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RAT DANCE  作者: 華街
廃夢篇
12/22

袋のネズミ

前回のあらすじ:幻覚の世界に捕まってしまった

「お前の状況は、言わば袋のネズミだ玖人 もう諦めろ」


 目の前のマボロシが戯言を放つ。

 リーダーによく似た姿のそいつの目は、少し笑っていた。

 目の前の奴隷を嘲笑う貴族のように。

 目の前の弱りきったネズミを食べようとする猫のように。


「………」


 返事はしない。あいつが何を言おうと、俺には関係ない。

 俺は逃げない。


「__そうか……わかった」


 マボロシは残念そうに刀の切先を下ろす。


「これは幻覚の世界だが、痛みは感じるぞ」


 刀を両手でしっかりと握り、構える。

 その姿からは武士のような威圧が感じられる。


「___泣くなよ 坊や」

「ぬかせ」


 示し合わせたように、互いに走り出す。

 諦めの悪い少年と慢心な幻は、互いに笑っていた。


〜袋のネズミ〜


 マボロシに一直線に駆ける。

 そのまま刀が振るわれる前に蹴りを入れようとする。

 その心を読んでいるように、マボロシは体を右に捻り蹴りをかわした。

 その勢いのまま横なぎに刀を振るわれる。


「フンっ!」


 刹那マボロシは俺のすぐ右へ吹き飛ばされた。


「__分身か 厄介だな」


 横から飛び出してきた足が、その姿を露わにする。

 マボロシを蹴り飛ばした分身は、俺の前でファイティングポーズを構える。

 

「だが、この小僧も厄介な【能力】を持っているようだ」


 マボロシがニヤけたかと思えば、マボロシが目の前にあらわれ、刀を振り上げていた。

 寸前でかわしたが、一瞬遅かった。

 左手が彼方へ飛び手首から血が吹き出す。


「ッッ!【反転】か!」


 警戒はしていたが、予備動作もなしに使えるのはズルだろ。

 ___それに


「私とお前では相性が悪いようだな」


 マボロシが笑う。

 その通りだ。俺の【能力】は分身を出せるが、あいつの【反転】は物の位置を反転させることができる。そう記憶している。

 俺の分身と入れ替われるのはとても厄介だ。


「クッソ」


 やはり痛いものは痛いな。

 だが、怯むわけにはいかない。

 それに、入れ替わった分身は消えるわけではない。


「さあ問題、お前と入れ替わった俺の分身は、今どこにいるでしょうか?」


 俺が質問を投げかけると同時に、マボロシの背後から近づいていた分身が頭に殴りを入れる。

 姿勢が崩れたそいつの腹を、追撃で殴る。


「ッカハ」


 マボロシは後ろへ飛んで、呼吸を整える。

 マボロシにも痛みの概念はあるらしい。

 それを知れただけで俺は十分だ。

 着実に、素早く終わらせる。

 この間に、左手を分身を出す要領で再生させる。


「ふふ 初めての戦闘にしては上出来じゃないか?」

「なにもう終わったみてぇに言ってんだよ」


 分身の数を増やす。

 分身をマボロシに向かわせた。

 マボロシは俺に一番近い分身と反転する。

 

「もう読んでんだよ!!」


 マボロシが入れ替わった分身に蹴りを入れる。

 だが俺の行動も読まれていたらしく、すんででかわされた。

 背後の分身に追撃をさせる。その内に距離を取り、分身に囲ませる。


 俺の記憶では、リーダーは視界に入れてるものしか反転できない。それなら、分身に囲ませたらいいのではないか。

 こいつはおそらく俺の記憶からリーダーを模倣している。ならば、【反転】の性質もそのままではないのか?

 

「ああ、そうさ 私はお前の記憶から『リーダー』という小僧のマボロシを作り出した。」


 __なんだ?こいつはさっきから俺の思考を読んでいるような行動をとる。


「やっと気づいたか?私はお前の思考を読むことができるんだよ。私の世界ではそれができる。」


 それが本当なら厄介だな。いや、100%本当だろう。


「お前も外の世界で見ただろう?私の幻覚を。」


 マボロシが話をし始める。


「私の見せる幻覚には走馬灯の性質も持っている。走馬灯はその人物の過去の記憶から形成されるものだろう?今はその恩恵で心を読めるって言う話だ」


 なんともご丁寧に説明をしてくれるな。


「この『幻想世界』では私の【能力】が強化されるんだ。」


 ここで一つの疑問が脳裏をよぎる。


「ん?……そうだな 『私がお前の心を読めるのなら、なぜさっきの分身からの攻撃を避けなかったか』か。まあ当然の疑問だろう」


 マボロシのめが笑う。


「あえて読まないようにしてたんだよ。だって……すぐ終わったらつまらないだろ?」

「……気持ち悪いなお前」


 おっと、口が滑った。

 まあ 思考が読めるならこの配慮もいらないだろ。

 ___さあ


「再開だ」


 囲ませていた分身を一斉に動かす。

 その一体にマボロシは刀を振るう。

 俺は体を捻り位置の入れ替えに備える。

 やはり、マボロシが刀を振るっていた先の分身に入れ替えられた。

 右耳のすぐ横の空間が切られる。タイミングはバッチリだった。

 そのまま分身と同時に殴りを入れる。

 マボロシは刀でそれを防井田が、そのまま吹き飛ばされる。

 任務に出発する前に言われたことは本当だったらしい。


ーー出発前ーー


「【能力】の出力はその能力者の心の状態によるんだ」


 リーダーが俺の前に歩きながら言う。


「例えば、お前の【増殖】なら、心が強く持てているならその分身の強度や筋力が強くなるんだ」


 心か……いまいち実感はないがリーダーがそう言うならそうだろう。

 逆に言えば、俺の心が弱くなったら分身もその分弱くなるのか。


ーーーーーー


「リーダーの話はためになるなあ!!」


 そう叫びながら分身を向かわせる。

 俺の心は強く持てているらしく、分身は身体が強くなっていた。そのため、俺では到底できない力を出せる。

 マボロシは厄介そうに顔を顰めながら空中で体勢を整える。

 そのまま着地をする。その時には分身がすぐ近くまで走っていた。

 マボロシが俺の目を一瞬覗いた。その姿から次の展開が予想される。

 そのまた次の瞬間俺と分身の位置が入れ替わる。

 俺は事前に飛び蹴りをしていたため、マボロシの脇腹にそのまま蹴りが入る。

 先回りをしていた分身に、ジャンプで上空から踵落としをさせる。それは地面で転がり、かわされた。

 なかなか大きい一撃が喰らわせられないが、それで良い。

 それで十分だ。


 マボロシに近づいていた分身を再び向かわせる。

 他の分身も総動員させて一気に間合いを詰める。


「くっはははは!さっきまでの威勢はどこにいったよ!?」


 自分の出来栄えに心が踊る。

 これまでやっていたみたいに、体が動かせる。

 記憶がなくなる前はこういう喧嘩をしていたのだろうか。

 今はどっちでもいい。

 ただ、着実に戦力を削ぐ。

 それに、今の俺はなんでもできるような気がする。

 ならば、このまま全てを出し切り、マボロシを押し切るっ!

 両足を地面に力強くつける。

 体を思い切り丸めて、背中を広げる。

 分身を素早く出せるように。

 マボロシの姿を両眼で睨め付ける。

 これが俺の本領だ!


「『拾参人ノ踊(DIRTY)ル狂ノ(DUMMIES)傀儡』」


 背中から出せるだけ分身を出す。

 数は今までの6体の二倍以上の13体だ。だが、今は全て完璧に動かせる!

 俺は今、なんでもできる!!

 分身全てを総動員させて、マボロシに向かわせる。

 マボロシは片膝をついて立つ。

 とても弱っている


「ように見えたか!?大馬鹿者が!!」


 マボロシが、そう叫ぶ。なんだ?言っていることがわからない。

 だって、さっきまで弱って……

 胸に強烈な痛みが走る。その瞬間、俺は宙を舞っていた。

 マボロシはありえない速度で俺を蹴ったのだ。なぜだ?さっきまであれほど弱っていたのに……

 

「言ったろ 俺はお前の記憶で見たものを扱える。ならあれ(・・)も使えるんだよ!!」


 あれ(・・)?なんのことを言って

 

「ッグ!」


 体勢を整えられなかった。背中から地面にぶつかり、そのまま転がる。

 マボロシは転がった先に先回りをしていて、腹をまた蹴ってくる。

 視界が横に回る。地面を10mほど転がった。

 腹に鮮烈な痛みが走っている。


「くっ かはっ!」


 なんだ、この一瞬に何があった。俺はどこにいるんだ。俺の分身は今何をしている。

 あたりを見渡す。分身は形を保てなくなり、溶け出している。

 なぜこいつは急に足が速く……まさか……


「ダニエルって言ったか?あいつの【能力】は便利だなぁ 『足を速くする加護』なんてあるんだからよ」


 こいつは俺の記憶を覗いてダニエルの『足を速くする加護』を使ってたのか……


「な?お前は俺に勝てない もう諦めろよ お前は何も持っていない、突破口はもう何一つとしてねえんだ」


 マボロシが俺に近づきながらまた俺を諭す。

 なんとか立ちあがろうとして、転んでしまった。

 __ん?まてよ

 こいつは今俺に「何も持っていない」と言ったよな?


「ああ、言ったさお前には拳銃も刀も、ポッケにも何も入っちゃいねえ」

「ポケットにも?俺はポケットに青い羽を入れていたはずだぞ?」


 この廃屋の外で俺は青い羽を拾った。

 こいつは俺をそっくりそのままこの幻想の世界に連れてきたのではないのか?

 戦闘中には青い羽のことをすっかり忘れていたが、そう言えばここに来たときにポケットに何かがある違和感は感じなかった。

 なぜ青い羽だけここにないんだ?

 考えろ、なぜ青い羽だけここにないか。


「おい、考えるのをやめろ そんなものに縋ったって何もない」

「『縋る』って言うことは、その『青い羽』になにか良いことがあるのか?」


 考えろ、青い羽がなんなのか こいつは何に怯えているのか。

 こいつの反応は『青い羽』について確実に何かを知っている。

 『青い羽』に何があるのか、、、それを考えろ。

 青い羽は青い鳥が落とした羽だ。青い鳥といえば、幸運の鳥だ。

 ___こいつはこの世界であったときに「奇跡でも起こらない限り目は覚めない」ということを言ってなかったか?

 じゃあ、奇跡が起こればここを抜け出せる……?


「おいやめろ!何も考えるな!お前はここで負けるんだよ!」


 その時、世界が青色になった。否、世界が青く光り輝いた。

 その輝きは、天井から放たれている。

 天を見上げる。そこにはこの世界に無かった青い羽が光りを放ちながら、ゆらゆらと落ちてきていた。

 俺は、気づいたら立ち上がっていた。

 その青い羽に引かれるように。

 

「やめろ、そいつに触るんじゃない!!」


 今、疑惑は確信に変わった。

 この青い羽が、俺の勝つ術だ。

 体は、すでに分身を作り出していた。

 分身に俺の体を天に放り投げさせる。


「させるかあ!! なに!?」


 分身にマボロシを捕ませる。

 俺は、分身を信じ、青い羽を見つめた。

 青い羽に手を伸ばす。

 まだ青い羽は遠くにあった。


「うおおおお!!」


 分身の応用で手のひらからまた腕を生やす!その腕の手のひらからまた腕を生やす!!

 今、青い羽(奇跡)を掴むんだ!!

 手を伸ばし、伸ばし、伸ばし、

 掴んだ!

 とたん、青い羽の輝きが増し、白い世界が崩れ始める。

 幻覚から、目を覚まそうとしている。


「そいつを離すんだああ!!!」


 マボロシの必死な顔を見て、笑顔で言ってやった


「俺と位置を反転させれば、俺が届くこともなかったんだけどなぁ!」


 マボロシの顔が絶望の色に染まる


「まだ使いこなせなかったお前が悪りぃんだよ!!」

「小童がああぁぁああ!!!」


 崩れた白い世界を尻目に、俺は目を瞑る。

 奇跡を讃えるように。



 小鳥の囀る音が聞こえた。

 鼻がこそばゆい。

 目を開ける。

 倒れた拍子で羽が出ていたらしく、それがたまたま俺の鼻に干渉していたようだ。

 あたりを見渡すと、どうやら俺は扉の前で眠っていたようだ。

 頭のすぐ横に転がっていたピジョンを頭につける。


[B!キメラ!準備できたか!?早く出発しろ!]


 リーダーの指示する声が聞こえる。

 全員が慌ただしく動いている音が聞こえた。

 すまなく思っているが、ここまで動いてくれることにどこか嬉しさを感じていた。


「ただいま」

 どうも作者の華街です。

 うおおお!!ミイラ勝ったぞ!!

 初バトルの相手はリーダーのマボロシだったと言うことでね、いやーかなり良い出来栄えなんじゃないでしょうか。

 ぶっちゃけめっちゃ頑張りました。

 じゃあここで幻想世界の説明を。

 そこはマボロシの思い通りにできるんですけど、相手の能力を模倣する時は相手の記憶にある状況下でしか使えないんですよね。

 だから、ダニエルの【加護】じゃなくて『足を速くする加護』しか使えないと言うわけです。

 結構制限がついているんですよね。

 はい、と言うことで初めてのバトル描写いかがだったでしょうか。

 まだわかりにくかったところもあると思いますが、それでも温かい目で読んでくれたら嬉しいです。

 それでは次の話で。華街でしたー

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