第三十一話 卑怯者
俺『血液操作!』
俺は試合開始の合図と同時に血の剣を作り出し、ジェンナードに先制攻撃を仕掛け、様子を見ようと思ったが、ジェンナードは動かなかった。
まずは剣を突き刺す。そして次は虚剣魔狩流として教わった剣技を使う。剣の着地点を悟らせまいと、体で隠し、剣が到着したその時にしか分からない斬撃を喰らわせた。
だが…おかしい。
前の試合でもそうだった。モブールが何回攻撃を仕掛けても動かなかった。ただその攻撃を受ける。だが、いつもそこで倒されることはなかった。その理由が分かった。
めちゃくちゃしぶとい!防御力が高すぎるとかじゃない。なんていうかなんていうか当たってるのに当たってない…みたいな?
俺は血液操作によって作り出した剣を縦、横、斜めと振り回し、ジェンナードに攻撃を加える。何回も何回も。その際にジェンナードは血を吐き出す。
でも、違和感しかない。違和感しか感じられない。
俺の意識に何かしたんだろうが…。
…とにかく、攻撃してくる気配はないし、試行錯誤して…………。
その時、俺はその判断を見誤ったと知った。死のタイムリミットはもうそこまで近づいていたのだった。
ジェンナード『やれ』
俺『ぁ…』
ジェンナードのその呟きが聞こえた瞬間、モブールは倒れていた。俺も同じように倒れるのだろう。
はっきり言おう俺はお前の実力を見誤っていた。
……どんどん…意識が遠のいてい……く…。…………………………………………………………………………
俺『んな訳ねぇよ』
俺は語気強めにそう言って、体勢を立て直した。
俺『深読みしすぎてたわ…』
俺の考えでは、この決勝戦で今まで貯めていた何かを使うと思ってたんだけどな。まぁ、今まで上手く
行ってたから同じ方法で大丈夫だと思ってたんだろな。
ジェンナード『…どうして…』
俺『どうせ、言ったって分かんないよ』
単純な話だ。ロウドに意識を切り替えさせ、ジェンナードの攻撃をロウドに受けさせた。ただそれだけ。種も仕掛けも知らなかった。でも、これで分かった。
ジェンナード『やれ!』
声を荒げるように叫んだが、無意味。無意味なり!
ジェンナード『どういうことだ…あいつは…何をしてる!』
俺『協力者がいた訳か』
恐らくだけど、原因は現実世界…なんだろうね。夢の世界で、すやすや眠っている僕たちに……。まぁ今はそんなことどうでもいい。
俺はジェンナードを一発ぶん殴る素振りを見せ、それによって体勢を崩したジェンナードの足を引っ掛け、ジェンナードは倒れ込み、剣を突きつけた。
俺『トイレの件は世話になったなぁ!!』
俺は声を絞るようにして叫び、剣をジェンナードに突き刺そうとした。その瞬間、ジェンナードは唇を噛み、心の怒りを露わにして叫んだ。
ジェンナード『俺は、俺は勝たなくてはならないんだ!母様、父様のために!!!』
ジェンナードはそうやって声を荒げた。俺がその言葉に耳を傾けるように攻撃を止めた。その時、命の危機に反したが故か、人が変わったように口を開き、言葉を続けた。
ジェンナード『俺は…私の本名は、フーリュ・ナルス・ジェン…』
俺『?』
なんだ急に。聞き覚えのない名前が聞こえてたぞ?
俺が疑問符を浮かべる中、周りの人間たちは驚きの顔を浮かべ、口を開いて言った。
『フーリュ家ってあの英雄の家系か?』
『え、でも…子どもがいるなんて初耳だぞ』
『いや、でもいたような気も…』
ーーーーーーーーーーーー
私の生まれはマサライト国に住まう英雄の家系だった。
ジェン『ねぇねぇ!お父様!』
今でも懐かしく感じる。いつも父様にいっしょに遊戯をしようと頼んでいたな。だが、父様は…
英雄『悪いな、仕事あるから、また後にしてくれ』
母様も…
英雄『ごめんね、今から仕事があるの』
誰も構ってくれなかった。私はいつも泣いていた。
構ってくれないことに。一人でいることに。
でも、救済はあった。それは祖父の存在だ。
祖父とはいつの日もいっしょに遊んでいた。
そんな祖父がいたからこそ、私は今まで生きてこれた。
とはいえ、父様も母様も悪い人ではなかった。
むしろ、善意の塊だろう。いつの日も人を守るべく動いていたのだから。
不満はあったが、楽しい生活だった。
しかし、その日々は長く続かなかった。
思えば、心に異変が生じたのはここからだったな。
事は教会で起こった。知っての通り、教会では固有魔法の検定を行なっている。当然ながら、英雄の家系であった私は当然、期待された。英雄と言う名の固有魔法が与えられると…と。
結果は…無。私には固有魔法がなかった。
英雄の家系である筈なのに。誰しもが憧れた家系なのに。
今でも忘れられない父様と母様のあの苦笑いを。
笑みの後ろに隠れた失望を。
ジェン『待って、待ってくれ、私は…』
必死にいろんなことを勉強した。普通魔法だけ。普通魔法だけでも。そうやって勉強した。親は褒めた。でも、それでも分かってしまった。親の…英雄の失望は取り返せないと。
目の前が真っ暗になった。でも、そんな時助けてくれたのはやはり、祖父であった。
祖父『分かるぞ、その気持ち。儂も同じじゃったからな』
ジェン『え…お、お爺もか?』
頬を流れる止まらない涙をなんとか手で拭き止め、そう言った。
祖父『そうじゃぞ…めちゃくちゃ苦労したわい、差別もあったしな』
ジェン『私も…同じ目に会うと…いうことですか』
私がそう言った時、祖父は私の肩に手を置き、言葉を続けた。
祖父『だがな、ジェン、そんな声なぞ気にせんくていいわい!そういう奴はな、お前と同じ目にあったら、ピーピー泣きわめくような奴らなんじゃ!だから…』
祖父『お主は強くなれ、自分を信じるんじゃ。わしのようにはなるな』
ーーーーーーーーーーー
ある日、私は決心し、その答えをお爺に伝えようと思い、祖父のいる部屋に行った。
ジェン『お爺!私は決めました……』
『…?』
お爺の周りには父様と母様がいた。嫌な予感がした。
英雄『お前の爺さんは…今、亡くなったよ…』
泣いて、叫んだ。涙を流して流して、ただひたすらに叫んだ。そして決心した筈の心も完全に壊れていた。
最後の祖父の姿は、笑っていた。
ーーー 祖父という存在がいなくなった私は昔の祖父の言葉すら忘れてしまう、人形だった。認めてもらうためだけにある人形に。
ジェン『分かりました、父様』
言われることにただ従うだけの、人形。
英雄『武闘会か!お前も出てみたらどうだ?』
ジェン『はい、分かりました』
英雄は私の回答に満足いったのか、笑顔で言った。
英雄『お前なら、優勝もできるぞ!』
貴様らはいつもそうだった。いつも、私に優しくしてると勘違いしていた。貴様らは私を見てくれなかった。
武闘会では優勝出来なかった。英雄は慰めた。無意味なことであるとも知らずに。
執事『坊ちゃん、本当に行くつもりなんですか?』
ジェン『黙れ、さっさと用意しろ』
私は執事にそう怒鳴りつけ、サバカル国へ入るための準備をさせた。
英雄『おい、何処に行くんだ!』
ジェンナード『…』
私は…俺は何も言わず、金だけを持ち、その場を去った。
人形であることをやめた先にあるのは、不完全。群れることしか出来ない人間に成り下がる。
気づけば、周りにいるのは群れることを好む哀れな獣たちのみ。本当の友人など誰一人していなかった。
ーーーーーーーーー
俺『固有魔法がない?…そんなの聞いたことないが』
ジェンナード『そんな時に貴様に会った。俺はお前に苛立ちを覚えた、自分を見ているようで…』
俺『同族嫌悪…ね』
始めてあった時、俺もそう思った。お前が昔の自分とそっくりに見えた。何も知らない、あの時の俺に…。
俺『なんで、武闘会で優勝したかったんだ?』
ジェン『今回の武闘会では両親が遠くから見ていたからな、見せてやりたかったんだよ、私はできる人間だと言うことを、だから、私は貴様に負ける訳には!』
俺『……』
俺は…
次回 臆病者




