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また新しい物語が紡がれる

悠星が座り込んで動けなくなってる頃、

美生もまた顔を赤らめて、

ーさすがにあれはちょっと距離感を間違えたかな…

あ、それに次の話途を中まで聞けば、せめて

タイトルだけでも聞いておくんだったな―

そんなことを思いながら足早に家路を辿った。

ただ面白い話をしてくれる友達だと思った彼を

少し違った目で感じるようになった瞬間だった。


そして次の日の夜。

いつものように座って星を眺める悠星を見つけた美生だったが

何となく恥ずかしくなってしまい、昨日までのように

急に話しかけるのではなく、少し離れた場所から

「こんばんは」と声をかけた。

悠星はちょっと驚いたように美生の方に顔を向けた。

「やあ。今日こそ、びっくりしないように気合を入れてたんだけど…」

俯きながら少し残念そうに言った。

そんな悠星の姿をみて美生は緊張が解けて

「そっか、そしたらまた明日からは覚悟しててね。」

と、いたずらっぽく笑った。

「オレだって、もう驚かされないからな。」と笑った。

少し緊張の解けた美生は、悠星の隣に腰を下ろして少し

口早に話し出した。

「昨夜は何か慌てて帰っちゃってごめんね。

千夜一夜物語なら、昨日は次の話の途中までとか、せめてタイトルだけとか

聞こうと思ってたのに。

まあ、それはそれで今日はどんな新しい物語だろうって

ワクワクしてたんだけどね。」

そんな言葉を聞いて悠星もほっとした顔をした。

「いや、オレもまだ昨夜の時点では次の話をどれにしようか

考えてなかったから、むしろ助かったかも。」

相変わらず言葉は少なめだか、今までよりも

どもったりせず自然に話せるようになってきて

悠星は自分でも少し驚いて、嬉しくも思った。

そして美生もまた悠星の変化を好ましく思っていた。

それでも、お互いに何となく会話が進まず

「えっと、早速だけど新しい物語をお願いします。」

と美生が切り出し姿勢を正した。

「あ、うん。じゃあ今日はあの大きな天の川を中心にみてて。」

そう言うと悠星は物語を紡ぎ始めた―


☆☆☆☆☆


『虹の向こうの楽園』


あるところにとても美しい山がありました。

しかし、高くそびえるその山は中腹には岩がゴロゴロとしており、坂も険しく

人間が足を踏み入れることは出来ない場所でした。

人の手が入らない自然豊かなその山頂付近は

様々な動物たちが共存していて

動物たちの楽園となっていたのです。

ただ、この山の(いただき)は一年の半分以上が雪に覆われる

厳しい環境でもありました。

それでも動物たちは幸せに楽しく暮らしていました。

そう、この山には秘密があるのです。

吹雪がやんで良く晴れた凍てつく真冬の朝、

きれいなアーチを描いた虹が山頂を覆うようにかかり、

虹の下はキラキラと輝きだし光の扉が現れるのでした。

それまで寒さに耐えていた動物たちは待ってましたとばかりに

虹の扉に向かって駆け出していきました。

扉の先には暖かな日差しの降り注ぐ草原が広がっているのでした。

それまで冬眠していた動物たちも

雪の下で頑張って暮らしていた動物たちも

皆がこの虹の先の楽園で楽しく暮らすのです。

野ウサギやリス、クマの親子も幸せそうに

はしゃいでいました。

「やっと虹がかかってくれたよ。」

「もう寒くてどうにかなりそうだったよね。」

「でも、どんなに寒くても虹のこっち側に来てしまえば

平和で暖かく暮らせるのはありがたいよな。」

動物たちが嬉しそうに口々に話しています。

そんなにいい場所なら、ずっとこのままここに

いればいいじゃないか?と思うかも知れません。

しかし、ここに普通の世界とは違うのです。

ここに居れば争いもなくエサにも不自由しないし

天敵もいません。

その代わり、ここでは動物たちは成長もしなければ

子孫を残すことも出来ないのです。

だから、真冬の本当に辛い時期にだけここに集って

つかの間の楽園生活を楽しむのでした。


しかし、ここ数年で山に変化が訪れていました。

人間によって険しい山道がだんだんと切り開かれ、

この豊かな山の資源が奪われ始めたのです。

今まで人間を見たことがなかった動物たちは

たくさん捕まったり殺されたりしました。

人間の傍若無人さに腹がたち、

そして自分たちの無力さに絶望していきました。

そして、自分たちがどうやって生き残っていけばいいのか

分からず戸惑うばかりの日々を送っていました。

寒さの厳しい吹雪の後にはさすがに人間の姿もなかったので

気持ちが落ち込みがちな動物たちはも心して虹の楽園へと向かえました。

そしてある年、動物たちは楽園の中で集まって

これからこの山をどう守っていくのかの話し合いを

始めたのです。


☆☆☆☆☆


一息ついて「続く」と言って星空から目を離し美生の方を向いた。

すると、美生も悠星をじっと見つめていた。

「今日も途中までで良かったんだよな?」

美生が何も言わないのでちょっと慌てて悠星が聞いた。

「あっ、ごめんごめん!

昨日の話とはまた全然違う話でびっくりしちゃって。

なんかすごいね。ワクワクする。」

と、いつものように目を輝かせた。

悠星は、自分が考えた物語をこんな風に楽しそうに聞いてくれて

褒めてもらえることがこんなにも嬉しいのかと思った。

「あ、ありがとう」いつものような俯きがちではなく

少し顔をあげて自然とほほ笑んだ。

暗がりではあっても、悠星のその優しい表情に

美生はドキリとした。

忘れていた昨夜の出来事も、パッと頭をよぎり

顔が赤くなるのを感じ下を向いた。

いや、ここで昨日みたく慌てて帰ったら悠星に変に思われると

思い、一呼吸おいて「こちらこそありがとう!」と

満面の笑みを見せた。

すると今度は悠星もまた俯き…

とお互いに少しドギマギしながら

「じゃあ、また明日」そう声が重なった。

ふたりは顔を見合わせて笑い、

そして満天の星空を後にしたのだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] アオイ サカキ様  続き、心待ちにしていました。  悠星が紡ぐ物語がいつも素敵すぎて、私も美生と同じような気持ちで物語を聞いているような気分になります。  この先の天の川の物語、ふたりの…
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