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第三十六話 世界

 これは何だ、と神に問いたくなる程に規格外で、勝利への道は絶望的だった。



 変化は一瞬。一度目を瞬ぐと、モブールの右腕が再生し、ジェンナードを投げ飛ばし、この世のものとは思えない程顔を歪ませて豪快に笑っていた。


 変化したモブールはただ暴れ狂った。それは単純なる暴力。だからこそ恐ろしい。相手の思考を読み取るのが得意分野な俺にとって、ただ暴れるだけの獣は天敵だ。


 のならば、暴れる獣を封じるための策を立てなければならない。だが、俺は別に作戦とかを立てるのが得意分野な訳じゃない。それはみんなも分かると思う。

 ならどうするべきだ?仲間を頼るんだ!…という訳にはいかない。


 何故なら作戦を立てれそうな奴は全員戦線離脱したからだ。

モブールの速すぎる攻撃を絶えぬいたのは俺、レリエル、ザラルル、サデラル、ナオマ、ジロルのみ。


 はっきり言ってまずい状況だ。今のモブールはただ暴れるばかりで何の策もなしに動いている。それはまるでゆらゆらしたものに突っ込んでいく闘牛のよう。


 それを御すには道具や器用さが必要になる。


 だが、俺たちにはそんなものはない。しかも、単純な力では確実に勝てない上に再生能力も異次元だ。

 そんな相手にどうやって勝てばいいというのだろうか。

この状況を言葉で表すなら八方塞がりが一番適任だろう。


 俺は相手の思考を読み取ることが得意だが、暴走している奴の思考なんて分かるわけない。


 残された手立ては思いつかない。少なくとも俺では…。


 俺『お願いだ!ロウド!俺に…………』


 ロウド『断る』


 俺『え?』


 いやいやそこは普通、仕方ない…とか言う所でしょ!


 ロウド『貴様が何を期待しているのか知らないが、俺様には関係ない…それに、俺様が力を貸さなくてもこの戦いに勝つことは出来るぞ』


 いや?どうやって?


 ロウド『貴様は感じないのか?モブールに起きている変化を』


 ロウドは呆れたように俺にそう言った。

いや、分からねぇよ。そう愚痴を垂れながらも、俺はモブールに集中する。今もただ暴れているようにしか…あれ?なんか動き遅くなってね?


 ロウド『その通りだ…であるのならこの先どうすればいいかは察しがつくだろう?』


 俺『…助かったぜ!ロウド!』


 単純な話だった。


 俺『みんな!頑張って耐えろ!モブールは段々衰弱していってる!これは言わば持久戦だ!』


 俺がそう叫ぶと皆は俺の方を見てはいないものの、理解してくれたように思えた。


        ーーーーーーーーーー


 僕は何の変哲もないモブだ。この世界のモブとして生まれた。主人公を引き立てるために存在するモブ。


 僕は主人公のヒロインに告白して振られる役割を貰ったモブ。


 そう言えばいつからだったのだろう。その役割に違和感を感じ始めたのは…。



 恋活私立高校の生徒。僕は何不自由なく暮らしていた。


 いつものように朝飯を食べ、学校へと向かい主人公の周りに湧くだけの生活。何も不思議には思わなかった。それが当然なのだと。何一つ疑いはしなかった。


 「あぁ〜眠い。」


 同じことを繰り返すただのモブ。

それに違和感など持たずに僕は長い月日を過ごした。


 一年?三年?三ヶ月?分かる訳がない。


 「俺らって何年生だっけ?」


 同じみの会話。いつだって変わらない。

でも、僕は分からない。今が何年生かなんて。


 「三年生だろ?お前大丈夫かよ…」


 僕はそう言った。



 「君、いいね…素質を感じる。ぜひ吾輩の元へとついてきてほしい」


 ある人物がそう言った。どうでもいいと思った。


 「……」


 「決められた言葉以外は話さないか…そうか、そうか。であるなら肯定と見させてもらうよ!」


 その人物はそう言って姿を消した。


 


 ある日突然、僕の身体に異変が起きた。


 僕はいつも通り、太陽の光に照らされ目を覚ますと…身体ががががガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ縺縺縺縺縺縺縺縺谿コ縺励※螢翫@縺ヲ谿コ縺励※螢翫@縺ヲ谿コ縺励※螢翫@縺ヲ谿コ縺励※螢翫@縺ヲ谿コ縺励※螢翫@縺ヲコロシテコワシテコロシテコワシテコロシテコワシテ殺して壊して…。



 そして目が覚めた時、僕の視界には全く見覚えのない景色が広がっていた。中世ファンタジーのような世界観。まるで異世界にでも来たような気分だった。



 この世界で僕はいろんな人出会い、感情を目にした。

そしていつしか僕はこの世界を好きになっていた。


 でも…本能はそれを認めなかった。


 モブール『帰る、元の"世界"に帰る』



 望んでいた訳ないのに、僕はそれを望んでいた。

元の世界に帰る方法なんて知らないはずなのに、知っていた。


 何が起きているか何てまるで分からない。



 でも、僕は僕の本当の望みを知っている。でも、僕自身にそれを叶えることは出来ない。だから僕はそれを彼らに託そうと思う。どうか…



 僕を殺してくれ。


         ーーーーーーーーーーー

 笑い声を上げながらモブールは暴れ狂う。

何処か哀愁を感じるその声を耳で受け止めながら、俺たちは前進する。


 これは言わば持久戦。こちらが死ぬかあちらが弱るかの結果しか存在しない。


 一応、俺たちは攻撃を受け止め続ければいいだけなので、有利ではあるのだが…。


 俺『立場上の有利があっても…これはキツすぎる!』


 さっきも言ったが今残っている人数は六人、他の者たちはモブールが覚醒した時に放たれた覇気によって意識を失った。

 そのため、もし俺たち六人が奴に殺されれば他の仲間も命を失うということだ。



 だから…

 俺『絶対、負けられねぇ!!血液操作!』


 俺は決意を固めたことを示すように大声で叫び、血で放物線を描きながら徐々に剣の形に象り、そしてそれは血剣として生誕する。


 モブール「【『アハハッ!アハハッハッ!】』」」


 何重にも声を重ねたように聞こえる笑い声に対して俺は苛立ちを禁じ得なかった。

 俺はその声を掻き消さんと叫びながら、血剣を携えながら向かってくるモブールに対応する。


 俺『ぐ…ぐぁぁ…!』


 モブールの鋭い攻撃が俺を突き刺さんとし、俺はそれに必死で対抗する。俺は力を振り絞り、モブールの攻撃を受け流した。そしてモブールはそれにより、地面へと急降下した。


 それを待っていたかのようにザラルルが飛び出し、モブールに一撃を喰らわせた。それによってモブールは地面を平行に転がり、倒れ込んだ。


 ザラルル『よっしゃぁ!一発喰らわせたぜ!』


 立て続けに皆は攻撃を行う。

モブールが体を起こそうとした瞬間、彼は突如として砂で出来た蠕虫によって空中に打ち上げれ、そこにレリエルの『赤創武器』により創られた赤い剣、ナオマの【従忠の剣】がその体を突き刺した。その上にジロルの雷が奴に直撃した。


 モブールが雄叫びを上げると皆はすぐに退がり、防御の姿勢に入る。


 着実に相手の体力を削っていってる。このまま行けば…。

では、あるのだが、油断は出来ない。絶対に。




 そうマラ・ガンノールは意気込んだ。


 しかし、そもそも彼らにはまだ早かったのだ。どれだけ思考を積み重ねようが、経験についての差は埋められない。

もちろん、これから起きたことは必ずしもそれが原因だと言うつもりはない。これは単なる持論だからだ。


 …どちらにせよ。

 彼らは更なる異常事態に対応できなかったのだ。




 赤、紫、白、緑。他にも色々な色が彼を覆っていた。

その光景はまるでゲームの世界におけるバグのようで非現実的だった。


 《キィぃぃぃぃン》


 耳がはち切れそうな程に不快なその音に俺たちは耳を塞ぐことしか出来なかった。

 そして、意識が段々と失われていく。碌に思考を巡らせることも出来ない。

 



 俺『や、やばい!終わった…ロウド…後、頼んだ…』


 俺はきっと助けてくれるであろう人物に後を託そうとし、心の中でそう言った。

 



 ロウド『必要ない』

 俺『え?』


 ロウドは冷徹にそう吐き捨てた。それに俺は口を開き、唖然とした。

しかし、なぜロウドがそう言ったのか後に俺は知った。



 ロウド『見ろ』


 俺『え?』


 ロウドがそう言ってきたので俺は失いかけてる意識を一点に集中させた。


 俺『ぬ…ヌルデール先生!?』


 体が血塗れでここまで来るのに苦労したということが真っ先に分かったる様子だった。

 疲れているはずなのに、ヌルデール先生は足をしっかりと地につき、手を前に出して口を開いた。


 ヌルデール『生徒を守るのは…私の役目…かかって来るがいい化け物』


 ヌルデールはそう言ったがもちろんのことモブールにはその言葉は通じない。モブールはただひたすらに俺の方へと前進する。そして奴はその手刀をそのまま俺に…。



 突如、視界が閃光に飲まれた瞬間…声が聞こえた。


 ヌルデール『言ったはずだ…生徒を守るのが…私の役目だと!!』


 他でもない、Sクラスの担任が俺の命を救った。


 ヌルデールはモブールの手をその血塗れで今にも折れそうな手で掴んで離さなかった。

 モブールは掴まれなかった手の方を今度はヌルデールの頭に目掛けて振り下ろした。


 


 しかし、その行動はヌルデールの策にかかった事を意味していた。


 モブールが手を振り下ろしたその瞬間、モブールはいつのまにか地に顔をつけていた。モブールはただひたすらに起き上がろうとするが、それは不可能だ。

 何故ならヌルデールの固有魔法『体動封殺(たいどうふうさつ)』によって、体の自由を奪われているからだ。

 もちろんこの魔法にはもちろん代償があるため、長くは続かないが…。

 それでも抑止力としては充分。この固有魔法を打ち消される心配もない。なので、どうすることもできない。


 この世界の理に当てはまる人間ならばだが。


 最初こそ、魔法の影響を受けていたが。それはあくまでもまだモブールの体がこの世界に影響を受けていたからだ。

 だが、今。彼は完全にこの世界の影響を受けなくなっていた。とどのつまり結局持久戦であることに変わりはないのだ。


 ヌルデール『くそっ…!!』


 ヌルデールは目の前の敵と対峙して感じ取る。

間違いなくこの敵には勝てないと。

ならば…自分の命を犠牲にしてでも、生徒の命は守らなければならない。


 ヌルデールはすぐさま防御の姿勢に入ろうとするが…。

ヌルデールは膝を地につけてしまう。


 障壁を打ち破った時の怪我。『体動封殺』の代償。

ヌルデールはそれらによって体は既に限界を超えていた。

なのでこうなるのは必然だった。


 モブールは膝をつくヌルデールにこの場にいた誰にも対応できない程のスピードで残酷にヌルデールの頭蓋骨を突き刺…した?


 モブール?『【あ!?「え?「「「えわ?あぁぁあまにたやらやわぬゆ縺縺谿コ縺励!?】」


 今のモブールには魔法攻撃は通用しなくなっているはずだ。なのに…モブールの体は今、バラバラになっている。



 それでも尚、動き続けるモブールにも驚くが…何よりも驚いたのが…。


 モブールをバラバラにしたのが俺自身だということだ。

何が起きたか自分でも理解できない。


 皆が静まる中、モブールはバラバラにされた体を繋ぎ合わせ、再び復活した。


 俺『な!?まだ生きてんのかよ!』


 ジロル『あ、あれ、人なの!?』


 ザラルル『どう考えてもちげぇだろ!あんなの化け物以上の化け物だ!』


 俺の言葉に続けて、ジロル、ザラルルが反応し、モブールの規格外さを語った。

 やばい、どうすればいいんだよ!ロウド!?さっきのお前がやったのか!?


 俺はそう問いただすが、ロウドは答えない。

まるでそんな暇がないかのようにロウドは答えなかった。


 哀れにロウドに懇願する様は実に滑稽だろうな。

そんな風にふと、自分を客観的に眺めてしまったが…その時。何かが割れる音が聞こえると共に足音が聞こえてきた。


 これは…。


 教師たち!?




 デミレラ『まさか己の体を犠牲にしてあの結界をこじ開けるとは…大したものじゃ…見直したぞ、ヌルデール。後は任せい』


 メルグェル『あれは…何でしょう、何とも形容し難い存在ですが…まさか、あれがモブール…』


 メルグェル教授が荒ぶるモブールを見てそう言った。


 イジル『…逃げていいですか?』


 ダマルンデ『あらぁ〜こんなとこで諦めちゃ〜教師失格よ〜生徒を守らないとぉ〜』


 弱気に呟くイジルにオカマ口調のダマルンデがそう言った。


 他の教師たちも続々と姿を表していく。

何だか…とても。


 俺『頼もしい感じがする…』


 俺『あ、でも!!デミレラ先生!こいつは攻撃が通じません!でも…』


 俺が発する次の言葉を知っていたかのようにデミレラが割り込んできた。


 デミレラ『なるほどのぉ〜つまり、どちらが先に死ぬかの持久戦ということかのぉ?』


 俺『あ、はい!』


 俺はそれを肯定した。

それと同時にその言葉を聞いた教師たちは各々の構えを取り、

一糸乱れず声を揃えた。


 『『『生徒に手出してみな!ぶっ殺してやるぜ!』』』


 とても大人が発するとは思えない言葉の羅列で驚く俺たちを置いて、それぞれの教師が動き出した。



 この戦いは長丁場になる…誰もがそう思っていた。


 モブールの動きが唐突に止まった。

これは、体力の疲弊によるものではない。

モブール自身が止まったのだ。


 モブール『【「おおぉ…縺ー縺ー縺ー蜒ぼぼぼぼくは…アガアガ】」』


 言葉をうまく発することが出来ないモブールは何かを伝えようとしている。


 デミレラ『まさか…意思を取り戻したのか?』


 俺『わ、分かりません』


 俺も何も分からない。彼が何を伝えようとしているのか…わからない。はずなのに…。

 


 俺はテクテクと一歩一歩足を踏み出し前へ進む。

そして…。




 俺はモブールのおでこに赤く濁った刃を突き刺した。











“繝舌げ“を入手。

次回 Aクラスの顔ぶれ


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