僕は初対面の人、全員から嫌われています
簡素な部屋。電化製品もある程度ある。そこでテレビを視聴している男がいた。清潔感のあるセーターとジーンズが品の良さをあらわしている。指でかきあげられた髪は艶やかで男性としての魅力にあふれ、ルックスも贔屓なく言って綺麗なつくりをしている。名前を川崎真広という。しかしそんな造形美を持ちながら彼は浮かない顔をしている。彼のスマホにはこれといって親しい人物の電話番号などもないようだった。
テレビ番組の中で若手女優が突然テレビ越しに、ビシッと指を真広に向けて「会ったことも見たことも話したこともありませんが、私は川崎真広が大嫌いです」と言い、バラエティー番組の司会者が「わかります。川崎真広は最低ですものね。視聴者も観客も皆うなずいていますよ」とあおる。それを見て表情を歪めて、テレビの電源をリモコンで消して布団にもぐりこみ両掌で両耳を隠した真広。先ほどの女優の声が真広の心臓に針を何度も突き刺すように痛める。
とそこで、インターホンが鳴った。どうしようか迷っていた真広は連打されるインターホンに仕方なく、アパートの玄関へと向かう。扉を押し開けて「はい」と対応に出た真広。外にはちらつく粉雪をバックに二十代の男が立っていた。営業マンのようだ。何かを売りつけに来たのだろうか? と考える真広。
「あなたは生存しては駄目だ! 恥を知れ!」
そんなことを言って名刺を一枚、真広に投げつけて去っていく男。名刺を拾ってみると営業担当の職員だと分かった。電話番号が記載されていたのでスマホでコールしてみる。文句を言おうと口を開く真広。しかし、電話担当の女性にそれより素早く、あんたは、早くくたばりなさい! と罵声を浴びせられ電話がきれた。
茫然とする真広は間をおいてからアパートのドアを蹴った。隣人がうるせえ、ぶっ殺すぞ! 大声を出したので謝罪した真広。
翌日、タクシーに乗車しようと考え、タクシーをとめようとするも何台も無視するかのように目の前を通過していく。みんな空車なのに。一台のボロくて、黄色を基調としたタクシーが真広の前でとまったのにドアは開かず、ウィンドウが下がり、運転手が「あんたは乗車拒否だ!」と言い残し走り去った。単なる嫌がらせだった。
真広はこんなに自分はなぜ嫌われるのだろうと煩悶していた。嫌われやすい体質なのか。変えようはないのかと。
歩いて、スーパーマーケットまで歩き買い物かごを持ち、リンゴを取ろうとして、触らないでください! と職員に面罵される真広。ひるまず掴むと最低! と言われた。意気消沈するも立ち直って、米やパン、豚肉、野菜を買い物かごに入れてレジに置く。すると、レジ担当の職員さんが、別のレジを使ってくださいと拒否された。そのレジには他の客もいないのに。一時間説得してようやくお会計をしてくれた職員さん。
降雪がすすみ、足元も白く冷たくなってきた。買い物袋を持ち直して近くの自販機でホットのコーヒーを買うことにする真広。硬貨を投入口に入れるも反応がない。壊れたのだろうか? と思う真広。そのそばをお巡りさんが通りかかったので、警官に話しかけて何とかならないかと聞いてみた。すると、警官はこう言う。
「それ以上言うと、公務執行妨害で逮捕するぞ!」
真っ青になった真広は謝罪した。そして真広が弁明するも無視して駐在所まで連行されて、逮捕はされなかったが、お説教をされた。
☆
数日後、風邪をひいた真広は通院した。しかし、受け付けで「当院では対応できません」と言われた。真広は単なる風邪ですよと発言すると、「ええ、分かっています。もっと苦しんでください」と返された。
その帰りに、もう疲れた、実家に帰ろうと電車に飛び乗った。実家のドアを開けようとして鍵がかかっているので、インターホンを押すと、母親が出てきた。真広が母さんと言うと、母は「この親不孝者!」と言う。父親もその後ろから「お前は勘当だ!」と言いきった。
追い出された真広は兄に電話する。何度かけてもつながらず、どうやら着信拒否にされているようだ。
家族にも嫌われて、行き場を失う真広。
アパートに帰る途中にラーメン店で塩ラーメンを食べて、楊枝を掴もうと指を伸ばすと、楊枝が瞬時に上下逆になり、尖った先が上を向いた。真広はついには楊枝にまで嫌悪されたようだ。
帰宅した真広は、顔を洗おうと蛇口から水を出そうと蛇口レバーを上げるも何も出ない。水道代は間違いなく払っているのに。お湯も駄目だ。蛇口にも嫌われたようだ。
うんざりして、エアコンの暖房ボタンを押して暖まろうとすると、何をしても冷房しか出なかった。
真広は、ああ、もうと怒り、しかし気分転換しようと、チューハイを飲むためキッチンに行き、小型の冷蔵庫を開けようと試みるも、はじめから開かないものかのように全く開かない。
泣きっ面に蜂だ。それの連続。ペットボトルの水を使い、歯を磨いて、真広は就寝した。寒さと悲しさに震えながら。
☆
あくる日。会社に出勤するために歩いて向かい、歩道を進む真広。彼は元気を出すために「僕は自分のことが大好きだ!」とシャウトした。すると前向きな気持ちになってきた。よし、大丈夫と自信を深める真広。と、そこで、突然、彼の足が勝手に動き、縁石を乗り越え、車が行きかう車道へと真広を連れて行って……。真広は自身の足にまで嫌われたようだ。
了




