物語の結末は…
二日続けて美生に会い、悠星はさすがに
もう夢か幻かとは思わなくなっていた。
それでも胸のドキドキは相変わらず
…むし高ろまる一方だ。
四六時中、美生のことが頭から離れない。
しかし、この気持ちが恋愛感情だとなかなか気付けずにいた。
彼にとっては初恋であり、こんな気持ちを相談できる相手も
居なかったのだ。
自分の気持ちをどう表現したら良いか分からず、
困惑したままその日も夜を迎えたー
それでも、夜になり星を見上げていると
悠星の心は落ち着いた。
タッタッタッ、足音が近づいてくるの聞くと
また胸がドキッとしたが、今日こそ驚かされないぞと
意気込んで足音のする方を振り向いた。
すると、パッと美生と目があった。
美生は悠星はまた星を見上げて自分には気付かないだろうと
思っていたので、少し驚いた表情をした。
しかしすぐに笑顔になり、悠星の隣に座った。
美生は、悠星が自分が来るのを待っていてくれていたこと感じ
嬉しくなった。
「今日は驚かされなかったね」照れ隠しのように美生は少しおどけて言った。
それを聞いて悠星は自分が美生が来るのを待っていたことを
悟られた気がして「オ、オレだって、学習能力があるんだよ」と
ちょっとぶっきらぼうに言った。
そして二人はお互いの顔を見てフッと笑った。
「昨夜は途中で話を終わらせちゃってごめんね。
でも、お陰で今日の話がより楽しみになってるよ。
よろしくね!」
美生が本当に楽しそうに言うのを見て、
悠星の胸はまた高鳴っていた。
「じゃあ、さっそく昨日の続きを話していこう」
自分のドキドキを悟られないように
こほん、と咳払いをして物語を紡ぎ出した。
☆☆☆☆☆
『正直な王様とそれを信じる民の話 2』
ピーターの陰謀は着々と進んでいきました。
素直な王をだまし様々な悪政を敷かせ、
民はどんどん疲弊していきました。
王が国民の状況を見れば、これが間違っていると分かったのでしょうが、
ピーターは王を口車に乗せて城から出ないようにさせました。
「ピーター、もう私は何年も街に出て国民の暮らしを見られないのだが
今、国民はオーネ国はどういった状況なんだろうか?
課税を増やしたが、民は困っていないだろうか?
私も一度街に降りて民と話をしたいんだか、どうだろう?」
王が問うと
「王様、そんなに弱気にならずとも大丈夫です。
税が上がり、国民は今まで以上に頑張って働くようになり
とてもいい状態です。
それに王様。国のトップは常に威厳を持って雲の上の存在でなければなりません。
直接民を見ずとも、このわたくしめが見てきて王にお伝えしてるでは
ありませんか。ご信用いただけませんか?」
そんな風に言われると王も強くは言えず、
ピーターの言葉を信じるよりなくなってしまい、
王は軟禁状態になってしまいました。
また、街ではピーターは民に王の悪政を止めることが出来ない自分を許してほしいなどと
言い回り、国民の同情と信頼をどんどんと高めていきました。
ついに民が口々にこう言いだしたのです。
「この国にはあんな王はもういらない。
みんなで蜂起してピーターを国王にしよう!」と。
ピーターはしめしめと思い、これは自分が起こしたことではない、
民が自主的にやっているんだと印象付けて自分はひとり、高みの見物をしていました。
フラストレーションが溜まっていた民たちは
一気に団結し、クーデターを起こすこととなりました。
農具などで作った即席の武器を持って
多くの国民が城へとなだれ込みました。
衛兵はピーターの指示で手薄になっており
あっという間に城は占拠されてしまいました。
ずっと玉座に軟禁状態だった王は
この状況にひどく驚きました。
まさか、ピーターを信じてきたことがこんな結果になるとは…
王は民に拘束されて街の中心広場へと連れていかれ、
そこでこの2年間で何があったのかを知らされ
愕然としました。
皆がこんなにも自分を憎んで恨んでいることに
王はとても胸が痛みました。
そしてこの責任は自分にあると思い、抵抗もせず自ら処刑台に向かいました。
そして民の怒号が飛び交う中で
皆に向かって話し出しました。
「私は民のみんなに酷いことをしてしまった。
本当に悔やんでも悔やみきれない。
私の命でそれが少しでも解消されるなら
いくらでも差し出そう。
ただ、最期に聞いてほしい。
私は国を豊かにしたくてピーターに助言を頼んだ。
しかし、いつしかそれは助言ではなくなり
言いなりになっていたのだ。
しかし、ピーターだけが悪い訳では無い。
私がちゃんと国民に寄り添い、会いに行けば良かったのだ。
申し訳ない…
私がいなくなって、これからピーターが
王になるのだろうか?
彼を信じるなとは言わない。
ただ、自分たちでも考えて国を良くしていって欲しい。
無知であることは罪だ。そして私も無知だったのだ。
だから私が断罪されるのは構わない。
しかし、君たちは誰かの言いなりになるのではなく
自分たちの考えを持ってしっかり歩んでいって欲しい。
本当にすまなかった…」
王様が言い終えると民衆はシンっと静まり返りました。
誰かが口火を切りました。
「王が誠実で今までずっと民のことを考えてきたことを俺たちは知っている。
今の言葉に嘘はないんじゃないだろうか?
本当に王を処刑すべきなのか?」
集まっていた民衆たちはザワザワとし始めました。
そして、多くの民たちが王の処刑を取りやめようと声を上げました。
すると陰で事の成り行きを見守っていたピーターが
慌てて民の前に出てきて
「私はオーネを良くしようと尽力してきたんですよ。
国政は王がするもので、私にはそんな力はない。
みんなで王を倒して、新たな国を作りましょう。」
そう叫びました。
しかし今までピーターの話を信じていた国民も王の心からの言葉を聞いて
ピーターの声にはもう耳を貸しませんでした。
「俺たちはずっとこの王の下で幸せに暮らしてきたんだ。
おかしくなったのはピーターがきたからだ!」
わー!!!
たちまち民はピーターを包囲して捕らえました。
王は呆然とその様子を見守っていました。
すると国民たちが口々に言いました。
「王様!わたしたちにはあなたの誠実さが素直さが大好きだ。
そして、その誠実さでこれからも我々と一緒に国を作ろう!」
その言葉に王は涙を流し「この国のために人生をかけよう!」と叫び、
民衆も歓声をあげました。
こうして、ピーターが企てたクーデターは失敗に終わったのでした。
その後、一度荒廃した国を立て直すのは
一朝一夕ではいきませんでしたが、皆が心を一つにし
王も民と共に働き、事あるごとに民のところに出向き
同じ目線で国政を敷きました。
そして、それまで以上に平和で穏やかな国になっていきました。
そしてこの出来事を忘れないように
星に刻んだのです。
あのギザギザに並んでいるのが王冠で、その周りを瞬く
沢山の星たちが民。
いつでも王を支え
王は民をいつでも見ていると…
☆☆☆☆☆
「おしまい」
悠星は照れながら話を終えた。
そして夜空を指さして
「あの辺りでギザギザと王冠みたいに星を繋いものと
その周りの星たちの星座物語だよ。」
そう言って、美生の感想が不安で恐る恐る横を見た。
するとそこには眼を輝かせた美生がいた。
「良かった!途中で『王様が処刑されて星になる』みたいなのを
想像してたから、幸せになって本当に良かった。楽しかったよ。
うん、あの辺りに王冠あるように見えるよ。」
嬉しそうに話す彼女を見て悠星はほっとした。
「だ、誰かに聞いてもらうことを想定していなかったから
そう言ってもらえると嬉しい…」
そう悠星は照れながら美生を見て笑った。すると美生は微笑んで
「わっ!いい顔で笑うじゃんか。
下を向きがちだけど、前向いて笑ったらいいよ。
ほら、もっと前髪も上げてさ」
そう言って悠星の前髪を掻きあげた。
すると二人の目線がパッとあい、すぐにお互いにそっぽを向いた。
さすがの美生も赤くなって、取り繕うように言った。
「明日はまた新しい話を聞くのを楽しみにしてるね。
今日はありがとう!」
そして、照れてるのを隠すように足早に去っていった。
残された悠星もドキドキして、なかなかその場を動けなかった。