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新しい星座の物語が始まる

悠星は一呼吸おいて言った。

「まず、オレが指さしたあの辺を見て。

まずあの辺りの星たちの話をしようと思うんだ。」

そう言って北の空の少し左側を丸く指で囲った。

「えっ、あの辺りって。そんな大雑把でいいの?

あの星とあの星を線でつなぐ…みたいなのは?」

美生は驚いて聞いた。

すると悠星はふっと笑って言った。

「これだけ満天の星から、ひとつの星を見つけて星座をつなぐって難しいんだよ。

1等星と6等星って、ここから見てもそんなに違いって分からないもんなんだ。

だから、むしろもっと明るくて

1等星と2等星くらいしか分からない所の方が

有名な星座なんかは見つけやすいんだ。

オレが作った星座だって、自分では分かるけど説明は難しい。

だったら、それよりその辺りで美生がそうだと思う星を見つけて

それをつないで想像してもらった方が良いと思うんだ。」

これは今朝から悠星が考えていたことだった。

星座の形を知ってもらうより、この満天の星の中で

その物語を聞いてもらった方がきっと良い。

どの星だって、きれいに輝いているのだから。

美生はなるほどと納得してうなずいた。

そうして悠星は静かに物語を紡ぎ出した…


☆☆☆☆☆


『素直な王様と彼を信じる民の話』

ずっと昔、あるところに小さな小さな国がありました。

オーネと呼ばれていたその国は、一方は猛々しい山が囲い、

もう一方は荒々しい海に囲まれていました。

そのお陰で、とても小さいその国は他国からの侵略も受けずに

穏やかに平和に暮らしていました。

まるで神様に守られているように。

そんな穏やかな国の王様も代々優しくで誠実で民想いでした。

偉ぶることもなく、民の目線に立ち、まとめ役になって住みやすい国造りをしていました。

しかしそんな平和なこの国にとある事件が起きました。

その事件があった時の王様は、歴代の国王の中でも特に優しく誠実で、

国民に信頼され、とても愛されていました。

その事件は突然の来訪者によって起こされました。

とある嵐の翌日、浜辺に一人の男が瀕死の状態で打ち上げられていました。

誰かが訪れることがほとんどないこの国で、この出来事は大騒ぎになりました。

皆で知恵を持ち寄って男の看病にあたりました。

数日後、皆の看病の甲斐もあって、

男は意識を取り戻し、ピーターと名乗りました。

意識を取り戻したことに皆が喜び、この来訪者を歓迎しました。

しかし、実はこのピーターと言う男、たいそうなペテン師で

あらゆる国に出没してはペテンを繰り返していました。

その時もある国を追われて船で何とか逃げ出したところで

波の荒さに難破して海を漂っていたのでした。

そうとは知らず、オーネの人々はピーターをもてなし

普段、なかなか知ることのないほかの国の話を聞きたがりました。

ピーターも初めは戸惑いましたが、

オーネの民の優しさに感動し、心を入れ替えて

この国で彼らと一生懸命暮らそうと思いました。

そして、ケガもだいぶ治ったある日、

王様が話がしたいとピーターをお城に呼びました。

「ピーター、元気になったようで良かった。

皆から色々と話は聞いている。

異国の話をきかせてくれてありがとう。

君はこれからどうするつもりだい?

ここから、隣の国までいくのも、なかなか大変だ。

もし良ければ、この国に留まって私にも色々教えてくれないか?

なにせ、この国は閉鎖的だ。平和に過ごしてはいるけれど、

もっと皆を豊かに出来るような知識が乏しい。

君は沢山の国々を回っていたと聞いた。

その知識をこの国のために使ってはくれないだろうか。」

ピーターは自分の出自を調べたりせず、

今の自分を国のために必要としてくれることが

嬉しくもちろん快諾しました。

こうして、オーネの相談役になったピーターは

自分が知る他国での話をし、王様を助けました。

自分の話に真摯に耳を傾け、疑いもせず信じる王様を見て

だんだんとピーターの心には黒いものが生まれ始めたのです。

ずっとペテン師だった彼は、

ーこんなに自分のことを信じ切っているんだから、

王様をだましてこの国を乗っ取ることだって可能じゃないかー

そう思うようになってきました。

まず、ピーターは小さな嘘を端々に入れて

自分の思い通りに物事が進んでいくことを確認しました。

そして、自分の味方になりそうな人事を行い

完全に王様がピーターの助言にしか従えない

環境を作っていきました。

こうしてピーターは城での力を強めていったのです。

ついに、ピーターは王様に税の徴収を増やすように提案しました。

さすがに王様も初めは戸惑いましたが、

ピーターが言葉巧みに理由をつけるとその意見を採用し

今までより多い課税を始めました。

そして、ピーターは自分を財務大臣にすればうまくいくと王様をそそのかし、まんまと財務大臣の座に就くと、彼は自分の好き勝手に

お金を使うようになっていきました。

ピーターを信じ切っている王様はそれを糾弾することも出来ず

月日が流れました。

2年が経ち、あんなに穏やかで平和だったオーネの国でしたが

国民の心は荒み、国は荒れていく一方でした。

このひどい施策がピーターのせいだと知らない国民は

王様に対して不満を募らせていきました。

ピーターはしめしめと思いました。

この国の惨状を全て王様のせいにして、

国民たちの賛同を得て、自分がこの国を立て直すリーダーとして

クーデターを起こし、玉座を乗っ取ろうとしていたのです。


☆☆☆☆☆


「ちょっと待って!」

話の途中で美生が突然、遮った。

悠星はびっくりして、そしてこんな話つまらなかったのかと

動揺し戸惑っていた。

「話の途中で遮ってごめんね。

この話ってもうすぐ佳境だよね?」

そんな質問をしてきた。

「うん、もう少しで終わるけど…」

「じゃあ、今日はここまでで、続きはまた明日聴かせて!」

美生の真意が分からず悠星はどうしたものかと言葉に詰まった。

「気を悪くしたならごめん。面白くないんじゃないの。

むしろ逆で、先が知りたいから、明日に取っておきたくて。

アラビアンナイト的な?話の面白いところで続きにしたいの。

明日の楽しみにしたい。いい?」

そんな風に言われたら断ることも出来ず

「オ、オレは構わないけど…」と答えた。

すると美生はパッと笑顔になって

「わがままを聞いてくれてありがとう!」と

嬉しそうに言った。

話が聞きたいと言ったり、ここで止めてと言ったり

なんて自由なんだと悠星はあっけにとられていた。

しかし、そこに全く嫌味もわがままも感じなかった。

素直に自分の思いを伝えられる美生に、

また心が強く惹かれていった。

「じゃあ、また明日!楽しみにしてるね」

そう言って帰る美生の背中を見つめて

明日もまた会えることに悠星の心は踊るのだった。



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― 新着の感想 ―
[良い点]  サカキ アオイ様  拝読いたしました。物語の中にまた物語、しかも絶妙なところで美生に止められて、この先をもっと知りたい!とワクワクする展開にすっかり虜になりました。  次も楽しみにして…
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