第三十二話 臆病者
『ふざけんな!』
『こんな結末ありかよ!?』
『最後までやる気ないならそもそも参加すんなよ!!』
観客たちは怒号を上げていた。理由は明白だ。待ちに待った決勝戦の決着が、あまりにも呆気ない物であったからだ。
ジッキですら言葉に詰まっていた。
あれだけ期待されたジェンナードがあっさり負けたかと思えば勝手に自分語りをし始めたのだから。
そしてその観客たちをさらに怒らせる出来事が起きた。それは…ガンノールの行動だ。
俺『俺は…』
俺『降参する』
彼がそう言った時、彼の顔は笑顔だった。だが、私には分かる。あれは、無理矢理引き出した紛い物の笑顔。
……こんなに悪い意味で盛り上がった決勝戦は初めてだろう。
私はほっと胸を撫で下ろした。
下ろしてしまった。
ジェンナード『…私は…』
何も言葉が出なかった。何か言いたかったのに。
こんな結末でよいものだろうか。
『今回の優勝者は…』
誰かが何かを言ったような気がした。でも、何も感じられない。聞こえない。
こうして私はまた、道を踏み外した。
……本当にこれで…いいのか?
ーーーーーーーーー
ロウド『貴様、どういうつもりだ』
ロウドが言葉に怒りを込め、そう言葉を発した。
そして、俺は柔軟に対応する。
俺『こうするのが一番なんだよ、嫌われないようにするには』
ロウド『貴様、歪んでいるぞ!そんなことで誰が得をするというんだ!貴様の判断はあの貴族の人生すら…』
俺『うるせぇ!お前に何が分かんだよ!』
ロウドが耳に刺さる言葉を淡々と吐き続ける。
逆ギレだと分かっていいながらも俺は反論し、叫んだ。
そうやって何とか自分を正当化させようとする。
俺『うるさい、うるさい』
うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい……………………。
俺は間違っちゃいない。あいつの望む通りにしてやった。それだけで十分だろう?俺はあいつを思いやってあげたんだ。逃げたんじゃない!
嫌われないように動くことの何が悪い!
ロウド『ならば、何故貴様はあの時、ミルマに怒号を上げた?あれはお前の本心では…』
うるさいんだよ!!!!
ーーーーーーー
優勝者インタビューが終わり、私は夢の世界から現実の世界へと戻った。現実の世界には、奴はいなかった。
ジェンナード『……』
あの時の違和感に納得がいった。奴は逃げたんだ。
協力者であり、いつも私の後ろにいた奴が。
……だが、おかしい。もし、逃げたのなら、何故デミレラはあんなにも苦しそうにしていたのだ…。
しかも、何処を探してもあの機械がない。あの死の感覚だけを与える…悪魔崇拝教団から貰ったあの機械が。
奴は確かこう言っていた。
『私たちは教師として潜入しますから…あなたはあの機械を使ってください、デミレラには邪魔されたくありませんからね』
ジェンナード『何をするつもりだ』
『おやおや、残念ながらこれ以上は話すなと言われていますので…ただ、強いて言えば。キーワードは復活です、そのために彼女は現実世界で。あなたは夢の世界で役目を果たすのです』
ジェンナード『貴様らは何もしないのか?』
『私たちはただの監視役ですから』
彼女?…そうだ、忘れていた。
目先の問題に囚われすぎるあまり、物事の重大さに気付けなかった。まずい。このままでは皆殺しにされる…
ーーーーーーーー
キィンと言う金属音のようなものが耳を支配し、頭を揺らす。何が起きているんだ。
何とか死に物狂いで目を覚まし、現実世界へと戻ってきた。
まだ頭が痛む。デミレラは先程から起きているこの謎現象に多少の苛立ちを感じながら、現実の世界へと完全に意識を戻した。
デミレラ『全く…決勝戦なのに、対して楽しむことすら出来なかったぞ…』
そんなことをぼやくと、焦ったように話す一人の男がいた。その男は今回武闘会優勝者である者だ。
頭が痛むせいであまり声が聞こえないが、何とかして声を拾おうとした。そうするとこの言葉だけが聞こえた。
デミレラ『なんじゃ?』
ジェンナード『先生!殺人鬼です!』
ーーーーーーーーーー
『あ、食堂の婆さん!今日もとんかつで!』
一人の少年がトンカツを注文する。そして婆さんはそれを笑顔で頷き、トンカツを作り始めた。
『でさ〜』
その少年がもう一人の少女に声をかけようとすると…。
その少女は少年の声に被せるようにして言った。
『あのさ…』
『え?何?』
少女は一呼吸置いて、少年の目を見つめ、顔を赤らめながら口を開いた。
『私、今まであなたのことが!』
『できたよ〜』
少女がその言葉の続きを話す前に食堂の婆さんがそう言って手をこまねいた。
そうすると少年は慌てたように、食堂の婆さんへと駆け寄った。そして…
『え?早!婆さん!ありが…』
血しぶきが舞った。その血はきれいな放物線を描き、宙を舞った。その瞬間目の前にいた少女は放心状態になりながら、頭が首と切り離された少年を見つめ続けた。
そしてその少女も…
『え?』
周りにいた奴らは慌てて逃げようとするが、それは叶わない。日の目を見る事なく、この世を去った。
婆さんは血に染まった出刃包丁を見つめながら、言葉を発した。
婆さん『必要な生贄は残り四人』
婆さんは…否、それは悪魔である。彼女は殺戮を司る悪魔トリウン。ピンクの角に赤の髪を持つ彼女は今、全てを殺戮するべく走り出す。
次の標的は目の前にいるあの少年、モブールだ。
モブール『え?ちょっ、ちょいちょい待っ…』
言葉を発し終わる前にその息の根を止めてやった。
全て殺戮してやる。さぁ次の標的は誰だ。
細い目で周囲を見渡し、餌を探す。
怒声を上げながら私を追いかける人物が一人。
この声から察するにヌルデール教授だろう。本来なら殺してやりたいところだが…。
トリウン『悪いけど、あなたたちは生贄になれないから…』
トリウンは残念そう呟くとポケットから何かを取り出しそれを地面に投げつけた。
ヌルデール『待て!貴様ぁ!!』
ヌルデールは声を絞るようにして叫び、明確な殺意を持ちながらこちらへと追いかけてくる。
しかし、それが叶うことはない。
トリウン『神の力でもない限り壊すことのできない力を含んだ魔具、君たち如きじゃぁ、絶対壊せないものさ』
この代物を壊せるのはそれこそ、神や、それに匹敵する実力を持つ者だけだ。
賢者がいないとなれば…この学園の全員の力を使ったとしても壊せはしない。
あらかじめに範囲と対象を決めておけば、この魔具を展開した瞬間にその範囲外にいるものと対象に含まれない者を全て弾き出し、入れなくなる。
今回の対象である…私と学園の生徒以外は全てこの中には入ってこれない。
トリウン『そこで、かわいい生徒たちが死んでいくのを見ていろ!ふふ…はっはっ!ふはっはは!』
私がそう煽るとヌルデールは血を流すほどの怒りを拳に込め、すごい剣幕な顔つきでこちらを睨んできた。愉快愉快。
っと…楽しんでいたところだったのだが…さらに楽しませてくれる出来事が起きた。
てっきり逃げると思っていた生徒たちが、なんと目の前に現れて立ち向かおうとするではありませんか。
ムカつく。
トリウン『気づいてたのに、逃げないなんて…イキがるなよ!ガキが!切り刻んでやる!』
そうやって怒声を響き渡らせると、目の前にいた貴族の装いをした少年が胸に手を当てると、その少年は意を決したように口を開いた。
少年『これは私の責任だ、ここでお前を止める』
次回 立ち向かう戦士たち
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