第二十話 学園生活再始動
『ふぁ〜あ…』
そう口を開いて、背を伸ばし、両手を天高く伸ばし、欠伸をしたのはマラ・ガンノールこと俺だ。
俺『さ〜てと…今日は何もない…平和な日であれ…』
俺は切実にそう願った。
毎度のことながら…レリスとネルエは疲れきったのか寝ていて、ジノルとライラはもう起きたて…レリエルは寝てる。
なので俺はすやすやと寝ているレリエルを叩き起こした。
レリエルは横に倒れていた自らの体を突然の奇襲に驚き、慌てて体を起こした。
レリエル『誰!?』
慌てふためくレリエルに俺はそいつの肩をポンポンと叩いて落ちつかせるために一言放った。
俺『俺だよ、俺俺…マラ・ガンノールだよ!…ほら!寝ぼけてないでさっさと支度!遅刻してるんだよ!ほら!もう日の上から日の中まで時間が経っているのよ!』
レリエル『え!?こんなこと言ったらただの八つ当たりだと思われるけれど!早く起こしてよ!』
そんなよく漫画でありそうな親子のような掛け合いを行いつつも、俺たちは何とか走り込んでからのスライディングに成功し、なんとか…
俺『よし!間に合って…』
ヌルデール『ないぞ』
俺が安堵を得たのも束の間、恐ろしき教師が俺の希望を打ち砕いたのだ。
俺とその仲間たちはヌルデールにこっぴどく叱られた。
ーーー教室にて
キンコーンカンコーンと聞き慣れた音を聞く、これは学園の教室集合の合図であり、元の世界でチャイムと呼ばれていた物と全く同じである。
そしてこの合図と共に学生たちは各々のことを行う。ある者は研究を、ある者は勉強を、ある者は遊んでいる。というのもこの学園は基本的に行動を制限されていない。学園の外に出ない限り何をしてもいいのだ。
普通のクラスなら…だけど…
俺『俺たちSクラスには自由がないのかよぉ〜』
体を伸ばし、俺はつい溜まりに溜まった不満を口にしてしまった。
サデラル『あ…マラ…汝…教師が…』
俺『あ』
サデラルにそう言われた時、俺は瞬時に理解した。
ナオマ『おいおい、終わったよ、あいつ』
今回の授業は数学…その担当教師の性格は…
『マラ・ガンノール…この授業の担当が世界に名を馳せる、メルグェル教授だと分かっていてその発言をしたのかね?』
とても…キレやすいのだ。
俺『あ、いや、魔が刺したと言いますか、何と言うか…すんません!』
俺は露骨に嫌そうな表情を浮かべはしたが、流石にまずいと思い、盛大の誠意を持って謝罪した。もちろん土下座とかはしてないのだが。
俺『すんません!どうか許してください!』
…口先だけとはこのこと。その程度の誠意では、メルグェル教授の鬱憤を晴らすことは出来なかった。
それはすなわち死を意味する。
メルグェル『よし、授業内容を変更しようか』
俺『え、ちょっ、ちょっと待ってください!授業内容勝手に変えていいんですか!?』
俺は全力でそれを阻止しようとしたが、メルグェル教授は悪魔とも言えるその悪徳で満たされた表情になってしまった以上…彼にはどんな言い訳も通じない。なのでメルグェルは迷わずこう答えるだろう。
メルグェル『いい!』
俺は冷や汗を垂らしながら、どうか俺の明日が安寧であることを祈る。
メルグェル『では、始めましょうか…拷問の授業を…』
ーーー二時間目
俺『はぁ…散々だった…』
ザラルル『はん!情けねぇな!あの程度で悶えてる以上、やっぱ雑魚だな!』
ザラルルがこう俺を惨めだと言う評価を下すのはいつも通りだったが、今回は展開が違った。今まで俺に無関心だった人がこう言ったのだ。
『黙れよおまえ、それ以上、私のご主人様に暴言を吐くなら殺す』
ザラルル『はぁ?』
俺『え?ミルマ?』
ザラルルはやや眉をひそめ、俺はそのあまりの変貌振りに思わず驚き、そいつの名前を呼んでしまった。
俺がその名を呼ぶとミルマは華麗に体を後転させ俺を見つめ、さっきの殺意溢れる表情とは打って変わって笑顔になり、こう言った。
ミルマ『は〜い!私のご主人様〜何かようですかにゃ?』
俺『にゃ!?いや、そんな口調じゃなかっただろ!てか俺はお前のご主人様じゃない!』
ミルマ『え?じゃあ旦那様?』
俺『結婚した覚えねぇよ』
ミルマ『なら、お兄ぃちゃん?』
俺『ちが!…分かった…もう何でもいい…とりあえず、何でそんな急に口調が変わったんだ?』
納得は出来ずとも、このまま話し合っても仕方ないため、俺はミルマの暴走を止めるべく、話を切って話題を変えた。
ミルマ『簡単な話ですよ?恋しちゃったんです』
ミルマは真っ白なギザ歯を見せつけるようににっこりと笑い、そう言った。
俺『え?』
『ええええええ!?』
何か知ってそうなサデラルと昨日の教会の件もあり疲れて休んだジロルと遠い空を見つめるジェンナードを除いた皆が俺の驚きに連鎖するように叫んだ。
『あの〜今、授業中なんだけど〜』
魔法教師イジルはどこか悲しそうに、苦笑いしながらそう言った。
ーーー三時間目
『あらぁ〜今日はとりあえず〜二人一組のペアを作ってもらいましょうかぁねぇ!』
そう言う男の見た目はザ・オカマと言う名に相応しい、髭が生えていて、まつ毛に青い…何て言うか分からんけど、とりあえず、メイクしている。
その男の名はダマルンデ。自称物理最強を名乗る教師である。その教師の腕力は確かに恐ろしいものだが…性格はかなり落ち着いて、そこまで怖くない。
俺『誰か、ペア組もうぜ〜』
ミルマ『では!ご主人様!私とペアを組みましょう!』
俺が右手を上げてそう言うと、真っ先に声をかけてきたミルマ。正直に言うとミルマはかわいいのでそう言ってくれて嬉しい気持ちも確かにあるのだが、あまりの変貌振りにあまり慣れていないので拒否した。
ミルマ『あぁ〜拒否されました〜でも、これも
よし!!』
そんな言葉を聞かないように耳を、塞いでいつも安心安全のサデラルを…ペアに…
サデラル『マラ…悪い…もうペア作った…』
ザラルル『弱者に選ぶ権利など!なし!』
なんとサデラルのペアはザラルルであった。
どうやら、ザラルルが真っ先に声をかけて、サデラルが右目を失った経緯に関わりがあったので、なんとなくペアとなった形らしい。
ナオマ『悪いな…最大二人ペアなんだ』
サミナ『残念でしたわね〜!オホホー!貴方はミルマと組むのですよぉ!オホホー!』
そしてペアを見つけるために必死になってる俺を煽るようにあの主従関係野郎共は見下しながらそう言った。
ナオマ『そうです…バカお嬢様の言う通りです。謹んでお受けしろ』
サミナ『あ!ナオ!また…』
そんな二人のいつもの、バカじゃないわよ会話を遮るようにミルマは俺の方に少し少し近づきながらこう言った。
ミルマ『私たちは…運命共同体なんですよ?逃げられるわけないじゃないですか!』
俺『なんだよ!急に!ヤンデレみたいなこと言うな!』
そんな止まらないミルマの肩を一人の変態が叩き、言葉を続けた。
ザイル『ふふん、ならこのお嬢さんは私が貰いますね』
ザイルは仕方なく…とでも言いたげな表情だが、その心中は分かりきっている。こいつは性欲という物に満たされた者だからだ。
例え本当にそう思っていたとしても信用なんてできない。だってこいつ変態だもん。
ミルマ『は?汚ねぇ手で触んな』
そんな二人の、今にも喧嘩が勃発しそうな雰囲気を止めに入ったのはダマルンデである。
ダマルンデ『そんなに〜悩むなら〜私が決めちゃうわよ!』
ダマルンデはそう言いながら両手を合わせて数回叩き、言葉を紡いだ。
ダマルンデ『まず!ミルマはザイルとのペア!』
ミルマ『な!?』
この時、俺とダマルンデを除いた皆は同じ事を思っていた。
ダマルンデ…お前、人の恋路をじゃますんな、と。
そんな奴らにダマルンデは目もくれず、その長いまつ毛を上下に動かしながら言葉を続けた。
ダマルンデ『マータ、ムルムペアやナオマ、サミナペア、ザラルル、サデラルペアはそれで決定よねぇ!』
マータ『何でいつも同じペアなんですか…』
ムルム『ブエノ!』
サミナ『いつも通りですわ!』
ナオマ『そうですね』
ザラルル『ボス!よろしく頼むぜ!』
サデラル『ボス…ではない…』
サデラルとザラルルの間に何が起きたんだよ…
そう思考しながらダマルンデや他の人達を見ていた時、俺はふと考えた。これ、俺…まさか…
ダマルンデ『じゃ、マラとジェンナードがペアね!』
嫌な予感は的中してしまった。ジェンナードと言えば関わりたくない奴と言うのが俺たちの認識だ。
話しかけただけで罵詈雑言を浴びせられ、いつも自分の権力を棚に上げて、暴力を振るう始末…しかも教師に見つからないようにやっているので、改心もしない。
ジェンナード『……ッチ』
ジェンナードは俺に近づいて、俺にだけ聞こえるように舌打ちをした。
普通に怖い。
なんやかんやで、この戦闘授業も終わったわけだが…
ジェンナード『こっち来い』
ジェンナードはそう言って無理矢理俺を引っ張り出し、いつもジェンナードについていってる他のクラスにいる連中を今日も連れて俺をトイレの壁に叩きつけた。
ジェンナード『お前、何様つもりだよ』
そこからはボコスカボコスカと殴られた。足を蹴られ、頭を叩かれ、お腹を殴られて、そして周りの連中に嘲笑われた。今なら立ち向かえる力がある筈なのに。
ジェンナードが何故こんなにも怒っているのかと言われれば、その理由は三時間目にある。その三時間目の内容は試合だ。そんな試合の中で俺は、普通に負けそうであった。しかし、俺はなんとか固有魔法の血液操作を使い、試合を勝ったのだが…ジェンナードがそれを良く思うはずもない。
だから、こいつの気が晴れるまで、殴られるのを耐えればいい。安心しろ、俺はこんなの…痛くも痒くも…
俺はこんなの……痛くも…ない…はずなのに…
俺『やめて!もうやべてくださいぃ!』
いつのまにか、であった。俺はそう思っていなかったはずなのに…俺は無意識にそう言っていた。心の奥底に刻まれた記憶。いつもは耳障りにも感じた声すらも聞こえなくなっていた。
俺は涙を溢し、形容し難い程の醜い顔で、すすり泣いた。
俺のその様は実に滑稽なのだろう。
それを見たジェンナード達は再び笑ってこう言った。
ジェンナード『くそっ……!ハハッ!見たか!この顔!いい気分だ!ハハハハッ!』
そして再びジェンナードが俺に殴りかかろうとした時、一人の声が聞こえた。
サデラル『貴族の…汝…何をしている…』
サデラル『それ…は良くない…こと』
サデラルはジェンナードに怒りを向けたが、ジェンナードもまたその怒りに反発するようにこう言い、殴りかかった。
ジェンナード『ほざけ!』
ジェンナードの拳を毛に包まれた拳で受け止めた。その拳の持ち主はサデラルではなく、ザラルルであった。
ザラルル『ボスに……手出すんじゃねぇよ、弱者が』
ザラルルが殺気を帯びた威圧を放った。
その威圧は恐ろしい物で見ていた俺ですらそれを感じとれた程だ。
ジェンナードは『行くぞ』と仲間達に声をかけて、トイレから出ていった。そして、ザラルルは倒れた俺を見てこう言った。
ザラルル『てめぇのこと助けたんじゃねぇぞ』
俺『…分かってる』
これがツンデレの発言だったらまだ良かったが…あいつの場合は…
俺は息を詰まらせてそう言った。
自分の情けなさを感じながら…
ーーー食堂
俺は結局さっきあった話を忘れられずに、この食堂に来てしまった。
いつもならジノルたちと食べてたりするんだが…
生憎今はそんな気分じゃない。
そんな俺は一人で食べることにしたのだが…あいつらは、そうさせてはくれないらしい。
ジノル『おい!マラ!何処行ったのかと思ったら…』
サデラル『もしかして…あの貴族の…汝の…ことか?』
サデラルは先刻の出来事についてまだ悩んでいるのか?と遠回しに俺に言った。
はっきり言って図星だ。だが、友達の前でそう言った話はしたくないのだ。だから俺は嘘をついてこの話題を終わらせようとした。
俺『いや、何でもないよ…ただ忘れてただけ』
ジノル『忘れてただけって…』
そんな俺の図々しい言い訳にジノルは様々な感情が巡り、言葉を詰まらせながらも…首を横に振った。
ジノル『なんかあったなら……!』
俺『大丈夫だから』
ジノルはやや怒りの感情を解き放ちながら、俺にそう言った。その心境は怒りと心配が交わっていて実に複雑だ。
でも、俺はこいつらに助けてもらったりはしない。このぐらいの問題は…自分で…
そう考えて助けてもらおうとしている自分を無理矢理納得させようとした時、声が聞こえた。思い出したくもない声…恐怖の声。
『じゃあね…最悪の親友』
俺『あ』
俺はその一言と食べ残った弁当を残して気を失った。
ーーーーーーーーー
俺の名前は荒川魔羅…ひでぇ名前だろう?自分でも分かってるよ!まぁ!俺のクラスの奴らはそれをいじってないし!みんなよくしてくれるのが幸いだわ!
ーーー今日は学校へ…
ーーーな、何してんだよ…
ーーーやめてくれ!
ーーー待ってくれ!俺はお前の最高の親友だろ!?
『じゃあね、最悪の親友』
ーーーーーーーーーー
ロウド『なるほど…この記憶のせいか…未だに克服できないのは…ふむ…いっそこの記憶を消すか?いや、それは危険だ…どうしたものか』
ろ、ロウド?ここは?
ロウド『うるさいぞ、さっさと目を覚ませ』
俺は夢の中でロウドに殺された。
そして、現実の世界へと意識が再臨する。
ーーーーーーーーーー
俺『こ、こは?』
見渡す限り見覚えの…なくはない天井…見覚えの…なくはない、謎の赤シャツクマさん人形…
ここはもしかして…治療室か。
俺『にしても…』
あの記憶は…
あぁ…あの時に戻りたい…
俺『いやいや…何言ってんだ俺、もう過去のことは気にしないって決めただろう』
そんなこと言ってても、
結局俺は何も変わってないのか?
『あら、目が覚めたかしら?』
一人の声が聞こえた。その声は大人びた女性の声だ。
この先生は医療室を担当する医療先生、まぁ保健室の先生みたいな感じの人で、名前はメルメラと言い、みんなからはエロメラとも言われている。
メルメラ『あらぁ〜体、元気になったかしら?』
そう言って俺の体の隅々を人差し指でなぞっていく。
俺『あ!ちょっ!』
エロメラ『じゃ、始めましょうか〜』
そこから何があったかはご想像にお任せするとしよう…
ーーーーーーーーーーーーーー
『これは…まずい』
一人の教師がそう言った。彼女はSクラスを担当している教師、ヌルデールである。
そんなヌルデールの様子が気になって、ソファに座っていた体を起こし、ヌルデールの表情を伺いにきたもう一人の教師…その美しい狐耳を持つお方はこのサバカル学園の校長先生だ。名をデミレラと言う。
デミレラ『何をそんなに悩んでおるのじゃ?』
校長先生と言うと、老けているという印象を持つのが普通だろう。だが、デミレラは違う。デミレラは人間種に区分される狐耳族と呼ばれる者であり、その特徴は幼少期を超え、成人になった時から体が衰えないのだ。
もっとも長い間生きられる長寿な人間種の狐人族とは全く違うが。
狐人族と狐耳族の大きな違いは寿命や見た目だけではない。
一般的に狐人族は魔術を極め、狐耳族は武術を極める…これによって狐人族は遠距離戦にすぐれ、狐耳族は近距離戦に優れている。これがこの二種族の違いであり、世間の常識であった。
だが、狐耳族でありながら武術と魔法の両方を極めた者が一人いた。それがデミレラである。
彼女の残した戦績は数知れず、その功績もあり、今はこの学園の校長と言う立場についている。
ヌルデール『それに比べて…』
自分は…と言葉を続けようとしたが、それを察したデミレラはヌルデールの口先に人差し指を突きつけた。
デミレラ『妾は何を悩んでおるのかと…聞いたのじゃ、貴公の身の上話を聞きたい訳ではないぞ』
ヌルデール『そうでしたね、申し訳ございません…それで、何を悩んでいるのか?という質問でしたね…これを見てください』
ヌルデールはそう言って、自分が視線を置いていた資料をデミレラに手渡しした。
デミレラ『これは?』
ヌルデール『Sクラスの能力平均値のグラフです』
ヌルデールがそう言うのでデミレラはその資料に視線を置いた。
そしてその資料にはヌルデールが言った通りSクラスの能力平均値のグラフがあった。
デミレラ『これは…』
このグラフはどう見ても分かる程にきれいな右肩下がりであり、Sクラスの怠慢さが見て取れる。
デミレラ『どうして、こうなっておるのじゃ?』
ヌルデールはそう言われると分かっていたのか、その威圧には動揺せずに淡々と言葉を続けた。
ヌルデール『主な原因は成長できていないという点と学園生活への慣れがあります、学園生活に慣れてしまえば気の緩みが生じ、誰かの成績が下がれば一気に下がる…』
デミレラ『分かっておるのか?これは己の責任じゃぞ?』
ヌルデール『分かっております…………ですから』
ヌルデールは一旦言葉を切って、デミレラの方に視線を向けて、覚悟を決めたように言った。
ヌルデール『許可を、もらってもよろしいですか?』
ーーーーーーーーーー
俺『ん〜なんだろ…なんか嫌な予感が…』
俺がそう呟いたのには理由がある。本来であれば今ごろ宿屋に帰っているのだが、俺は今、教室にいる。
というのも、つい先程ヌルデール先生に教室で残れと言われたのだ。何かやらかしたんじゃないかと思いながら教室に行ったんだが…どうやら、呼び止められたのはジノルを除いたSクラスメンバーたちだ。
サミナ『どういうつもりで、呼んだのかしらね…わたくしの両親が待っていますのに…怒られてしまいますわ』
ナオマ『許可は取ったと言われたでしょう…バカ嬢』
サミナ『あ!ナオ!いよいよ…様も外したわね!』
ナオマ『おっと、これは失敬、申し訳ございません…口を滑らせてしまいました』
ナオマは口先に手を当てて口を塞いでるが、内心笑っているのは分かりきっている。まぁサミナはそれに気づいていないが。
そんな相変わらずなナオマとサミナ二人の馴れ合いを見つめながら、俺の体にひっついてくるミルマを手で退けようとした。
だが、そのミルマの馬鹿力に俺の腕力で対抗するのには無理があった。
ミルマ『にしても…何故呼び出されたのでしょうね』
俺『よく、その体勢で何事もないかのように話せるな、さっさと離せ!』
終わりそうで終わらないやり取りをしていると、突如力強く、ドアを開く音が聞こえた。
その扉を力強く開いたのはSクラスの担当教師である、鋭い眼光を持ったヌルデール・アミヤキである。
ヌルデールは教卓の前に立ち、目をより細め、背筋を垂直に伸ばし、感情を表には出さず、足を広げることで、威厳のある立ち姿となった。
ヌルデールは敢えて感情を表には出していないので感じ取れはしないが、その内に抑え込められた感情が怒りと呆れであることはなんとなく察しがついた。
何故そう思ったかと問われれば、ただの勘だ。
他の人からしてみれば信憑性はない。でも、だからこそ、俺はこれを信じて疑わない。当たらない時もあるが…だが、それもまた運命だと、俺はそう考え、
そう願っている。
心の何処かで、それはただの逃避でしかないと言うことを薄々感じながら…
俺はそうやっていつも逃げてきた。一人になれば逃げて、依存する物を見つけて…
仲間がいるから、俺はこうして楽しく生きてられる。誰かがいないければ、俺は無力で、非力で、無能だ。
ミルマ『ん?どうされたのですか?ご主人様〜』
そんな後悔の念に呑まれた俺の気を逸らしたのは元気に話すミルマだった。
いい意味で鬱陶しかった。俺は一呼吸置き、ミルマへの抵抗はやめて、ヌルデール先生の話に耳を傾ける。
ヌルデール『つまらん話は終わったか?よし!遠回しに言うのは面倒だ!単刀直入に言おう!』
相変わらずヌルデールの発した声の声量は大きい。最初こそ、その声に圧倒されたものの、何度も聞いてきた俺たちにとっては、慣れた物だった。
ヌルデール『貴様らは今度行われるクラス対抗戦にて全勝しなければ、退学とする!なんなら、殺す!』
俺『え、ぜ、全勝!?』
その文の後ろに出てきた『退学』や『殺す』と言う単語にも驚きはしたが、もっとも驚いたものは『全勝』と言う単語だろう。
そもそもクラス対抗戦がなんなのかも分からない俺だが、それでも全勝と言うのはやや無理がある気がしてならない。
案の定、ほかのSクラスメンバーも同じように驚いていて、その内の一人であるナオマが『絶対無理だって!』と言っていた。
ヌルデール『ふん、弱音を吐くのなら、さっさと退学でもなんでもするがいい!やる気のない奴は必要ない!…そもそもお前らがこの学園に入ったのは実力があったからこそだ』
『でも、いくらなんでも…』とナオマが口にした時、一人の獣が拳を突き上げた。
その獣人の姿は自らが負けることはないと、信じて疑わないという意味を伝えている。
ザラルル『ったく!情けねぇなぁ!それでもSクラスか?俺はAクラスだろうが何だろうが、元から全勝するつもりだ!だって!どう考えてもAより、Sの方が強いんだからよぉ!』
そんな的外れな考え方に皆は困惑したが、それでも、彼のその意思表示は皆に火をつけた。
サデラル『確かに…その通りだ…』
サミナ『ザラルルに言われたのは癪だけど、確かに!わたくしたちはSクラスなのだから、Aクラスより強いのは当たり前ですわ!』
ナオマ『相変わらずのバカ犬とバカお嬢様ですね…ですが、確かにその通りです、僕たちは強い』
ミルマ『いや、元よりその通りだけど、獣がしゃしゃり出んな…。ね!!マラ様!』
俺『え、いや、まぁそんなの当たり前でしょ』
ムルム『…フッ、ローヒコ!』
マータ『退学なんて御免です!』
ザイル『確かに!ところで、みなさん、今日のパンツの色は?』
各々が、各々の意思を露わにする中で、それを忌まわしく思う人物がいた。それはジェンナードだ。
彼は彼らのすべてを忌まわしく思い、彼らに聞こえないようにそっと舌打ちをした。
そんな各々の意思を見届けた者…ヌルデールは彼らの覚悟に続くように、対策を
ヌルデール『そして…だ!貴様らにはちゃんと教育してやる!明日から時石が百回回る時まで学園で合宿を行う!親に伝えておけ!』
時石が百回回るってことは一日が百回繰り返されるからつまり約三ヶ月!?
『えええええぇぇぇー!?』
俺たちはそのあまりに長い時間を学校で過ごすこととなったのだ。
次回 合宿




