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最後の物語と二人の距離

美生への想いに気付いても

何も出来ず、する勇気も出ない悠星だったが

一つだけ始めたことがあった。

美生と自分をモチーフに星座物語を作ることだ。

今まで自分に経験がないこともあって

恋愛物語を作ることがほとんど無かった彼にとって、これはなかなか難しく悠星は頭を悩ませた。

しかし、丁寧に自分の素直な気持ちを表現しながら作り上げた。

昨夜の自分の話を真剣に聞いてくれた美生の姿を見て、

そして夏休みも残りがわずかになってきた今、

やはりこの話をしようと心に決めた。


その晩、いつものように原っぱで二人は星を見上げていた。

「昨日は色々と話してくれてありがとう。…嬉しかった。なんか泣いちゃってごめんね。

なんか最近、涙もろいな、私…。」

少し恥ずかしそうに美生が言った。

「こちらこそ、聞いてくれてありがとう。

言葉にしたら自分のやりたいことが今までよりはっきりした気がする。

今までみたいに諦めて流されるんじゃなくて、自分のやりたい事や気持ちを親にも伝えていこうと思う。簡単にはいかないだろうけど頑張るよ。

こんな風に思えたのは美生のお陰だ。」

「そんな、私は大したことは言ってないよ。

でも悠星の役に立てたなら良かった。」美生が笑った。

心地いい風がさわっと草木を揺らしている。悠星は少し姿勢を正して言った。

「今日は最近考えた星座物語を話そうと思ってるんだ。

…今までとちょっと違うジャンルだけど、良い?」

「もちろん!わ~、楽しみ。」そう声を弾ませた。


☆☆☆☆☆


『ひとりぼっちの木こりと舞い降りた天女』


ある森の奥に、木こりがひっそりと暮らしていました。

小さい頃に親を亡くした彼は、

そこで動物や植物たちを話し相手にしていました。

とは言え、動物たちと会話が出来るわけでもなく

彼はひとりぼっちで生きていました。

ただ、彼にとってこれは当たり前のことで

寂しいと言う感情は全くありませんでした。

動植物たちと一緒に季節を感じ、自然の中で生きることは

彼にとって当たり前のことでした。

ある時、そんな木こりの生活を天から見ていたひとりの天女が彼を不憫に思い

彼のところに舞い降りました。

天女は少女の姿となり、木こりに話しかけました。

突然の出来事に木こりはとても驚きました。

彼女は家が貧しくて売られていくところを馬車から逃げて

森の中をさまよっていたのだと彼女は話しました。

それを聞き、心優しい木こりは彼女を家に招き、食事をあげました。

すると天女は、他に他に行くところもないからここで一緒に暮らさせて欲しいと頼みました。

「それは構わない。

ただ、あまり人と話すことが得意ではないから一緒に居てもつまらないと思うよ。」

と木こりはそう言って俯きました。

天女は微笑み、「私が話しかけるから大丈夫よ。」と言いました。

こうして、ひとりぼっちだった木こりは天女と一緒に暮らし始めました。

初めは戸惑いもあり、ほとんど話すことが出来なかった木こりも

彼女の笑顔と優しさに触れていくうちに

だんだんと自分からも話をするようになり、

楽しく会話が出来るようになっていきました。

木こりは誰かと過ごすことへの喜びを覚えました。

そして木こりは初めての恋を知ったのです。

天女もまた木こりと一緒に居ることで今までにない幸せを感じていました。

ずっと二人で一緒に過ごしていければいいと、お互いに思うようになっていました。

しかし、幸せな時間は長くは続きませんでした。

天女は誰に断るでもなく地上に降りてきていたのです。

そこへ天女の父親である神様が、彼女を探しにやってきました。

すると神様が二人の関係を良く思う訳もなく

彼女を天へと連れ戻しそうとしたのです。

彼女は抵抗しましたが、神様の力には抗えず木こりになんの挨拶も出来ないまま天へと戻されてしまいました。

こうして二人は離れ離れになり、木こりはまたひとりぼっちになってしまったのです。


☆☆☆☆☆


「おお、なんか星座物語っぽいのが来たね!

この展開だと普通はなかなかの悲劇っぽいけど、

悠星が紡ぐ話だからきっと大丈夫って思える。」

美生はちょっと嬉しそうに言った。

それに悠星は曖昧に頷いた。

自分たちの恋愛ストーリーで自分で勝手に

ハッピーエンドにしても良いものか悠星はまだ

決めあぐねていた。

これがどういう話なのか美生に言ったらどうなるだろう。

オレは実際にどうしたいんだ。

悠星はそんなことを考えていた。

「わっっ!!!」そう言いながら突然、美生が悠星の肩に触れた。

悠星はビクッとした。

「あははは。なんかぼーっとしてたからさ。

そう言えば出会った頃はよく驚いてたよね。」

「確かにそうだった。最近そんな事なかったのにな。」

悠星はそう苦笑した。

「さて、そろそろ帰るか。」そう言って二人は立ち上がった。

その時、美生がよろけて転びそうになった。

悠星は咄嗟に美生の腕を掴んでバランスを保った。

「あ、ありがとう」美生がそう言って、腕が手から離れそうになった

その刹那、悠星はその腕をぐっと引いて美生を抱きしめた。

美生は少し驚いたが、それに応えるように自分の腕を悠星の背中へとまわした。

それはほんの短い時間だったが、まるで永遠のように感じられる時間だった。

そして、美生が少し体を離し二人の目が合った。

「君が好きだ」そう言う代わりに悠星は美生に口づけた。

まるでそうすることがずっと前から決まっていたかのようだった…


二人は眼を合わせて、あまりに自然に起きた出来事になんと言って良いのかわからず

少しの沈黙が続いた。

ふと我に返った悠星は慌ててパッと美生から手を離し

「あっ、ま、また明日」そう言って走り去った。

「君が好きだ」の言葉を伝えられないままに…

残された美生はその場にペタっと座り込み、

今起きたことは現実だったのだろうかと赤い顔を手で押さえながら考えていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] サカキ アオイ様 今回も最後まで星の輝きが目の前に見えるような、純粋で美しい物語でした。 ふたりをモチーフにした物語に自分の素直な気持を乗せて語る悠星、そんな素敵な告白しちゃうなんて素敵…
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