第二話 虚飾の抹消
ネルエ『フェアリーブレイク!』
弓を力強く引き絞って矢を相手の脳天目掛けて打つ。その弓から放たれた矢はガーサツに当たる直前で光を四方に反射させ、そして、爆ぜた。
その爆発により煙がガーサツの体を包み込む。
ガーサツ『なるほどな…矢の形も性能も変幻自在というわけか、なかなか良い武器を持ってるじゃねぇか…。』
ガーサツ『俺に攻撃は当たる!』
ガーサツがそう叫ぶと同時に炎を纏った矢が煙の中を流れ、ガーサツの脳天を射抜こうとした。
しかし、その矢はガーサツには当たらず、その実横を通っていった。
ネルエ『なっ…!』
ネルエがそう思わず声を上げてしまったのは当然のことだ。何せ今までネルエの放った矢が当たらなかったことはなかったのだから。
ネルエ『貴様!何をした!』
ガーサツ『さぁ?煙の中だったから俺の姿を正確に捉えられなかったんじゃないのか?』
ネルエ『戯け!』
ネルエはそう言って、弓を再び構え矢を放った。その矢はただの普通の矢であり、あくまでも引きつけ役である。本命は…。
ガーサツ『矢は俺に当たる』
普通の矢が風に吹かれたように向きを変え、ガーサツの隣を通る。
ガーサツ『当たっ…らなかったみたいだな?なんだ?やっぱり俺よりつよ…弱いのか?……っへ!』
何だか口調がチグハグしているが、そんなことを気にしている場合ではない。
ガーサツ『…?』
普通の矢に気を取られてあのエルフを見失ってしまった。逃げたか?ガーサツはそう結論付けようと思ったが、ふと思い出した。
ガーサツ『確かさっきもあの女を瞬間移動させてたな…』
それを理解したその瞬間、ふと周囲を見渡し、上を見ると…天空から一筋の光がガーサツ目掛けて飛んでくる。
ガーサツ『…っ!』
ガーサツはその光の矢を何とか間一髪で避けたが、無駄だ。何故ならそこは爆発の範囲内なのだから。
ガーサツ『俺は死ぬ!』
確実に爆発から放たれた業火でガーサツは骨も残らず燃やされた。はずだった…。
ネルエ『何なんだ…貴様は…!!』
ネルエは今冷静に物事を考えられなくなっているようだ。度重なる任務に先の見えない未来にネルエはすでに疲労困憊だったようだ。レリスはもちろんそれを感じ取っていた。だから…。
レリス『早く治って!』
馬車の中で自分の腕が再生されていく自然現象に対して早急にと文句を垂れた。しかし、だからと言って何が起きる訳もない。
そんな焦りの最中、突如ガーサツの叫ぶ声が聞こえてきた。
ガーサツ『お前は倒れなかった!!』
ガーサツが小声で何かを呟いた瞬間、ネルエはいつの間にか顔が地面についていた。意識ははっきりとしているのに、何故なのか。そんなことを考えさせる隙もなく、後頭部を足で踏みつけられた。
ガーサツ『これで仕舞いだなぁ!』
ガーサツはそう叫び、あたかも両手で剣を握ってネルエに突き刺すように、両拳を天に振り上げた。そして、その両拳を地へと振り下ろした。
ネルエ『…がっ…!!』
何も刺されていないはずなのに何故か、剣が突き刺ささっとような感覚がし、それと同時に血飛沫が舞う。
ガーサツ『へっ…!おい!金髪女!早く出てこいよ!じゃねぇと…』
ガーサツは両拳をぐりぐりと回した。そうすると血飛沫と共にネルエのもがき苦しむような叫び声がレリスの耳に届く。
ガーサツ『ん?おい!さっさと…出てこいや!………ん?』
何かがおかしい…。ガーサツがそう思った時には既にレリスのソウルアーマーによって硬化されたその美脚で、横腹に蹴りを入れられていた。反応出来なかったガーサツは跳ね飛ばされた。
その力は尋常ではなく、ガーサツが口から唾と血が混ざった液体を吐き出し、体が地面を転がっていき、最終的に勢いよく地面に突っ伏した。
ガーサツ『くそっ…!あばずれがぁ!』
レリス『いきなり阿婆擦れ呼ばわりなんて…あなた…モテたことないでしょう?』
そんなレリスの反論に聞く耳すら持たずにガーサツはゆっくりと膝を曲げ、地に足をつけて殺気に満ちた表情で、血が走った双眸でレリスを見つめる。
ネルエ『た、助かった…』
レリス『よく耐えたね、ネルエ!きっとあいつの固有魔法は…私たちが認識したものと逆の効果を手に入れる物だと思うわ!だからとりあえず耳塞いで!あいつが強いと思い込むの!』
レリスとネルエは耳を塞いで認識する、ガーサツが最強であると…。しかし、ガーサツはニヤリと笑う。その笑いは明らかに人を小馬鹿にする笑い方だった。
ガーサツ『ざぁーんねぇんだったなぁ?そこまで複雑じゃねぇよ、俺がやりたいことと反対のことを言えばそれだけでいいんだよ、てめぇらの思考なんざ関係ねぇんだよぉ!』
ガーサツはそう言って不可視な斬撃を飛ばした。しかし、レリスたちも学ばないわけではない。レリスはその攻撃をガーサツの振り下ろした腕の方向を見て難なく避けた。
レリス『じゃあ、何故最初に貴方は自分が最強だと言い放ったの?実際あれで私は貴方のことを弱いと認識してしまったし…もしかしてただの自己暗示?』
ガーサツ『その通りだぜぇ!クソ女ぁぁぁ!!デキウス様から貰った『実乃虚飾』はなぁ!最高の固有魔法なんだよ!!』
ガーサツ『へっ…!無駄話につきあってくれてどうもだなぁ!』
ガーサツはそう意気揚々叫ぶと先程からずっと構築していた術式を発動させた。
ガーサツ『術式発動!』
レリス『…っ!』
その瞬間レリスのいた地面から光が放たれ、一つの球体となった。レリスは慌ててその光から逃れるために体を翻し、地に足をつけ、その光の行末を見た。その光の球体は段々と凝縮されていきより鮮明に形を帯びていく。その光の球は一頻り小さくなり続けていた。
そして、光の球が小さくなるのをやめたその瞬間に、その光の球は膨れ上がり、そこから飛び散るように光が放たれ、乱反射した。地面には貫通せずに弾き返しているが馬車が光に貫かれているその光景を見れば、この光が危険だと言うこと物語っていた。
ネルエ、レリスはただひたすらに避けた。魔法を唱える隙すら与えずに光が飛んでくる。ガーサツにも何度も直撃しているはずだが、貫通せずに反射している。つまり、誰に効果があって誰にないのかをきめ細く構築していたのだろう。これほどまでの知識があるとは、驚かずにはいられない。
ガーサツ『しぶといなぁお前ら!』
ガーサツはそう叫んでいるが、内心は焦っている。彼の体はとうに限界を迎えているのである。この固有魔法を放てるのはあと一度のみ。『実乃虚飾』はただの借り物。デキウス様から授けられた魔法。固有魔法が呪いによって使えなくなっていた我らをあのお方が救ってくれたのだ。
その恩返せぬまま死に絶えるなど、あってはならないのだ。死への恐怖と後悔が冷汗として頬を伝う。
ガーサツはレリスの隙をつかなければならない。相手の動きを見て、不可避となる一手を狙わなければならない。油断は禁物。
一方でレリスは至極冷静である。光線の軌道を予測し、体を捻らせて避ける。やがて光の球は見えなくなる程に小さくなるともう光線は放たれなくなった。その瞬間、見えない空気の波動がレリスに直撃した。
ガーサツ『ははっ…やったぞ…ついに……』
何とか安心したガーサツの気持ちを打ち砕くように黄色に光り輝く円蓋が見えた。
そう、これはレリスの固有魔法『黄防障壁』である。あらゆる攻撃を防ぐことが出来るこの魔法は自分の魔力をこの円蓋の耐久力とし、魔力が底を尽きるまで壊れることはない。しかし、あまりにも威力が大きく、自分の魔力を上回っていたのならば一瞬で砕け散る。
しかし、ガーサツがそれを行える程の魔力も力もない。
ガーサツの出来た隙をレリスは見逃さない。レリスは何度も蹴りを放つ。
ガーサツは良からぬ事態から脱しようと『実乃虚飾』を発動させる。
ガーサツ『俺に攻撃は当たらない!!』
何とか発動できた。一度退がって状況を建て直さなければ…。
ガーサツ『…っが!』
しかし、何故なのかレリスの攻撃は当たる。何故何故何故何故。痛い苦しい。待て、今、俺は当たらないと言ったのか?当たる?当たらない?当たる?当たらない?
ガーサツの思考は焦りが勝り、冷静に物事も判断出来なくなっている。
レリスが勢いよく最後の一撃を与えるとガーサツは蹴り飛ばしされ、地面を転がった。
ガーサツ『…っ!…はぁはぁ…!』
足音が聞こえる。それはこちらに近づいてくる。それは命を刈り取らんとする死神のようだ。しかし、その死神は金髪でとても死神とは言えない見た目だった。
ガーサツ『まっ…!待て!!気にならないのか?何故俺達がお前らを狙うのか!』
レリス『あら、話してくれるの?』
ガーサツ『も、もちろんだ!俺達はな!ゲームをしてるんだよ!』
レリス『げーむ?あぁ異世界言語の奴ね、遊びって意味?』
ガーサツ『そっ…!そうだ!俺達は皆、宝を持ってるんだ!デキウス様は俺達に言ったんだ!それを全部集めれば願いが何でも叶うって!』
レリス『で?それがこの件にどう関係してるの?』
ガーサツ『実は規則としてデキウス様の頼みを叶えたら、新しい力を与えてくれるんだよ!それで今回のデキウス様の頼みは…』
レリス『待って…今回って…どういう意味よ』
ガーサツ『そのままの意味だよ!俺達は何回もその頼みを聞いてるんだ!』
レリス『なるほどね…つまり、そのデキウス様の頼みで貴方達はこんなことしてるわけね…』
ガーサツ『そうだ…一応、俺達"八枢要の悪神"はある程度、力をつけるまで停戦ってことになってるんだ!』
レリス『ふ〜ん…じゃっ!もう結構だし、ちょっくらあの世に…』
ガーサツ『はっ!馬鹿が!』
ガーサツは僅かな隙を突き、女を殺した。そう思っていた。
ガーサツ『…へっ!テメェ!無駄話が過ぎたようだなぁ!?』
斬りつけられたレリスを見てガーサツが意気揚々とそう言葉を吐き散らす。しかし、レリスはそこにはいなかった。
ガーサツ『…あ?』
その瞬間黄金の矢がガーサツを貫いた。そう、ネルエの武器魔法『フェアリーブレイク』によって光線放つが如く、ガーサツの腹に穴を開けてみせたのだ。
レリス『残念だったわね、ただの時間稼ぎよ』
レリスはそう言って舌を上下に振ってガーサツを煽った。
ガーサツ『…っが!血が…』
レリス『さぁて…もう動けないでしょ?さっさと敵の名前とか何とか…とりあえず全部教えなさいよ』
この俺の…あのお方から貰った固有魔法『実乃虚飾』が…!こんな奴らに!まずい!まずい、まずい。逃げなければ、何としても。
ガーサツ『俺は足が遅い!!』
ガーサツは目にも止まらぬ速さで逃げ出した。それをネルエが射抜こうとするが…。そのネルエの腕にレリスは手を置いた。ネルエはその行動に不満を感じながらも弓を下げた。
ネルエ『いいのか?』
レリス『別に殺す必要はないでしょ?どうせ、もう手出しして来ないわよ』
レリスは笑顔でそう言ってみせたが、ネルエはそれを見て少し視線を下げて小声で呟いた。
ネルエ『甘いな…』
レリス『…?』
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ガーサツは死に物狂いで走り続け、逃げて逃げる。逃げないと殺される。敵が追って来ているかもわからない。でもにげなければならない。なんとしても、ぜったいに。
しかいがぼやける。あしをくじく。きょうふを目の前にしてきづく。死がどれほどおそろしいものなのかを。あたまが動かない。かんがえることができない。
『みっともない様だなぁ』
聞きおぼえのある声。誰だ。なにをしにきた。
『貴方の負けですよ、ガーサツ。敗者には、死、あるのみです』
世界がへんかする。みたことのない景色。おぼえのない景色。死がおれの、いのちを、ちからを、すべてをうばった。
ちが止まらない。さいせいできない。死にたくない。
ガーサツ『だれか…っ!』
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怠惰の堕神、イカラァースは剣の形をした銀色の光沢を放つ宝石を手に持ち、目の前の男と向かい合わせで席に座る。
イカラァース『任務は完了させたよ、これでいいんですよね?デキウス様』
デキウス『もちろん、これに見合う報酬を君に授けよう』
イカラァース『報酬に関してはなしでいいですよ、ゲームが面白くなくなるので』
デキウス『そうか…なら、特別に君には先に次の任務を教えておこう』
イカラァース『それはありがたいですけど〜//なんていうか〜//ゲームが〜面白くなくなるので遠慮したいです〜//』
先程とは全く違う声色でデキウスの提案を断った。内心はきっと『何回言わせるのだ』と、イラついているのだろう。しかし、デキウスはその内心を理解しようとする気もなく、先刻の話を続けた。
デキウス『次の任務は"憂鬱の天神"ナクスルの抹消だ』




