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美生の真実

「また、明日」

そう言えば明日も会える、それは絶対ではないのに

まるで魔法の呪文のように思っていた。

しかし、魔法はいつもかかるものではなかった…。


ザーザー

あの日の翌日から降り出した雨は

丸一日以上たっても、一向に止む気配を見せなかった。

雨の日はどうするのか、決めてなかったが

星が見えなければそもそもの目的が達成されないので

2人が会うのもお休みなのは暗黙の了解であった。

―このままだと雨が止んでも今夜は地面の状況からしても

無理だと判断して美生はこないだろうな

3日も会わないのは初めてだ。寂しい。

けど、どんな顔で会えばいいか分からないから

少し時間を置いた方がかえって良かったかな―

雨を見つめて悠星はぼんやりとそんな事を考えていた。


しかし、季節外れの長雨が過ぎて2日経っても

美生は姿を見せなかった。

悠星は急にキスをして嫌われたのかとも思ったが

美生が何も言わずに姿を見せないことには違和感があった。

美生が黙って来るのをやめるはずがないと思い、

悠星は意を決して彼女の家、(確か丘の上のペンションだと言っていたはずだ)

に行ってみることにした。

どんな顔をして会えばいいの、夜の野原以外で会うのは初めてで

どう接すればいいのか悩みながらもペンションの前までやってきた。

緊張で手が震えながらもチャイムを押した。

「はーい」と中から女性が出てきた。

美生の母親だろうかと悠星は緊張してかたまった。

見るからにペンションのお客ではなさそうな悠星を見て

女性は少し怪訝な顔をした。

「あ、あの、こ、こんにちは。

オ、オレはみ、美生…さんの友人の有森悠星(ありもりゆうせい)って言います。

み、美生さんはござ、ご在宅でしょうか?」

しどろもどろになりながら悠星は言った。

美生に見られていたら笑われるなと思いながら…

するとその女性は少しためらいながら

「ああ、()()()()のお友達の!ちょっと待ってて。」

そう言って奥へと姿を消した。

はあ、と息をついて、母親に美生さんって呼ばれているのかと少し気にかかった。

少しして、さっきの女性が戻ってきて悠星に手紙を渡した。

封筒にはただ『悠星へ』と書いてあるだけだった。

「え、あのこれは…」悠星は戸惑い彼女を見た。

すると女性は申し訳なさそうに話し出した。

「美生さんはね、この家の子どもじゃないの。

訳あってこのペンションに長いこといたんだけど

事情があって家に戻ったのよ。

『ゆうせいくん』って言う男の子が来たら手紙を渡して欲しいって

頼まれていたの。」

悠星は頭が真っ白になった。

どういうことなんだ。美生はいない?もう会えないって事なのか?

なんで、どうして…

悠星の頭の中で色んな考えがグルグル回った。

「あ、あの、それじゃあ、ほ、本当の住所を教えてもらえませんか?

おっお願いします!!」

悠星は自分の膝が見えるくらいのお辞儀をして頼んだ。

「お客さんの個人情報を簡単に教えるわけにはいかないのよ。

それに、なにより美生さんがそれを望んでいないわ。

もし、住所や連絡先を聞かれても絶対に教えないで欲しいって

美生さんに頼まれているの。申し訳ないけど…

美生さんの気持ちも分かってあげて。」

女性は申し訳なさそうにそう言って、ドアを閉めた。

「あ、まっ待ってくだ…」

悠星は何度かチャイムを鳴らしたがドアは開かなかった。


悠星は混乱したまま、ふらふらと歩き、

気が付けばいつも二人で星を見ていた野原に来ていた。

いつもの場所に腰を下ろして悠星は手紙を見つめた。

一体、何が書いてあるんだろう、悠星は不安な気持ちを抱えながら

美生からの手紙を読み始めた。


◇◇◇◇◇


悠星へ


突然いなくなってごめんね。

でも、読んでるってことはこの手紙がちゃんと悠星に届いたってことだよね?良かった。

こんなに雨が長引くと思わなくて、きちんとお別れも出来なくてごめん。

ペンションのおばさんから聞いたかも知れないけど、私はあの家の子供じゃないの。

私は生まれつき心臓に病気があってずっと入退院を繰り返してたの。

空気のきれいな場所で静養したらどうかと言われて、2年前から冬の一番寒い時期以外はあのペンションで暮らすようになった。

ここでの暮らしは私に合ってたみたいで、体調もだいぶ良くなってきてたんだ。

そして今年になって少しくらいなら外に出ても大丈夫ってお医者さんに言われたの。

だから悠星に会いにいった。

質はね、部屋からいつも見てたんだよ。長期休みになるとやってきて星を眺めているキミを。

毎日飽きもせず星を眺めてる悠星を見てるとなんだか私も嬉しくて。こっそり元気をもらってた。

悠星の前では普通の元気で明るい女の子でいたい、そう思ったの。

だから病気のことは言えなかった。黙っててごめんね。

最後までちゃんと話を聴きたかったな。

でも、ちょっとだけ時間が足りなかったみたい。

私はこれからアメリカに渡って心臓の手術をしてきます。

ずっとお願いしていてやっと渡米出来ることになったから、タイミングは逃せなくて…

簡単な手術ではないから、この先どうなるか分からない。

だから、「また会おうね」とか、「待っててね」とはそんな不確かなことを私には言えない。ごめんね。

ただ、どこかの記憶のかたすみにでも、こんな女の子がいたなって少し残しておいてもらえたら嬉しいな。

前に悠星が私のお陰でこれからの事をちゃんと考えることが出来るって言ってくれて本当に嬉しかった。生まれた時からずっと迷惑しかかけてないと思ってたから、こんな私でも誰かの役に立てたんだって思ったら嬉しかったし、これから頑張っていけそうだよ。

それに悠星の物語を聞くと私もいろんな世界に旅をしたような気持になったよ。

ありがとう!

最後の話の結末が聞けなかったのは残念だけど、

悠星の紡ぐ物語だからきっとハッピーエンドになるんだろうなって思ってるよ。


ごめんばかりの手紙になってしまったけど、最後にもうひとつ、謝らないといけないことがあるの。

私は悠星の最初の友達になるって言ったけど、それは出来そうにない…。

だって、悠星は私の初恋になってしまったから。だからごめん。 

キミと過ごす時間は楽しくてドキドキして幸せだった。


大好きだよ。

新しい星座とその物語を紡ぐキミへ


美生より


◇◇◇◇◇


手紙を読み終えても、悠星はその場からなかなか動けなかった。

彼女の病気や想いを知って悠星はただただ涙が止まらなかった。


彼女の抱えている状況からしたら、自分の将来への迷いなんて

全然小さいことじゃないか。

なのに、オレのために親身になってくれた。

いつもあんなに笑顔で元気で…全然気が付かなかったよ。

オレも君が好きだ。言えるチャンスはあったはずなのに…

言えていたら、何か変わっていたのだろうか…。

最後の物語は木こりの恋は叶わないバッドエンドになっちゃったな。


いつの間にか日が落ちて、いつも二人で見上げていた星空が

ひとりぼっちの悠星の上でいつもと変わらず輝いていた。

悠星はそのままなかなか動けずにただ星たちを眺めていた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] アオイ サカキ様 第8話が素敵なハッピーで終わったのに、まさかの第9話でした。一筋縄ではいかない物語の展開に目が離せません。 離れてもふたりの恋を応援したくなります。私の心もすっかり悠…
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