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side MIU Ⅱ

「突然真っ暗だった世界が輝きだす」

「なんの音もなかった人生が急に楽しく響きだした」

なんて、そんなことは小説や歌の歌詞でしか

ないと思っていた。

しかし、美生にとって悠星との出会いは

まさにそんな表現がピッタリだった。

先の楽しみがなかなか持てずに

何となく送っている日々。

むしろ明日になったら体調が急変するかも

自分は生きているんだろうかと不安に思うことの

方が多かった。


実は悠星が星座物語を作っていると聞いた時、

楽しそう、聞きたいと思ったものの

家に帰ってふと思い悩んだ。

今まで星座物語は読んできたけれど

理不尽で可哀そうな話ばかりで

美生はそんなに好きではなかったから。

それでも、せっかくいつも見てるだけだった

彼との接点が出来たし、聞いてみようと

思った。

そして、そんな悩みはすぐにどこかへ飛んでいった。

なんと悠星の語る星座の話はハッピーエンドが多いのだ。

美生は嬉しくて幸せな気持ちを感じていた。。

悠星が話してくれる物語を聴く日々は

美生の人生に彩りを、明日への楽しみを

与えてくれていた。

夜だし、よく見えないと分かっていても

今日はどんな服を着ようか悩んだ。

悠星はきっとそんな事気付かないだろうと

思っても、誰かと会うためにワクワクしながら

洋服を選ぶことが、美生にとって初めてのことで

本当に幸せだった。


そんなある日、悠星にどうしてハッピーエンドばかりなのか

聞いてみた。

すると悠星も悩みを抱えていて

自分と同じ思いを持っている人なんだと知った。

そして、自分のお陰でやりたいことに向き合っていける、

感謝していると言うのだ。

産まれた時から、ずっと心配と迷惑しかかけてこなかったと

感じていた美生にとって、

自分の存在が初めて心から肯定され、

嬉しさのあまり美生の頬に涙が流れた。

そして、本当に悠星と出会えて良かったと思った。

しかし、その日悠星から「友達だ」と言われたことに

胸がチクっとした。

もちろん自分から言ったことだし、

何かを望んでいた訳ではないはずだった。

なのにこんな胸の痛みを感じて、美生はこの想いは…

と自分に芽生えた恋心に気が付いた。


翌日はなんだか悠星に会うのが今までよりも

楽しみであり、ドキドキもした。

その日の星座物語は恋愛ストーリーだった。

まるで自分の気持ちが気付かれたんじゃと

ドキッとするほどタイムリーで、

美生は平静を装うのに苦労した。

そして、話が終わって立ち上がろうとした時に

突然のめまいに襲われた。

ヤバい…とよろめいた時に、悠星が美生を支えてくれた。

そして抱きしめられた。

一体何が起きたのかと混乱したが

美生も悠星の背中にそっと腕をまわして

悠星の胸に顔を埋めた。

そして美生が顔を上げた瞬間、悠星と目が合って

それがまるで当たり前のように悠星の唇が美生の唇と重なった…

我に返った時には美生は地面に座り込み、自分の真っ赤な顔を押さえた。


悠星も自分のことを好きだと思ってくれているのだろうかと

夢見心地で家に帰り、眠りについた美生だったが、

朝起きると突然現実に引き戻された。

両親が訪ねてきたのだ。

そして「手術の算段がついたから、すぐにでもここを出て

アメリカに渡る」と告げてきた。

前々から近いうちに渡米することにはなっていたが、

こんな急にやってくるなんて思ってもみなかった。

美生は必死で抵抗した。せめてあと数日ここに居たいと。

理由も曖昧な娘の言い分に、両親は少し面食らった。

それでも病弱で我慢ばかりの美生の珍しいわがままに

両親は2日の猶予をくれた。

しかし、無情にも雨が降り続き、悠星に会うことを阻んだ。

家は分かっていたから会いにも行けたが、あんなことがあった後で

なんとなくあの星空の下以外で悠星に会うのはためらわれた。

リミットが訪れて仕方なく美生はペンションのおばさんに

悠星宛ての手紙を託した。

「連絡先を交換しておけば良かったかな」と思ったが

もう会えるかも分からない私の痕跡なんて

残さない方が良いだろうと思い直した。

初恋は叶わないものなんだと自分に言い聞かせて…

そして後悔を残しながらも美生はアメリカへと旅立った。


死も覚悟の手術だったが、無事に成功しそのまま数年は

アメリカでリハビリ生活を送っていた。

リハビリする場所は田舎の星がよく見えるところがいいと希望し

天気がいい日は毎晩星を眺めた。

周りの人には良く飽きないねと言われたが、

あの夏のことを思い出す夜空はいくら眺めても飽きることは無かった。

ふと悠星はどうしているのだろうかと、

切ない気持ちがやってくることはずっと変わらないままだったけれど。


リハビリも順調に進み、渡米してから5年の年月を経て

美生はついに帰国した。

遅ればせながら大学にも進学した。

サークルにゼミに恋愛…

ずっと夢見た学生生活を謳歌しようと

美生は張り切った。

元々、社交的な性格な彼女は

すぐに周りとも打ち解けて楽しい日々を送った。

それでも、街を歩いていてもふと

どこかに悠星が歩いているんじゃないかと目で追ってしまう。

彼のことはもう忘れようとしても、ずっと悠星を忘れられないままだった。

あの村に行けば今の悠星の所在も分かるかもしれない、

そう思ったが、自分から連絡を絶った身としては

さすがに未練がましく感じられて出来なかった。


そんなある日、美生はふと見たスマホのネットニュースの記事を読み驚いた。

その記事の写真には悠星が写って

あの村で天体観測と新しい星座作りをしていると書いてあったのだ。

写真の彼は少し大人びていたが、けれどあの頃と同じ

優しい眼差しをしていた。

美生の頬を涙が伝い、蓋をしていた自分の気持ちが溢れてきた。

―悠星に会いたい。

もう悠星は新しい人生を歩んでいて私の事なんて覚えていないかも知れない。

勝手にいなくなって突然現れたら自分勝手だと思われるかも知れない。

それでも良い。どうしても私は彼に会いたいんだ―

美生はそのままスマホで星空観察会を検索した。


観察会に参加したら、ゆっくり話せないかも知れないと思い

美生は観察会の終わりの時間を見計らって

懐かしいあの場所に向かった。

10年前と同じ場所で彼はまだ星を眺めていた。

涙が出そうになるのを堪え、なるべく緊張が分からないように

悠星に話しかけた。

「あの、すみません」


そして、今までふたつだった彼らの物語は

ひとつのストーリーへと続いていく。

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