side MIU Ⅰ
美生目線でのストーリーです
美生がこの村に初めてやってきたのは
小学5年生の頃だった。
美生は生まれつき心臓の病気を患っていて
学校には在籍はしていても、
ほとんど通えてはいなかった。
少しでもいい環境で過ごさせたいと
美生の身体を心配した両親が
探してきたのがこの村だ。
物心がついてから病院にいる方が長かった美生にとって
とても大きな出来事だった。
ここは空気もきれいで美生も気に入った。
ただ、学校に通えていなくても、
数少ない友達と離れるのも嫌で、たまに静養に来る程度だった。
状況が変わったのは中学生になった辺りからだ。
中学にあがり、友人たちは部活に勉強にと忙しそうで
美生のお見舞いに来てくれることもほとんどなくなっていった。
たまに顔を見せに来てくれても、
ほとんどベッドの上で過ごしている美生とは話があわず、
何となく気まずくなることも多くなっていった。
美生もこのまま病院で過ごすよりじっくり静養しようと思い、
中学3年生の夏にこの村の丘の上のペンションに
長期滞在させてもらうことになった。
ここでの暮らしは美生に合っていたようで、
大きな発作を起こすこともなく穏やかに生活していた。
往診してくれる病院の先生も驚くほど安定していた。
冬になるとかなり雪深く、何かあった時に心配だからと
言う理由で、実家に戻っていたが
体調の違いは一目瞭然と言う感じで
結局、実家に戻ってもほとんどを病院で過ごしていた。
基本的にベッドの上で過ごしている美生にとって
小説や漫画は強い見方であり、同世代の女の子が
どう生きているのかを知るための教科書でもあった。
中でも、不幸な生い立ちの主人公がそれを克服して
幸せになるストーリーが好きだった。
そこに自分を投影させて、いつか自分も元気に走り回って
幸せになるんだと思えたからだ。
たまに、これはハッピーエンドだろうと思って読んだ作品が
バッドエンドを迎えてしまうと
本当に落ち込んで、数日ふさぎこんでしまうくらいだった。
自分も何も出来ないまま、この世の中から消えていって
しまうのではないかと言う不安に襲われるのだ。
そんな美生に一つの楽しみが出来たのは
中学を卒業した春の日だった。
卒業した…と言ってもほとんど通わず
ただ、卒業証書が送られてきたと言う感じだった。
それでも、4月からは通信制高校に通えるだけの
体調でいられることが嬉しかった。
そして、何気なく部屋の窓の外に目を向けたところの
原っぱで”彼”を見つけた。
表情まで見える距離では無かったけれど
星を見つめる彼の姿がとても生き生きと見えたのだ。
同年代くらいの彼を見ていることで
自分も生き生きと楽しい気持ちを
分けてもらっているような気がした。
それから、毎日夜になると窓越しに彼を見るようになった。
しかし、4月が数日経ったところで
彼は原っぱに姿を見せなくなった。
体調でも崩したのかと心配もしたが
確認するすべもなく、
それでも毎日窓の外の彼を探した。
次に彼がやってきたのは
ゴールデンウイークに入った所だった。
ああ、きっと彼はここの住人ではなく
休みの度にやってきているのかと
美生は推測した。
それからも、長期休みの度にやってくる
彼を見つめることは美生の楽しみになっていた。
そして高校2年生の夏休み、
美生はついに彼に話しかけることになる。
ここでの暮らしと、美生自体も身体が成長し
体力も以前よりついてきたことから、
少しは外に出ても良いと、医師から言われたのだ。
そこで美生は、星を眺めたいと言って
夜の少しの時間だけ丘を少し下った原っぱに
行く事の了解を得た。
こうして美生と悠星は満天の星空の下で
出会ったのである。
そして、肉眼で彼の姿がはっきり見える場所までやってきて
美生はとても緊張していた。
同年代の男の子と話す機会なんて
今まで無かったし、どうやって話せばいいのか…
美生は小説や漫画に出てくる明るい主人公たちの
言動を思い浮かべて。深呼吸をした。
明るく笑顔で…と自分に言い聞かせながら
「ねえ」と彼に話しかけた。
まるで何てことない様に話をしながら
内心ではとても緊張していた。
彼は悠星と言って自分と同い年だった。
美生の想像していた感じの男の子では
無かったが、友達がいなくて星が好きだと
言うところに、何となく親近感を覚えた。
新しい星座と物語を作っていると話す彼は
おどおどしている中にも、瞳が輝くのを感じ
やっぱり行き生きしていて良いなと思った。
そして、その話を聴かせてもらえることになり美生の胸は躍った。
美生は心から嬉しかった。
ほとんど寝て過ごしてきた美生にとっては
明日が来るのをこんなに待ち遠しく思うことは初めての経験で、
それは美生にとってかけがえのないもになっていく…




