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楽園の結末と二人の距離

一緒に話していると楽しくて落ち着く。

なのに突然心臓が飛び出てくるように

ドキドキしてうまく話せなくなる。

お互いに同じ様な気持ちになのに

出会ってまだ数日と言うこともあって

2人ともその感情に名前を付けられずにいた。

戸惑いともどかしさを感じながら、また夜を迎えた。


いつものように早々にやってきて星を眺めている悠星。

昼間は美生のことを考えたりして落ち着かない気持ちでも

この満天の星を見上げていると落ち着き安らいだ。

―いつまで、ここで星を眺めていられるだろうか―

時々ふとよぎるその考えを振り払い、美生を待った。

そんな悠星の後姿を見つけた美生は

ちょっとドキッとしたが、「ふぅ」と深呼吸をして

「お待たせ!今日も星がきれいだね。」と話しかけた。

そして、言った後にふと思った。

―あれ。昔、夏目漱石は『I love you. 』を『月が綺麗ですね』と訳したらしいけれど

これが星だとどうなるんだろう。

いや、別に私は告白したかった訳じゃ…―

美生が独りでプチパニックになっていると

「ああ、確かに。この時期は月の出も遅いし、月の光に邪魔されずに

星を観ることが出来るから、きれいに見えるよな。」

と何も気付かず、言葉通りの意味にとった悠星が言った。

美生は気を取り直して「あっ、なるほど…。」と言いながら

悠星の横に座った。

そのまま無言の時間が少し続いていると

「今日は、あんましゃべんないんだな。調子悪いとか?」

と数日で美生と会話することに慣れてきた悠星が言った。

「全然元気!悠星からも話してくれるようになってきたし、

私ばっか話さなくても良いかなって思って。」

緊張してたって言い訳もちょっと入っていたが、素直な思いを口にした。

「たっ確かに美生と話すのは慣れたけど、

しゃべるのは得意じゃないから、美生が話してくれると嬉しいって言うか、ありがたいって言うか…。」

と照れ隠しに笑った。

「そう?私ばっかり話してるのもって思ってたんだけど…ありがとう。

だけども悠星は話をしてくれるようになって、

一方的じゃなく会話が出来るってほんと嬉しいんだよ!

よし!じゃあ、早速続きを聞かせてもらって良い?

気になってるんだから。」

いつものキラキラした眼差しで言った。

「じゃあ、早速始めようか」悠星は嬉しそうに言った。

こうしてまた、物語の続きが紡ぎ出される。


☆☆☆☆☆


『虹の向こうの楽園』


人間の侵略によって平和な暮らし脅かされている

動物たちは楽園の中で話し合いをしました。

大きな問題は、このまま楽園に残るのか、人間と戦うのかと言うことでした。

「わたし達が守ってきたこの山を簡単に

人間に奪われるなんて許せない。戦うべきだよ!」

「でも、人間は恐ろしい道具をたくさん持ってるよ。

子孫は残せなくてもここで暮らす方が幸せじゃないか。」

どちらの意見も否定しきれない

正解のない問題に皆、頭を悩ませました。

「楽園での暮らしには終わりってないのかな?」

ふと出た質問に皆がハッとしました。

確かに幸せに暮らせても子孫も残せず寿命で死んでしまえば

楽園には誰もいなくなってしまいます。

山での暮らしの長い(たか)が口を開きました。

「昔、ここに残った動物の話を聞いたことがある。

一度楽園に残ると次の年に来た仲間と会うことは出来たが

もう二度と外の世界には戻れなかったらしい。

そして何年か後に命が尽きたと。」

「じゃあ、ここに残ってもいつか自分たちの種族が

消えていくだけって事か…

それなら、やっぱり戦った方が良いよ。」

「それに人間がやってきて楽園を知られてしまうことだってありえるし。」

うんうん、と多くの動物が賛同をしました。

その中で「いや、オレたちは残るよ。」

そう言う動物たちが数種類いました。

その言葉に他の多くの動物たちがどよめきました。

「オレたちは人間が来る前から存続が危ういんだ。

ここに居れば争いもなく暮らしていけるけど

戻ったら食べられる側になってしまう。

いつの間にか仲間もかなり減ってしまってるんだ。

だったらいっその事、ここにいた方が幸せな気がしてる。」

確かに現実に戻ればそこは自然の摂理であり本能の世界。

少なくなったから彼らを食べないようにしよう、と言う訳にはいきません。

シンっとしてしまったところでオオカミが言いました。

「食べないようにするとは言えないし、そんな事情で無理に

一緒に戻ろうとは言えないな。

ただ、このまま残るならここで長く生きられる方法を

見つけて欲しい。ここは楽園。きっと神様がいるはずだ。

捕食側のオレが言えたことじゃないかも知れないけど、

この山で一緒に暮らす仲間がただ消えていくのは悲しい。」

すると楽園に残る動物たちは「分かった」と大きく頷きました。

こうして、楽園の外で戦うものと残って生きる道を探すものに

分かれて作戦を立てました。

冬も終わりに差し掛かり、虹が消えてしまう時期になると

人間と戦う決意をした動物たちは元の世界へと戻っていきました。

また残る動物たちは楽園内の探索へと出掛けていきました。

春が来て、雪が解けるとまた人間たちが山への侵略を始めました。

動物たちはそれぞれ出来る方法で人間たちに向かっていきます。

穴を掘るのが得意な動物は至る所に落とし穴を作り、

木登りが得意な動物は、穴に落ちた人間に向かって石や木の実を投げつけました。

また、大型の動物たちは本来は襲うような場面でなくても

人間に向かって威嚇して牙を剥きました。

人間たちは少し(ひる)みましたが、恐ろしい武器を持って

山頂へと進んでいきました。

それでも動物たちは自分たちの居場所を守るために必死でした。

その中で命を落とす動物たちもいましたが、みんなで一丸となって戦い続けました。

やがて、山に入るたびに何かが起こりけがをするものも出て

人間たちは山の神様の祟りだと恐れるようになり、足を踏み入れる

事が少なくなっていきました。

動物たちは戦いの勝利に歓喜し、しかしその後も怠らず

人間が来るたびに追い払うのでした。

そして、数年後の冬がやってきました。

虹の向こうの楽園を訪れた動物たちはドキドキしていました。

そろそろ楽園に残った動物たちの多くの寿命が尽きるころだったからです。

しかも冬に楽園にやってきても、探索に出た動物たちはなかなか姿を見せていなかったのです。

しかしその年、楽園に残った動物たちは元気に彼らを出迎えてくれました。

「皆さん、お久しぶりです!私たちも探し回って

楽園でずっと暮らすすべをやっと見つけました。

もう絶対に元の世界には戻れず、子孫も作れないけれど

楽園の中では生き続けられることになりました。」

(たもと)を別った動物たちは嬉しい再会に泣いて喜びあいました。

人間たちの中では、絶滅したと言われている動物たちも

実は楽園では幸せに暮らしているのです…

こうして、天の川の右側は楽園の世界の動物たちが

左側は山を守る動物たちの祖先が

お互いを思い合って、光輝いているのです。


☆☆☆☆☆


話し終えた悠星が一呼吸ついた。

美生が黙っているので、そっと彼女の方を向くと

涙を流していた。

悠星はびっくりして「あっ、えっ」と動揺した。

美生がハッとして

「急に泣いてごめん。どんな生き方を選んでも

そこに自分の意志がきちんとあれば幸せになれるんだって

思ったら感動しちゃって。」

と涙を拭った。

「素敵な話を聞かせてくれてありがとう。」

まだ瞳に涙を残しながらも、本当に嬉しそうに笑った。

その顔を見て悠星は

―美生を守りたい、そしてギュッと抱きしめたい―

そう思った。

そして美生に手を伸ばそうとした時、

泣いてしまって恥ずかしくなってしまった美生は

悠星が手を伸ばしているの事に気付かずにスッと立ち上がった。

「また明日も楽しみにしてるね!」

まだ少し涙目の美生はそう言って足早にその場を離れた。

―あっ、また次の話のタイトルを聞くの忘れちゃったな―

そんなことを思いながら…


残された悠星は美生を抱きしめそうになったまま

やり場のない自分の手を見つめ、

―これが誰かを好きになるということなのか―

と初めて自分の気持ちに気付いた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 一気読みさせて頂きました! それぞれの星座に素敵な物語が宿っていて、これを考えてるの凄いなぁと!二人の距離が少しずつ縮まっていくのがいいですね(^^)
[良い点] アオイ サカキ様  第6話、心待ちにしていました。  悠星と美生の微細な心の動きが話数を重ねるごとにはっきりしていって、ついにここで自分の気持ちに素直になって…ここからがふたりの物語の…
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