどういった用途で使うのだろうか、まだそこの重要な部分はわかっていない。
そもそも何故これを俺に撃ち込んだのだろうか。
実弾があるのならそれを撃って俺を殺せばよかったのではないか?現に、俺はこうして助かっている。
何故注射器を打ち込んだんだ?
……全くわからない……
この部屋にいる全員が悩み始めたため、部屋は再び静寂に包まれる。
そんな中では音も聞こえやすくなっており、俺は廊下から近づいてくる足音が聞こえた。
静かな、音をたてまいと頑張っているような足音だ。
その足音は扉の前で止まる。
少し待っていると先ほど睨まれて逃げ出した男性が顔を覗かせる。
その顔は怯えた小動物のような顔だった。
「あ…あの〜リーダー……?今話せる? 喋ってもいい?」
怯えながら必死にリーダーの顔色を伺い、一言ずつ言葉にしている。
「あ“? ダメに決まってるだろ? お前はほんとに分かってないな」
リーダーがドスを効かせて言う。扉の向こうのチワワはすでにブルブルに怯えている。
俺も少し怖くなって、肩を振るわせた。
「本当にあなたはダメですねぇ……」
「ごっごめん……」
ダニエルさんは心底呆れたような表情で横目にチワワの赤ちゃんを睨む。
この人たちのキャラがさっきまでと違いすぎる。
そこまで悪いことをしただろうか?
俺は2人を宥めようとした。
「謝って許されると……思ってる…クッ…のかあ……?」
Bが肩を振るわせ、チワワの赤ちゃんに向かって口にする。
『肩を振るわせ』?この人なんで笑ってるんだ?
そこで俺は気づく。この三人はチワワが弱気なのをいいことに、悪ノリをしているという事に。
それがわかり、俺は前とは違う意味で肩を震わせてしまう。
チワワの赤ちゃんはBが笑っていることに気づいていないらしく、今にも泣きそうな顔をして、俺たちを見ている。頼むからそんな目で見ないでくれ。
(おい……クッ…フフ…次はBabyの番だぞ……クッ…ハハハ)
Bが耳元で俺に悪ノリを促してくる。流石に初対面では…フフッ…まずくないか?
第一、俺も…フフッ…笑っちゃってるんだから…何か言ったら吹き出してしまう気がする…フハハ…
「プッ…ハハハッ!!」
「おいBPM…何笑ってるんだよ……」
Bがついに耐えきれず吹き出してしまう。それもかなりツボにハマったらしく、ずっと笑っている。
「へ?」
怯えてた男性は目の前の光景が信じられなさそうに目を開かせている。
「ごめんね『キメラ』 そんなこと思ってないからね? 全部リーダーのせいだから」
「おい私のせいにするなよ!」
リーダーがダニエルの方を見て少し怒った顔で言う。しかし、こわばった顔はその意味を無くすように変形する。
「まぁその…悪かったよ……」
リーダーが『キメラ』と呼ばれた男性に照れくさそうに頭を掻きながら謝罪をした。
キメラは深くため息をつき
「は〜……やめてよもう……ほんとに心配しちゃったじゃん!!」
リーダーに向かって講義をする。そんな姿も、必死に吠えているチワワのような印象を持つ。
「ほらキメラ Babyちゃんに向かって自己紹介だ」
Bが犬に指示を出すかのように自己紹介を促す。
「あ そうだね!
初めまして 俺の名前は『キメラ』!君の名前は?」
『キメラ』となのった少年は少女漫画のようなパチっとした目に元気な印象を持つピンク色の、オールバックの髪をしている。服は制服で、恐らく俺と同じように学校帰りなのだろう。
身長はBさんとダニエルさんのちょうど間ぐらいだろうか。
「よろしくお願いします」
俺も軽く自己紹介をした、(自己紹介といっても、自分のことに関する記憶がなに一つわからないため、記憶喪失だと言った)。
するとキメラさんは顔色がわるくなり
「え? ごめん!俺そんなこと知らずに……」
「いえいえ、そこまで気にしなくて大丈夫ですよ!」
キメラさんはどうやら天然で、とても優しい性格をしているようだ。一緒にいるだけで気分が明るくなる。
するとキメラさんは何かを思い出したかのようにハッとし、リーダーの方を見る。
「そうだリーダー!『ボタン』が呼んでるよ!なんでも絵の具がなくなったらしい 俺じゃ場所わかんないからさ、リーダーお願い!」
キメラがリーダーに手を合わせる
するとBが何かを思いついたように口を開く。
「そうだ 絵の具とってくるついでに、この際Babyにも館内を案内しようよ!」
「さんせーい!」
ダニエルさんが思いっきり手をあげて肯定する。
リーダーがその姿を見て目を逸らす。
目を凝らして見ると、マスクに覆われ少ししか見えない顔の肌がほんの少し火照っているように感じた。
俺はそこから導き出される真実に困惑しながらも、微笑みながら暖かな目を送ることにした。
「……なに見てんだ?」
リーダーが睨んでくる。先程までの火照りは完全に冷えきっていた。
どうやら暖かいものは嫌いらしい。
そうして『ボタン』のために絵の具を取りに行くついでに館内を案内してくれる事になった……
のだが、よくよく考えると『ボタン』が絵の具が足りなくなりリーダーを呼びにいくようにキメラに言ったのがそうとう前だった。
なので計画を変更して絵の具を早く『ボタン』の元に届けて、『ボタン』と一緒に館内を周る事にした。
絵の具を取りに行く道中早歩きだったのだが、それでもまあまあの時間がかかってしまった。
それほど館内が広かったのがわかる。どうやらこの館はかなりお金のかかった建造物らしい。それと当時に、この館は廃れていることがわかった。
館内を横目で見ながら絵の具がある倉庫に向かっていたのだが、ところどころにステンドガラスが飾られている。ここだけ聞くと綺麗な教会なのだが、その印象を壊すほど館内にヒビが入っている。
そうして絵の具を倉庫から手に取り、別の場所へと向かった団員達はある部屋の前で歩みを止める。
団員達が立ち止まった部屋には『美術室』と書かれた札が吊り下げられていた。
(後で確認すると俺の意識が戻った部屋には『保健室』と書かれていた)
リーダーが美術室のドアに3回ノックし、中の人物に入室の許可を得ようとする。
チームのリーダーがノックするぐらいの女性がこの先にいるのか?そんな疑問が頭に浮かぶ
(『ボタン』ちゃんは絵を描くのが好きでね 絵描き中の彼女の邪魔をしたらいけないんだ。彼女がびっくりして手元が狂いでもしたら 鬼のように怒っちゃうからね…第一 彼女の絵を失敗させたくないというのが一番の理由だけどね)
Bがリーダーが何故ノックをしたのかの補足をしてくれる。耳元で。
さっきから距離が近い。
「どうぞー」
扉の向こうで女性の声が聞こえた。
リーダーは承諾の声をきき、静かに扉を開ける。
その部屋の中心には木の丸い椅子にすわり、大きい白いキャンバスに懸命に絵を描く少女の姿があった。
「リーダー絵の具ありがとうございます どうしても手が離せないところだったから……ってあれ?キメラくん以外にも全員いるんですね?」
少女は振り向き、俺たちを見る。
少女と目が合う。
「あれ?その人は……あ!リーダーの知り合いって人ですか?」
俺に気づいた少女は少し考えてそう言った。察しがいいらしく、俺はその言葉に返事をしながら軽い自己紹介をする。
「初めまして 俺の名前は白井玖人です。」
「これはどうも 私は『ボタン』って言います。よろしくお願いします。絵を描くのが趣味で、今も絵を描いてるんですけど……未完成ですけど見てみますか?」
彼女、ボタンはそう言って礼儀正しく頭をさげ、絵から離れて俺に絵を見せる。そこには未完成ながらも、その作品の美しさを感じざるを得ない色がひろがっていた。
夕陽に向かって羽ばたいている3羽の白い鳥と、それらを写した湖の絵だった。
「いやー、いつものように綺麗な絵だね すごいや!」
キメラがそう言って目を輝かせながら感想を述べる。
他の団員達も同じ思いらしく、うんうんと頷いている。
「そ そうですかね〜 みんなにそう言われると照れちゃいます……」
「あ、そうだボタン これ」
「絵の具ですね ありがとうございます!」
リーダーが絵の具を手渡しする。
すると何かを思い出したかのようにボタンが振り向き喋り始める。
「そういえば玖人さんって客人なんですか?それとも新しい団員なんですか?」
……考えもしなかった話題と重大な選択が 突然降ってきた。
「そうだな…玖人、着いてこい」
リーダーが真剣な表情でこちらを見る。
他の団員も何かを察したようでリーダーの後に続いて美術室を出る。
その後ろ姿は異様な空気を漂わせている。
俺も続いて部屋を出る。不安と、勇気を乗せて。
どうも作者の華街です。
今回の話は前々から名前が出ていた『ボタン』と姿は登場していた『キメラ』がでてきましたね。
これでやっと全員集合です。三話かかってしまいましたね。展開が遅い!!
まあ反省はしてないんですけど
今回の後書きではキメラとボタンの外見についてもうちょっと深掘りしていきます。
キメラくんは今回の話では学生服としていましたが、普段は半袖の紅紫の柄シャツと長ズボンをしています。
まあ小説なんでそこらへん気にしなくてもいいんですけど、イメージはそのくらいってしておいてください。
ボタンちゃんはキメラくんと同じ今回は学生服で、学校帰りという設定です。
普段の服装は茶色のチェック柄のコートと、紫よりの赤色のベレー帽を着用しています。
本編での補足がもうめんどくさくなったので後書きで書いちゃう事にしました。
投げやり is best
それでは次の話で。華街でしたー