私の人権、貴方の理不尽
鬱要素あり
むかし、むかし?
日本のとある村に、髪が白く目が赤い、小さな女の子が、お母さんと一緒に住んでいました。
女の子は、他の人とは違うと村の皆から苛められていました。ですが昔、看護師としてお母さんと関係があった村長の援助を受け、小さな小屋で貧しいながらも、そこそこの生活で過ごすことができていました。
ある晴天の寒い冬の日、少女は妙な感じを覚え、珍しく、少し早めに目を覚まします。しかしそれ以上は何もなく、いつものように寒さで肌を震わせながら服を着替え、朝食をとり、家の中で遊びます。
しばらくすると、お母さんから呼び出しを受けました。
(何か用でもあるのかな?。)
と、不思議に思いながら行ってみると。
お母さんが椅子に座りながら、
「はい、これ。貴方の誕生日プレゼント。
今の靴もうボロボロで擦り切れちゃってるから、
少し前に、隣町で買って来たのよ。」
と、言いながら、
とても綺麗な赤い靴を差し出しました。
少女は驚いた後、赤い靴にも劣らない満面の笑みを浮かべ、心の中では小躍りしたい気分になっていました。
そしてすぐに履いた後、おおはしゃぎしながら家を飛び出します。
しかし、村の中では迫害の的。
舞い上がるような気分が、一瞬で地の底に落ちるような感じです。
道をただ歩くだけでも幼い少女に鋭い視線が突き刺さります。そんな人の目と陰口から逃れるように、小汚いフードを深く被り、小走りで近くにある山の森の中に入っていきました。
寒空の下、まだ少し残っていた雪を踏み締め、走り回る少女が一人。人目がないことで、顔に無邪気な笑顔が浮かび、とても楽しそうに遊び回ります。
そんな時、そこへ青く綺麗な鳥がやってきました。
どうやら怪我をしているようで、足に血が糸のように垂れていました。
それを可哀想に思った少女は、服を少し破き、
(後で怒られるかもしれない。)
と、心の中で苦笑いしながらも、鳥の足に巻き付けて上げました。
しばらくすると、それが功を奏したのか、ふらつきながらも羽搏き、山の奥に飛んでいきました。
少女は青い鳥に興味を持ったのか、好奇心に動かされ、同じ方に追って行きました。
日が沈み始め、辺りが暗くなってきた頃。
ようやく少女は、だいぶ時が経っていた事に気づきます。
しかし、ひたすらに鳥を追いかけていた事で、山の奥深くに入り込んでしまい、帰り道が分からなくなっていました。
そして、とうとう完全に日が暮れ、夜の帳が下りてきてしまい、不安と寂しさに心が押し潰されそうです。
次第に雪が降り始め、風も吹いてくるようになりました。
すると少女は、妙な胸騒ぎと視線を感じます。
それは言葉で表現するならば、悪意が形を持って自分を狙っているような感じでした。
少し離れた所にある、雪が積もった大木の陰。
そこに視線の主は潜んでいました。二つある瞳を爛々と光らせている、その正体は大きな大きな狼です。
その狼は、人並みの頭の良さと、邪悪性を持っていることは周辺一帯に轟いておりました。
狼は最初、
(一呑みに食ってしまおう。)
と、思いましたが。
少女にとっては幸い?にも、狩りを終えて腹が膨れていました。
だからといって、何もしない狼ではありません。
(散々甚振り、絶望に塗れた顔を浮かばせる遊びをしよう。)
と、畜生らしい事を考えます。
そして少女はというと、森の中を歩き回り続けた結果。
心身共に疲れ果て、その場に座り込んでしまいました。
時間が経つほど、雪も強くなり、体力をどんどん奪ってしまいます。
そんな所に狼が姿を現しました。
それと目が合った少女はとても驚き、すぐ逃げ出そうとしますが、うまく足が動きません。それでも自分の体に鞭を打ち、必死に走ります。
狼はそんな少女の後姿を、小さく笑いながらも追いかけます。しかし、全力を出すような事はせず、
爪で背中を掠らせる、少女の身の丈以上にもなる大岩を
転がし落とす等、じわじわと甚振るように追い立てるようです。
そして、そこそこの時間がたった後、我武者羅に走ったのが良かったのか、数多の光に照らされた山の麓が見えてきました。
少女は、さすがの狼も村の中まで追っかけて来ないはずと、ラストスパートを駆けようとします。
そうなっては面白くないのは狼です。
まず、足を引っ掛け転ばせると、そのまま膝辺りに噛みつきました。
少女は絹を裂くような悲鳴を上げながらも、なけなしの
体力を振り絞って抵抗します。だけど、そんな努力も虚しく、両足を靴ごと食い千切られてしまいました。
狼は少し上を向き、その喉元からゴクリといった音が響きます。
少女は、もう痛みに耐えて震えることしかできません。
しかし、そんな少女の姿に満足したのか、もう何をするでもなく、闇の中に消えて行きます。
そんな狼に、少女は緊張の糸が切れたのか、すぐに瞼が落ちていくその瞳に、必死に近寄ってくる母の姿が映りました。
それからそんなに時が経たずに、ベットの上で目を覚ましました。
少女は、自分の足が無くなったショックと喪失感に打ちひしがれながらも、母からの話を聞きます。
どうやら、少女がいつになっても帰って来ないことに心配 して近くまで探しに来ていたようです。
母は、
「応急処置程度はやっておいたけど、もう遅いし、吹雪も強くなってきたから、明日、お医者様に見せて今日は眠りましょう。」
と、優しい声色で呟きます。
しばらくすると、玄関からドンドンと大きな音が響きます。
こんな時間に誰だろうと、母が向かい、鍵を開けると、木製の扉が乱暴に開けられました。
そこには、いつものような優しそうな顔を豹変させて、怖い顔をした村長が佇んでおりました。
それを不思議に思いながら、掛け布団に包まり覗いていると、ギョロリとこちらを睨みます。
すると、勢いよく近くに寄って来て少女の前で止まります。
そして大きな声で、
「私の家が、大きな岩と雪崩に潰された。これは忌み子であるお前を匿ったのが神の怒りに触れたに違いない。」
と、言うや否や、少女の首に手を回し絞め上げます。
少女は必死に抵抗しようとしますが、怪我と疲れで全く意味を成しません。ハッとした母も引き剥がそうと頑張りますが、体格の差からそんな努力も虚しく効果がありません。
そして、とうとう少女の体から、力が完全に抜け落ちます。
母が唖然とする中。それでも怒りが静まらないのか、村長は死体を担ぎ、家があった場所に向かいました。
まだ肌が凍える時間、朝日が顔を覗かせる。そんな中、
村長はもう冷えきった死体を、薪の上に乱暴に置いて火を焚べます。
パチパチと、音をあげ。嫌な匂いを漂わせながら燃えていき、終には、完全に灰として燃え尽きてしまいます。
しかし、それでも怒りが収まらないのか、燃やした灰を家畜の餌に混ぜ込んで牛に食わせます。
そして、鋭く尖った槍を突き刺し、殴る蹴る等、暴行を加えます。最初の大きな悲鳴が小さくなりしばらくして、鬱憤が晴れたのか殺した牛を前にして薄い笑みを浮かべています。
ようやく我に返り、殺した少女の母の事を考えます。
せっかくなので、牛を解体しお裾分けしてあげようと、優しい村長は鉈を振り上げます。
殺した牛を持っていったところ、母は未だに呆然とした間の抜けた顔を覗かせながら、素直に受け取りました。
村長は今日も良いことをしたと、笑顔で思いながらも、これから行う家の撤去に少し憂鬱を感じます。
その頭には少女の事など、もう片隅にも入っていませんでした。
終わり
余談だけど、フィクションの人にも人権あるのかなと思ったのもある。昔の人の価値観ってこんな感じだと思う。(偏見)