君に贈る花言葉
私の名前は笹野 夢羽(ササノ ユメハ。
どこにでも居る、口下手な高校生です。
突然ですけど、私には彼氏がいます。
私より五歳年上の彼は、立派な社会人。
私は今、そんな彼のマンションに来ています。
「ふぅ………疲れたぁ………」
居間でくつろいでいる私を余所に、パソコンでいつまでも仕事をしている彼がポツリと呟いた。
「昌樹、そんなに仕事が忙しいの?」
昌樹のパソコンを覗き見しながら、ふと彼に問いかける。
「ああ、忙しいさ。毎日睡眠時間削って、家でも仕事だよ」
ため息混じりにそう話す昌樹。
そういえば、昌樹の目元にはクッキリとクマが出来ていた。
そんなに忙しいのに、私ったらなんて無神経な……!!
私は急にいたたまれない気持ちになって昌樹のアパートを飛び出した。
「おい、夢羽っ!?」
制止する彼の声が響いたけど、私はそれを無視して、近くのお店に走る。
ない、ない…!!
どこを探しても“アレ”が見つからない。
……………そうだ!!
私は“アレ”を探して、近くの公園に走りました。
やっぱりあった…。
“アレ”が。
「夢羽!!」
突然背後から聞こえた昌樹の声。
フワッと顔だけ向けると、そこには、疲れているのに私を追いかけてきてくれた昌樹の姿がありました。
「ま、昌樹!!」
「心配しただろっ!!なんで何も言わないで出てったんだよ…。オレが嫌いになった?」
昌樹の腕にキツく抱きしめられる。
「ううん。嫌いになってなんかないよ?コレを探してたんだ……」
私は“アレ”を昌樹の手のひらにふわりと置いた。
「銀杏?どうして銀杏なんか……」
「あのね、昌樹。銀杏の花言葉は“長寿”。言葉じゃ照れて伝えられないと思ったから………せめて花言葉で伝えようと思って…………」
どもりながらも、キチンと私の気持ちを伝える。
すると、昌樹が突然笑いだした。
「バッカじゃねぇの?花言葉じゃないと伝えられねぇのかよ?」
むぅ…………バカにされた。
私が軽く頬を膨らませると、昌樹がその頬を左右に引っ張る。
「でも、ありがとうな。オレの為に」
昌樹は私の頬から手を離すと、花が開くように笑った。
「どういたしまして」
私もおんなじように笑って、昌樹の手を握った。
「一緒に………手を繋いで帰ろう?」
口下手な私からの初めての誘いに、驚きつつも、包み込むように優しく手を握り返した昌樹。
口下手な私は
うまくアナタに
気持ちなんて伝えられないけど
せめて君に花を贈るよ
君に贈る花言葉を……。