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第一話 顔馴染み

今気づいたんですけど、第一章の七話のレリスの旧友の名前、メルモールではなかったです。訂正します。正しくはウィズールです

 ーー時はサーカスでの騒動の二日前に遡る


 コンコンと扉を叩く音が鳴った。一人の男がそれに呼応して、入口の扉に手をかける。


 ニレス『よぉ…レリ…ス……』


 顔馴染みが来たと思いその名を呼ぼうとしたが、その顔を見るや否や口を閉じた。ニレスにそうまでさせた人物はニレスのよく知る人物だった。そう、顔馴染み違いだったのだ。

 だが、ニレスにとってこの前にいる人物…もといナレスという人物にいい思い出はない。


 もし、ここにマラ・ガンノールがいたとしてもきっと彼もいい思いはしないだろう。なにせ、この人物はマラにカツアゲをしようとしていた人物だったのだから。嫌いになるのは仕方ないよね!


 ナレス『レリスだと?ふん、何を馬鹿なことを…もう奴はここにいないだろうが』


 ニレス『兄上…何しに来たんですか』


 ナレス『決まってるだろう!?金だよ金!さっさと渡せ!ギャンブルで金が底をついちまったんだよ!いいから金貸せよ、儲かってんだろ?』


 ナレスはニレスの首根っこを掴んでそう脅した。ニレスにとっては数十回と見かけた光景だ。兄が何故こうなってしまったのかについては見当がつく。いや、つかないわけがない。


 期待新人とまで言われたあの兄が社長を手にかけた時は周りから驚愕の声しか上がらなかったのだから。

 それも…ただの私利私欲で。


 希望と未来を見ていた兄の双眸は今では絶望と猜疑で溢れているように見える。


 何があってそうなったのかは想像に易いが、あまり触れないでおくことにした。


 ニレス『兄者、私が何をしているかは知っているでしょう?』


 ナレス『はっ…!!化け物の飼育…だったか?』


 ナレスが鼻息混じりにそう言葉を吐き捨てると、ニレスは眉をピクリと動かしこう言った。


 ニレス『冗談でも笑えませんよ』


 ナレス『はぁ?てめぇ!その言葉遣い!誰に向かって…!』


 ナレスが怒号をあげニレスの胸ぐらを掴もうとした瞬間、右肩に柔らかい感触が走った。慌てて振り返るとそこには金髪の髪をたなびかせる一人の女がいた。


 ナレス『お前……レリス…か?』


 レリス『久しぶりで悪いんだけど…私の職場に迷惑かけるのやめてくれない?それと…いきなり呼び捨て?距離近すぎるんじゃない?』


 ナレス『……っち…!』


 ナレスは捨て台詞すら吐かずに舌打ちを最後にしてその場から早歩きで去った。明らかに不満そうな表情だった。ニレスは内心、これから面倒なことになる、と思ったが今は素直にレリスに感謝することにした。


 ニレス『すまない、迷惑をかけてしまったな、ありがとうレリス』


 レリス『……ニレス…』


 レリスはニレスに何か言いたげな表情で彼の名前を呼ぶとニレスは手の甲を彼女に向けた。何も言うなというサインだ。


 ニレス『今日も、仕事に来たんだろ?ネルエ君は?』


 レリス『今来るよ』


 そうレリスが言うと少し沈黙の間が流れた。理由は一つしかない先程のナレスについての件だろう。


 ニレス『まぁ…中に入れよ』


 その空気感を断ち切るようにニレスはそう言って扉を奥まで押して左手を施設の中に向けてレリスを招いた。


 レリス『えぇ…』



 後から追いついてきたネルエも入れて、今回の仕事についての会議をすることにした。


 ニレス『さぁ、例によって仕事の内容を話し合う訳だが今回は久しぶりの運搬だ』


 レリス『本当に久しぶりだね、今の今までほとんど盗賊どもを締め上げてばっかりだったからね』


 ニレス『まぁな………何せ、"あれ"を運べる回数は少ないからな』


 レリス『そう言えば前から気になってたんだけどあの時、私たち何を運んでたの?変な邪神とやらに襲われたし…』


 ニレス『黙秘権を行使する』


 レリス『えぇ…アルビート審判場じゃないのに、そんなのが通用する訳ないでしょ』


 このサバカル国は知っての通り律令国家で、数多の法が作られている。そしてそれを破った者たちの真偽を問い罪を裁く場、それがアルビート審判場である。

 しかし、ほとんどの場合は審判場に向かう前に民事で解決してしまうから、よっぽどの大犯罪でもない限り使うことはない。


 もし、審判場に送られたのなら死ぬかサバカルメイスと呼ばれる監獄に幽閉されることを覚悟しなければならない。


 ニレス『悪いとは思っている、だが話すことは出来ないんだ許してくれ』


 レリス『まぁ…それならいいわ!ネルエ!行きましょ!』


 ネルエ『妙に思い切りが早いな』


 レリス『だって仕方ないでしょ?こうなったら意地でも話してくれないもの』


 ニレスの心情を察したレリスはそれ以上深追いをしてはいけないと考え、ネルエに呼びかけてその場を後にした。


 そして、二人が去り一人残されたニレスは何処か悲しげな目をしながら小声でこう呟いた。


 ニレス『いつか、お前には話してやるつもりだ。この国の秘密をよ』


         ーーーーーーーーー

 レリス『さてと…今日は運搬仕事なんだけど…』


 レリスはそう言って馭者に出発の合図を送った。それと同時に二人は馬車に乗り込んだ。


 ネルエ『邪神とやらは来るのだろうか』


 レリス『さぁね…』


 これまで私たちは"暴食の魔神"、"怠惰の堕神"そして、それを助けた恐らくは仲間である女と出会った。この巡り合わせは偶然だと言うにはあまりに出来すぎている。


 レリス『あいつらの目的は間違いなくサバカル律令国家にある何か…なんだろうけど…』


 ネルエ『気にしても仕方ないだろう…ニレスに話す気はないらしいし、余計な詮索はしない方がいいだろう』


 レリス『そうね…』


 馬の蹄鉄が地を蹴る音を聞きながら、彼らは単調な会話を進めていた。しかし、それは馬車の揺れた振動と馬の鳴き声が聞こえた。


 レリス『どうしたの?馭者さん』


 『私にも分かりません…突然、馬が嘶いてしまって…』


 レリス『ちょっと待ってて』


 レリスはそう言って馬車から飛び降りると馬の様子を見てみた。


 レリス『なるほどね…馭者さん!どうやら足に擦り傷を負ったみたい!』


 レリスが高らかにそう叫ぶ。しかし、何か様子がおかしい。そもそも、足に擦り傷を負っているのに馬が苦しんでいるようには見えない。それに何故こんなにもちゃんと立っているのだろう。


 レリス『…ん?あの〜馭者さ〜ん…?』


 いくらそう叫んでも馭者がそれに反応することは無かった。

様子がおかしい。それを思い始めるには遅すぎたのだ。


 レリス『え?』


 『斬られた奴は死んでいない』


 何者かの声が聞こえた。


 視界に捉えることすら出来なかった。何かが馬と馭者、そして馬車を真っ二つにしたのだ。一つだけ分かることがあるとするならその何かとは斬撃のようなものであるということだ。


 『全く、運のいい奴じゃねぇか!!まぁ、今の魔力じゃ流石にこれが限界みてぇだな…』


 怒鳴り声が聞こえた瞬間、レリスはその声のする方へと振り向きその者を視界に捉えた。


 『自己紹介してやるよ!』


 『おれぇはぁ!"虚飾の剣神"!ガーサツ様だ!』


 レリス『何しに来たの?』


 ガーサツ『見りゃ分かんだろぉ!妨害と警告だよぉ!』


 レリス『警告?』


 ガーサツ『あぁ!お前らの雇い主にな!もうこれ以上、その物運ぶなってな!』


 レリス『素直に聞くと思う?』


 ネルエ『何が起きた!?』


 完全に雰囲気をぶち壊したネルエだが、本人は焦っていてそれどころではないようだ。


 レリス『生きてたんだね、よかった…で?ガーサツだかサーガツだが知らないけどその警告は無意味よ』


 レリスがきっぱりとそう言い放ってみせると、ガーサツは少し困り顔をした後、ニヤリと笑いこう言った。


 ガーサツ『そう言うなら仕方ねぇなぁ……お前らのこと殺すなって言われてるがよぉ…こうなったら仕方ねぇよなぁ?』


 ガーサツ『俺の手に剣はない!』


 ガーサツがそう言った瞬間、レリスは感じ取る。ガーサツは一歩足を踏み出しレリスへと向かう。


 レリス『ネルエ!』


 ネルエ『瞬間転換!!』


 レリスがネルエの名前を呼ぶと、レリスは一瞬で馬車の後ろに移動し、元々レリスがいた所には一つの本が置いてあった。


 その本は元々非常事態用に用意した代物でネルエもこの中身を綿密に理解していた。そしてこの本はとある術式が備えられており、その術式の効果は爆発である。


 ガーサツ『あ?何だこりゃ?………!?』


 本が一度黄金色に光り輝くと同時に一瞬で爆風を巻き起こした。爆破範囲はわずかに満たないがそれでも威力は絶大だ。


 ガーサツは爆風に抗えず吹き飛ぶ…はずだった。


 ガーサツ『悪りぃなぁ?こう見えても俺は世界最強なんだよ』


 レリス『貴方なんかが世界最強?だとしたらこの世界はお終いね』


 ガーサツ『は?あんまそんなこと言うなよ、俺の気分が気持ち良くなっちまうんだよ!』


 レリス『へぇ、もしかして変態さん?』


 ガーサツ『違ぇ!気持ち悪くなる……だ!言い間違えただけだ!』


 言い間違い?果たしてそんなに都合の良いことが起きるのだろうか。

 いや、そんなことを考えている場合ではないな。まずこの状況を何とかしなければ…。


 ガーサツ『俺の剣は…!当たらない!!』


 ガーサツが何かを握るような素振りを見せた後、大きく腕を振り下ろした。その瞬間、レリスは右肩から血を吹き出した。


 斬られたのだ。あの一瞬で…。思わず右膝を地につけ、その傷口を手で塞いだ。止まらぬ血を何とか止めようとするがそれでも血は止まらない。


 ガーサツ『……大して魔力は残っていねぇようだな…仕方ねぇ』


 ガーサツ『剣神と呼ばれた俺の剣技にチビって死ね』


 ガーサツはそう言って空気を握り、構えた。その振る舞いはまるで本当に剣を握っているように見えた。


 レリス『ネルエ!…悪いけど少し持ち堪えて!回復まで時間がかかる!』


 自動回復(分)。傷口は然程大きくないので数分かければ勝手に治る。もし、ミネルネ様の自動回復であれば瞬時に回復するのが…。なのでこの魔法は完全下位互換…だとしても強いことに代わりはない。時間さえ稼げれば……。


 ネルエはそう思考し、瞬時に弓を構え、矢を放った。


 ネルエ『貴様の相手はこの私だ』


 ガーサツ『ふっ……!!耐えれるもんなら耐えてみやがれ!』


 "虚飾の剣神"ガーサツは小馬鹿にするように鼻から息を吹き出し、負けるわけがないという自信の眼且つ嫌味な顔で豪快にそう叫んでみせた。


 ネルエの頬に一粒の緊張の念を含んだ汗が流れ、顎から滴り落ちた。体も少し震えている。


 ガーサツ『どうした?びびってんのか?』


 ネルエ『ふっ……いや……武者震いだ』


 ネルエは小馬鹿にするように鼻から息を吹き出してガーサツを煽り返し、そして恐怖の震えを武者震いだと強がってみせた。

次回 虚飾の抹消


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