第四十話 「友人」
いやぁようやく五十話です。ただそれだけです。
後遅れてすいません。ただそれだけです。
あけましておめでとうございます。ただそれだけです。
水の中に囲まれるよりも先にジノルは叫んだ。
ジノル『術式、発動!』
念の為に取っておいた瞬間移動を可能にする物。今使う他ない。ソジェルを囲んだ岩から光が放たれた。瞬間移動の移動先は丁度岩の隣だったはずだ。後はソジェルに全てを託そう。
そして岩から放たれていた光が終息した瞬間、ソジェルは………。
空中にいた。
ジノル『あ………』
『移動させる場所間違えてたみたいだ』
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その瞬間は一瞬だった岩に囲まれ、光も通らぬ空間に閉じ込められていたソジェルは光を感じた瞬間に空に転移されていた。
ソジェルはたくさんの憶測を導き出そうとしたが、本能がこう言った。今しかない、と。今こそ固有魔法を解き放つ時であると!
ソジェル『重力交換!』
ソジェルがそう唱えると今まで浮遊状態であった俺たちを囲んでいた水がまるで人が落ちていくような速さで下降した。
反対に、ソジェルの方はまるで落ちる気配がなく、ただ浮遊していた。
ソジェルの方が下の位置にいたのにも関わらず、今ではソジェルよりも下の位置にまで移動していた。そして、指で数える間もなく、落ちていた彼らは地面に叩きつけられこの舞台から退場した。もちろん、味方を除いて…。
ソジェル『これで…後は残り一人…』
残り一人のサデラル…冷静に考えれば、このままソジェルと戦わずに隠れてやり過ごすだろう。実際それをされたらどうしようもなくなる。
…が、幸い他の仲間はまだ生きている。彼らに協力を仰ごう。
ソジェル『……あれ?』
ソジェルは体を捻って体勢を変えて、下を向いた。
一瞬何かが光輝いたと思ったその瞬間に気付く。
仲間がいない。いや、いるにはいるのだが、全員岩に串刺しにされていた。これ即ち…。
ソジェル『やり合うってことちんね!!』
相手が臨戦態勢であることを示している。
地面から隆起した無数の岩がソジェル目掛けて飛んでくる。避ける術はない。なら、することは一つ…魔法のぶつけ合いだ。
ソジェル『フラッドフロウ!!』
無数の岩と大水が放たれ、ぶつかり合う。大水は流れ続け、岩は地面から何度も隆起し飛ばされる。この勝負は魔力が切れた方が負ける。
ソジェル『魔力量では負けないちんよ!』
サデラル『本当に……そう思う?』
ソジェル『……!?』
間違いなく、下にいたはずのサデラル。それが何故か自分の真上にいる。いや、そもそも元から下にいたのか?もしや…。
ソジェル『ずっと前から空にいたちんか!?』
それだけではない…先ほどまでそこにソジェルがいた岩の中から夥しい数の…光が。
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それは皆が空へと飛ばされた時。実はサデラルも魔法の範囲内に入っていたのだ。つまり、皆が飛ばされた時、サデラルもそこにいたのだ。
ならば、何故サデラルは誰にも気付かれなかったのか…。
そもそも、彼らは勘違いしていたのだ。
サデラルの普通魔法は地面に手を当てなければ使えないと。しかし、それはただのサデラルによるフェイクでしかなく、手が地面と面していなくても使えるのだ。一人でも仲間に岩の普通魔法を扱える者がいたのなら話は別だったのだろうが、結果として彼らは騙されてしまったのだ。結論!予習は大事である!
もちろんそれだけが原因ではない、精々これで騙されるのは視界を塞がれたソジェルのみ。
もう一つの原因も視界であるが、単純な話である。そもそも立っているまま空中に打ち上げられたのだから上を向くことは困難である。それにサデラルはある術を使っていたため、やっとの思いで上を見ても視認することは不可能なのである。
では、そのある術とは?
それはジノルと俺が使っていたのと同じ術式である。しかも中身も全く同じである瞬間移動を可能とする術式。
新しく作ったのではない。俺が作ったのを自分の中に組み込み再利用したのだ。術式は作ること自体が難しいのであって利用するのは簡単だ。例を上げるなら、この世界には魔道書と呼ばれる物があるのだが、それはあらかじめ術式を組み込んでおいて、それを条件を満たすことで発動するようになっている。
魔道書だけではない、車や武器にもこれが適用されているものがある。
そうすることによって大した時間をかけずに、容易に地に足をつけたのだ。
その次にサデラルが行ったのはジノルの術式に変更を加えることだ。実はジノルがこの範囲内に術式を展開していたのは俺がすでに気づいていた。
サデラルはジノルの術式の転移先を変更した後、機を伺い、ソジェルが下を向いたその時に再び術式を展開し、再び空に舞い戻った。
そうして今に至るのだ。
サデラル『砂王蠕虫』
サデラルの両手から砂塵が発生し、やがてワームの形を成して、ソジェル目掛けて落下する。
ソジェルは体の姿勢を上向きにしようと体をねじらせようとしたが、サデラルのワームが衝突することは逃れられなく、体が下向きのままワームからの圧力と共に地に真っ直ぐ落ちていく。
ほんの一瞬、ソジェルが地面と衝突する間近で『重力交換』と呟いた。
サデラルは一瞬浮いたかのような違和感を感じる。違和感はそれだけじゃない。地面に衝突したはずなのに、まるでその感触を感じられない。そう思った矢先、彼は気づいた。いや、気づいてしまった。
サデラル『……!』
自分が空高く飛ばされたことに。
サデラル『……やばい…』
絶望的な状況である。この高さからの落下で生きられることはまずないだろう。かといって魔法で対処しようと考えても、ソジェルが障害となる。彼の固有魔法『重力交換』は厄介だ。
サデラルは確信するこのまま考えても意味がない。つまり、敗北は決まったのだ。
…そう、普通の人なら諦めるだろう。だが、彼は…サデラルは……。
サデラル『賭ける…しかない…!』
ソジェル『重力交換!!』
ソジェルがそう叫んだ瞬間、サデラルは気が昏倒しそうになる程に魔力を遺憾なく発揮し、自分の頭身の何十倍程もある砂嵐を生み出した。
サデラル『砂王蠕虫…!!』
もちろんこれだけではソジェルを倒すことは不可能。何故ならば、全て水に流されてしまうからだ。故に賭ける。一つの可能性に。
ソジェル『フラッドフロウ!』
ここまでは予定調和である。ソジェルが放つ大水は砂嵐から身を守るようにソジェルを囲んだ。
その瞬間、突如として砂嵐が消えた。
ソジェル『…!あの男何処行ったちん!?』
ほんの僅かな時間。十秒にも満たないその時間、ソジェルが状況を理解しようとしたその時間を利用し、無数の浮かせた岩を足場にし、何とか落下時の威力を和らげようとする。
自らの体に耐えてくれとサデラルは懇願しながら、何とか痛みに耐え続けた。
地面の衝突音が鳴り響く。ソジェルは理解する。サデラルはまだ生きている。そう理解した時、砂埃の中からサデラルが出てきた。ソジェルは急いで『重力交換』を唱えてサデラルを空に飛ばしたが、それはソジェルも同じであった。サデラルはソジェルの体を掴んで放さなかった。
そして、上空に浮かんだサデラルはソジェルを地面に叩きつけんと、勢いよく体を捻り、ソジェルを押し飛ばした。ソジェルは急速落下する。
ソジェル『やるちんね!でも無意味ちんよ!重力交換!!』
サデラル『それを…待ってた…!!』
ソジェル『…!?』
普通であればソジェルがサデラルたちを浮かせるために使っていたあの水と重力交換をし、落下は止まり、ソジェルは助かるはずだった。
だが、落下速度はむしろ上がる一方だった。それを知った時にはソジェルは地面に頭を打ちつけていた。
死んで理解した。ソジェルが浮かせていた球体の水の中に大量の砂があり、もはや水ではなくなっていた。バレるはずがないと思っていたから、大して目にもしなかったのだ。
ソジェル『あぁ〜…負けちゃったちん』
ソジェルがそう嘆くと鈍い音が鳴り響き、彼は意識を失った。
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サデラルが閉じていた目を開けた瞬間、その視界の全てを光が覆った。やがてその光は落ちつき、慣れてくる。
そして実感する。自分は賭けに勝ち、そして試合にも勝ったのだと。
俺『よくやったな、サデラル!』
サデラル『…あぁ…』
俺に続いて、他の人達もサデラルの勝利を称賛した。その時、微かにサデラルの頬が赤くなっていたのは気のせいではないだろう。
ヌルデール『では、これにて模擬試合を終了とする』
『『『ありがとうございました!』』』
その場にいた皆が対戦相手への感謝を述べた。
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それから模擬試合が終わり、Sクラスのメンツとある程度の会話をした。その会話の内容は次の課外授業の日程の話である。
その話は半ば、ヌルデール先生にやって遮られ、俺たちは強制的に帰路につくことになった。
俺はいつも通りジノルたちと共に帰り道を辿っていた。話をしながら長い石畳の道を足で踏み、進んでいた。
ジノル『まじで…Sクラス強すぎるよ…』
俺『でもお前らも普通に強かったぞ』
ライラ『そ、そんなに接戦だったんだ…』
レリエル『別に楽しみにしてる訳じゃないけど、貴方達と試合するのが待ち遠しいわね!』
俺『そうか〜…次はいよいよ本番か…』
ライラ『そ、そうだね』
ライラがそう相槌を打つと、ふとボロボロな服を着た人が視界に入った。その人は何処かで見ていたような気がした。それも身近な人物…。
俺『ネルエ!?』
俺がそう叫ぶと、ネルエは倒れ込んだ。俺たちは慌ててネルエに駆けつけ、体に触れたが危険な状況ではなさそうだが…。
俺『どうしたんだ?』
俺がそう言うと、ネルエは脆そうな足を曲げると立ち上がってこう言った。
ネルエ『ついてきてくれ……まずい状況だ』
ネルエは淡々とそう述べたのだった。
次回 顔馴染み




