第十八話 決戦の行先
短期決戦…両者とも冷静に…だが、素早く…相手を討とうと、思考し、命を奪おうとする。
35号に残された時間は少なく、それは、俺たちも例外ではない。天使が放つ矢の威力は非常に強力だ。
最悪、俺たちは逃げればいい話だが…
35号『排除』
途端に後ろからそんな声が聞こえた。
俺『…!?もうか!ウィンドステップ!』
俺は風を利用し、前に半回転し、拳銃を強く握り、後ろにいた35号を狙おうとした。
だが、そこに35号の姿は見当たらなく…
ザイル『マラちゃん!後ろ!…っく!黄光視遮!』
俺の後ろに回り込んだ35号をザイルが黄色光の球を35号の目の前に来るように投げたが…
35号『その対策はもうしましたよ』
35号がそう言うと左手の盾を変形させ、黒い物体が、ドーム状になり、俺と35号自身を閉じ込めた。
35号『黒は光を吸収する、これならば、威力を弱められるだけでなく…こういう事もできます』
35号がそう言うと黒い物体の色がたちまち白色に変わっていき…
35号が『放出』と呟くと、白い物体から光が放たれた。それもこの場にいた俺と35号を除いた全員の視界が塞がれるほどに
35号『排除』
35号が再びそう呟き、俺に光る矛を向けた。
しかし、今度はまた別の奴がそれを妨害した。
それはジロルであった。ジロルは両手に手袋【雷痺の手】を身に付け、両手を合わせて銃の形を作っていた。
ジロル『エレキバースト!』
ジロルがそう叫ぶと、その両手から雷が放出され、その雷はイナズマを描くように上から下、下から上…と上下に動きながら、とてつもなく速いスピードでその雷は35号に直撃した。
35号は慌てて、体の中に流れる電気を止めようとするが…間に合わない。雷が直撃した35号はその体の核こそ無事だったものの、他の部位は高電圧により故障してしまった。
35号の体は煙を立て、バチバチと電気音が鳴り響いた。
35号『き、機械であるデメリット…』
35号がそう小さく呟くと、その不可思議な程に落ちついてる35号を見て、ソルサさんがこう叫んだ。
ソルサ『みんな!離れろ!』
35号『まだ…時間は余ってる…やれることはやってやる…』
35号はそう言って真っ先にジロルの方に右手の光線剣を突き刺す構えを取り、突進した。
ジロル『あ…』
ジロルはさっきの魔法の代償なのか体がガクガクと震え、動けないようだ。
俺『させるかよ!』
俺はそう叫んでソルサさん…金色の拳銃を握り締め、その鋼鉄の体を貫かんとして撃ちこもうとした。
だが、当たらない、そもそも俺は相手が止まっていてくれないと、ろくに胴体に当たられないぐらいのエイムで元々FPSが苦手だったんだ。
俺『やべぇやべぇよ、もうこうなったら…』
俺が自暴自棄になり、銃を乱射しようとした時だった。
一人の叫び声が聞こえた。
『待てよ!』
生死のやりとりの中、ザイルはその胸の内を明かした。
ザイル『ジロルちゃんに…まだ…エッチなことしてねんだぁよぉぉ!』
心に溜め込んでいたかも怪しい感情を喉を絞り出す勢いの大声で吐き出した。
ーーーーーーーーーーーー
ザイルは何も生まれつきから変態だった訳ではない。いや、そんなことはないのかもしれない。
ザイルの幼少期の心は清らかな水色であった。
何をやるにしても真面目で、親が貴族だったこともあったので、礼儀も弁えていた。
もう気づいているかもしれないが、ザイルの親は何人もいる、だが、その全ての親が死に至っている。肉親はザイルが我を持たない時からいなかった。故にザイルは生きる場所を転々とした。
ザイルの二番目の家族は強く、厳しかった。
そして死んだ。
ザイルの三番目の家族は優しく、愛してくれた。
そして死んだ。
四番目の家族は厳しかったが、愛してくれた。
そして死んだ。
五番目の家族はクズで、最低だった。
そして死んだ。
六番目の家族は無関心で、何もしてくれなかった。
そして死んだ。
七番目の家族は魔法使いで、魔法を教えてくれた。
そして死んだ。
八番目の家族は母が病弱で死に、父が狂った。
そして死んだ。
九番目の家族は楽しく、面白かった。
そして死んだ。
十番目の家族は……死んだ。十一番目の家族も…
ザイル『もう、家族を作るのはやめだ。』
ザイルが家族を作ることを…生きることを諦めようとするほど…
そんな過酷な環境で生きたザイルであったが、そんなザイルに転機が訪れて…しまったのだ。
ザイルの十二番目の両親は研究熱心な人たちだった。彼らは彼のことを子として見てくれていなかった。だが、それでいいとザイルは思った。なぜなら愛を持ってしまったら…その両親が死んだ時、悲しく思ってしまうから。そんなのはもう懲り懲りだ。
そもそも、両親なんてもういらない。ここにいるのは不可抗力で…もういいや、考えるだけバカバカしい、もうなんでも好きにしてくれ…彼はもう自由を捨てた。
彼の両親はザイルの両親になった者な何故か死ぬ原因を解明するため…そしてザイルの固有魔法を解明するため、教会へと向かった。その教会の名はイグレシア教会。いや、教会の名前とかどうでも良くて…
その教会でザイルの持つ2つの固有魔法と1つの影響魔法が確認された。
ザイルは黄光視遮と快感魔増と言う固有魔法と、魔神の呪いと言う影響魔法を持っていたのだ。
魔神の呪いは家族を死に至らしめた原因。
快感魔増と言うのは、その名の言う通り、快感を得ることで魔力が増幅するというものだ。そしてこれによって得た魔力は普通の魔力とは違い、固有魔法のみに適用されるらしい。歴史上でもこの魔法を持った者は皆2つ以上の固有魔法を持っていたらしい。
そうそれが何回親が死んでも変わらなかった彼を変えた原因だ。彼がまず標的にしたのは両親だ。両親にセクハラを行い、快感を得た。その時得られた魔力は恐るべき物で、ザイルは長年の十二番目の両親に対する恨みを解消し、実に嬉しがっていた。
その時の『何してるの!?』と言う表情は今でも覚えている。何せ、両親はずっと無表情だったからだ。
それからと言うもの、彼はひたすらにセクハラを続けた。それが正しいことだと信じて。
こんな言葉を聞いたことはないだろか。
癖は習慣になる…と。
そう彼はセクハラすればするほど気持ちよくなり、癖となり、習慣となったのだ。
もう…誰も元の彼に戻すことは出来ない。一時期はザイルもそう思っていた。だが、彼はそこである結論を出した。
それの何処がダメなのか。別に恥じる必要はない。いくら変態と呼ばれようが、笑って怒って『そうだよ』と答えれば良い…と。それが快感なのだと。
そこで彼は初めて、思想を持ち、自由を手に入れたのだ。
そんな中だった。いよいよ十二番目の家族も死んだ。
慣れとは実に怖いもので、今まで両親が死ぬ度に泣いていたのに、今回は泣けなかった。なんなら、五番目の家族の時から泣かなくなっていた。
だけど…思えば、この人達がいなかったら、今の彼はないだろう。一度も子としては見てくれなかったが、それでも悪くない生活だった。五番目の家族よりはマシだ。
ザイル『さ〜てと、どうしよっかな〜』
行先をどうしようか、何をしようかと思い悩む彼は、十二番目の両親の部屋にあった。とある学園のチラシを見つけ…新たな生活に心を弾ませるのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
否否否!!!そんなの些細な理由だ!確かにその気持ちもあるが!私はただ!全世界のパンツをチラチラしたいだけだぁ!!
ザイル『……っは!』
ザイルは黄光視遮を繰り出そうと、光の玉を35号の目の前に放り込んだ。
35号『だから、もう、対策済み!!』
35号は自分の目となる部分を黒色で、サングラスのような形に変形させた。
俺『さっきより、短縮化されてる!』
ザイル『なら…これでどうだ!黄光…………貫通!』
ザイルは黄光視遮、いや、黄光貫通により35号の体を貫いた。
35号『っぐ!?』
俺『まじか!』
ソルサ『良くやった!…よし!ガンノールくん!私を使って!あいつの頭を、核を貫いてくれ!』
ソルサはチャンスがやってきたとそう叫び、その最後のとどめを俺に任せた。だが、それは俺に任せるべきではなかった。
俺『あ、頭、頭貫けばいい…』
俺はそれを意識すると、途端に体が震え出した。
ソルサ『どうしたんだ!ガンノールくん!取り返しがつかなくなってもいいんですか!?』
…何故撃とうとしないのか…緊張しているから?怖いから?……本当に?
俺『なんで…こんな…』
そんな意思が絡み合った俺の中の混沌なる世界を照らすような光がその世界を消し去り、俺たちの体を照らした。
そして新たに作られたその世界には正義しか残ろうとしなかった。
35号『くっ、タイムリミットか』
天使の光が降り立ったのだ。
それは天使がこの場に生誕したことを差し、文明の破壊を始めるのに残りほんの数分となった。
35号『もうほとんど時間がないか…なら!』
35号は両手を天高く広げ、
おびただしい電力が濃縮された玉…その大きさは天を覆い尽くすほどには至らずとも、このだだっ広い教会のほとんどを覆いつくすほどの巨大な玉を35号は、作り出したのだ。
35号『せめてこれで…』
35号は両手を振り下ろし、その巨大な玉をマラたちに迫ってきた。
この玉は今35号の持っている電力を全て凝縮させ放出したものだ。この玉が全て消えて終えば命はない。
だが、生きて帰ってこいと言われている今死ぬつもりはない。
35号『ならば、するべきことは1つ』
俺『くっそ!もうどうにでもなりやがれ!』
マラは碌に考えもせずに感に任せて、銃の引き金をひいた。
それは電力の玉を貫いた。だが、どうにでもなれや精神で放たれたものでは…35号には当たらなかった。
35号『よし…貫かれてしまったが…』
35号はそう呟くと放った電力の玉を再び吸収した。
俺『え?』
ソルサ『何を…』
でっかい玉を放ったのはあくまで囮、その内に小さい機械虫を飛ばして、マラの持っているカードを盗みだしたのだ。
俺『あれ?カードが無くなってる!?』
ソルサ『いつの間に…』
35号『じゃあな』
35号はそう言って機械虫からカードを入手し、逃走しようした。だが…
ソルサ『そんな…簡単に行くと思うか!』
ソルサはその体の金色を光輝かせながら、怒りの感情を露わにした。
ソルサ『ガンノールくん!私を投げてください!』
俺『え?』
ソルサ『いいから!早く!』
俺『は、はい!サイクロンリターン!』
俺はソルサさんを風に乗せ何とか35号に向けて飛ばしたが…
ソルサ『まだ、距離が足りない…くそっ!』
ソルサは言った。
ーーもはや、策は尽きた。任務は失敗だーー
そんな時…一人の声が聞こえた。
ザイル『マラちゃん!力を貸して!』
ジロルが仁王立ちし、そんな彼の両足を持ち上げたザイルがそう言ったのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
『これが今回の任務ですか?なんだか容易く出来てしまいそうですね』
『ハハッ、ま、てなわけで、今回は神話教会に言って…信頼を得てほしいんだ』
『ですが、一体どうして?』
『教えてあげな〜い、後…これ追加なんだけど…』
『何でしょうか?』
『君には怪盗Mになってもらって…すぐに、神話教会を抜けてほしいんだ、そうすれば新しい怪盗役が必要になるだろうし…あ、変装もちゃんとやってね…その任務が終わったら、また同じ場所で新しい任務を与えるから』
『承知しました…リベルター様』
『あ〜今はリベルターじゃなくて、ゾルゲンだからね、そこんとこよろしくね、ソルサ』
ソルサ『仰せのままに、ゾルゲン様』
ソルサはそう言って深く、跪いた。
だが、ソルサには分からなかった。
いや、リベルター…ゾルゲン様が与えてくださる任務はいつも同じく、意図が分からない物で私にも教えてくださらなかったから。
だけど、今回はいつも以上に意味不明だった。
何故、こんな奴らを主役にしようとするのか…
ーーーーーーーーーーーー
ソルサ『だが、今になって分かった…何故お前らを選んだのか…』
それは…強いからだ。もちろん単純な強さで言うならそこまで強くはない。この世界には他にも強い奴は五万といるから。
だが、彼らの強い所は恐れに屈しないことだ。
もちろんただ恐れを知らないだけではただの馬鹿だ。
しかし、彼らは違う。彼らに恐れがないわけではない。彼らはちゃんと戸惑うし、ちゃんと怯える。
じゃあ、何故屈しないのか。簡単に言うなれば、彼らには勇気があるのだ。
それは彼ら一人一人が持つのではなく、彼ら全員で補い合い、勇気を得ているのだ。彼ら一人一人に壮絶な過去があろうとも関係ない。
幼いからこその勇気。互いの過去を知らないからこその支え合い。
ザイル『いっせ〜』
俺『のーで!!』
ジロルがザイルとガンノールの背中を蹴り上げるようにしてガンノールの風魔法を得た足で高く飛び、ジロルの固有魔法、蝶々稲光によって、ジロルに蝶の羽が現れ、稲妻のような速さですぐさま、私を手に取り、希望の光が天空を貫かんとする威力で投げた。
良くやってくれた…これならば!
私はそう意気込んであの固有魔法を発動させる。
ソルサ『空間形成!』
ソルサがそう叫ぶと、ソルサの中に四角形の空間が出現し、その空間はどんどんと大きくなり、35号を通り抜けた。
35号『な!』
35号がその空間から抜け出そうとする。
35号『はぁぁぁぁっ!』
ソルサ『バカなっ…!』
ソルサがそう呟く程にこれは想定外だったのだ。
35号は空間に亀裂を入れ、今にも外に出ようとしている。
俺『くっそ!逃げられるぞ!』
ジロル『させません!』
ジロルがそう言って35号に止めを刺そうとするが、
ソルサ『いや、その必要はないよ』
ソルサは一言、誰にも聞こえない声でそう言って、固有魔法を唱えた。『四方転移』と。
そうすると、亀裂の入った空間は小さくなり35号とソルサは消えてしまった。転移したのだ。
ーーーー
ザイル『消えた…?とりあえず…うまく行ったってことで言いかな?』
ザイルは安堵の表情を浮かべ、ジロルは魔力が切れたことで気絶しているが、その表情はやり切ったという達成感を得た…そんな笑顔だった。
そして、それを察知したのか…すぐさまリベルターが駆けつけた。
リベルター『お〜やっぱり、君たちは優秀だな〜あ、マーラくん!はい!ロウド返してあげるよ〜』
リベルターは俺の名を親しげに呼び、ロウドを俺の心の中に再び戻した。
ロウド『…っち!まさかこいつの中に入ることになるとは…大層居心地悪かった』
ロウドは心底嫌そうな表情でそう言った。
俺『え』
ロウド『なんだ?』
彼は驚いた。何に驚いたかと言われれば、彼はこう答えるだろう。
ロウド『これは…誰の視線だ?俺は何を見てる?』
ーーーーーーーーーーー
彼は死ぬ。もし、いち早く逃げていたら天使の目から逃れられたはずなのに…そうこれは、彼の…35号のいや、そうじゃない…これは彼らの…視線だ。
次回 仮面レジスタンス




